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灰樹

2月7日。

―tale―60階、6025号室に午後9時に来い。


「寒い……頭痛い……帰りたい……」

コートの前を掻き合わせると洸祈(こうき)は背中を丸めた。

tale――メインストリートに位置する超高層ビルの名だ。


差出人不明。

崇弥(たかや)洸祈宛。

『どー思う?』

『軍か……政府か……こんなの出しそうなのこれくらいしか思い付かないよ』

『……政府?』

『人目についても大手を振れるのは政府だからねぇ』

『情報でもくれるのかな……』

『ないない。行かない方がいいと思うけど』

『でも……一応は……差出人書いてないの間違いかもしれないし』

『なら、個室に呼ぶかい?』

『聞かれたくないとか』

『行くならそれなりの武装するんだよ?心配だから』

『ありがと』

二之宮との会話。


1階には巨大な舞台がある。そこでオペラやらなにやらをするのだ。

2階には小会議室等。

3階にはレストラン等。

4階からはホテル。

当然、階が上がるほどその値段は高くなる。

60階は最上階。

つまり……金持ちだと思われる。


「あったか……」

中は温かい。

私服の洸祈は人目も気にせずにエレベーターを押した。降りてきたエレベーターには誰もいない。ボーイが近付く前に洸祈はそれに乗り込むと59を押した。

銃、ナイフ、陣紙。

ある……ある……ある。

然り気無く体に手を当てて武器があるのを確認して、それら全ての位置を脳に叩き込む。

――リン――

59階。

「大丈夫だな」

怪しい人陰なし。一応胸を撫で下ろした洸祈は上への階段に足を掛けた。

「案外手薄」

というか誰もいない。

無邪気な笑い声が凭れた壁の中から聞こえるぐらいだ。




しかし、


「油断した…」

現在、上着をひん剥かれた洸祈は柔らかなベッドにジーンズとワイシャツ姿で転がされていた。

勿論、上には白銀の青年が……――






【数分前】


ポーン

「……腑抜けた音」

6025のプレートを睨んだ洸祈はふぅと息を吐いた。

ガチャガチャとドアを開けようとする音。

洸祈は身構え、


引きずり込まれた。



暗い。見えない。

カチャ

退路が絶たれた。

誰だ?

ガンッ!!

「って!」

踵を打った。

カーテンは何処だ?

これはベッド。

もっと奥だ。

首を護りながら奥へと素早く後退る。

触った。

洸祈はカーテンは一気に開け放った。

部屋が薄暗く写し出される。手紙の主は……!?

それは、見えたような気がした時だった。

微かな笑い声の後、洸祈はベッドに抱き付くようにされて転がった。

「頭いてぇ……」





そして、現在に至る。



「久し振り」

白銀の青年は変わらぬ顔で微笑んだ。

琉雨がくれた深緑のシルクのネクタイに後手で縛られた洸祈は手紙の主を睨む。

「ほっんと久し振りだな」

「うん、久し振り」

頭痛いのにプラスして変なのがきた。

「この布団ふわふわ……寝かせてくれよ……」

頭痛いの治るかも。

洸祈は会話を終了させてベッドに身を預けた。

「やだ。こんなとこに呼んだんだから俺のしたいこと分かるだろ?寝かせるつもりはないんだけど」

だろうな……。

陽季(はるき)は手慣れた風に洸祈のワイシャツの釦を外していく。洸祈は身を捩ると俯せになってそれを阻止した。

「頭いてぇの。そうじゃなきゃ捕まんなかった」

「じゃあ、今しかチャンスはないわけだ」

なぜそう解釈する。

「マジなんだけど。今も喋る度にずきずきする」

考えると痛みが増す。

すると、陽季はうっと唸った洸祈を反転させた。

そうして、洸祈に跨がった陽季は洸祈の額に手を当てる。

「熱……ある」

そうなんだ。

痛いだけかと。

「そして……ナイフに銃がある」

ちゃっかり抜き取られていた。陽季は何でと恐い顔して洸祈を見下ろす。

「不信だったから」

「何で?」

何でって……そりゃあ……。

「差出人不明」

だったからだよ。

「え?……書き忘れてたんだ」

陽季は一人で納得。

そういうオチですか。

「分かった?熱あるからそっとしてくれよ」

「そんな……今日やっとこさ学習の成果が出せるかと思ったのに」

着々と準備すんなよ。洸祈は陽季のその意気込みに寒気を感じる。

「今日を逃したら……次はいつ会えるか……」

陽季の悲しそうな瞳。洸祈は自分の好きなそれが濁ったのを見て、ぐっと息を呑んだ。

卑怯だぞ……馬鹿。

「何する気?」

「きもちいこと」

「具体的には?」

「実際にやってみればいいじゃん。な?」

よくない。

体を起こした洸祈は陽季に背を向ける。

「何?」

「ほどいて。これ、琉雨(るう)がくれたから大切にしたい」

「琉雨ちゃんばっか……」

むすっと膨れた陽季は渋々と洸祈のネクタイを外した。

その瞬間、

「着物って脱ぎやすく?」

下に敷かれた陽季は洸祈に上を剥かれてじたばたする。

「おい!」

「実際にやってみればいいんだろ?(あおい)が下に敷かれてくたくたになってたから俺は上ね」

「まさか……葵君は初体験はもうお済みで……?」

滅茶苦茶怖じ気づいているのは陽季だ。

「ちぃのリードで」

千里(せんり)君?マジ!?」

「マジ」

……………………………………。

「何すりゃいいの?陽季」

「俺がやる!洸祈退け!!!!」

「矢駄。何?やっぱここ?」

「ひゃ!やめろよ!!」

「もっと可愛い声だしてよ」

「うっ……」

「陽季?」

「馬鹿!馬鹿!洸祈の馬鹿!」

「うわっひどっ」

「俺に触んな!!」

「っ……な!!?」

「俺がやる!」

「いい」

「良い?」

「遠慮するだよ!」

「えっと………ここを……?」

「やめっ!」

「え~と……次は……ここ?」

「ひっ」

「で、っと……どう?」

「っ触んな!!俺に任せろ!!!!」

「んだと!俺は勉強してきたんだぞ!!!!」

「俺がやる!」

あぁ、やっぱり。

「俺がやる!」

俺と陽季って…―

「馬鹿陽季!!!!!!!!!」

「馬鹿洸祈!!!!!!!!!」

ほら、餓鬼みたい。

「ばーかばーか陽季のばーか」

「ばーかばーか洸祈のばーか」

いっつもこうだ。

………………っ……………。

………………すぅ………………。

『このっ―』



―ごちん―



「馬鹿は二人ともだ!!!!!!!!」


俺らはバカです。


洸祈撃沈。

陽季撃沈。

高級感溢れるベッドメイクは酷く乱れ、互いの衣服に手を掛けた二人は上半身裸でベッドに突っ伏した。

双灯(そうひ)ぃ!」

陽季は着物に拘束されながらも双灯を睨目上げる。

陽季を無視した双灯は洸祈にワイシャツを羽織らせた。

彼は、ありがとうございます。と軽く頭を下げる。

「うん。洸祈君、俺の部屋に来なよ。熱出てんだろう?陽坊と馬鹿って言い合って熱酷くしたらなあ」

「う~」

額に触れた双灯の手のひらの冷たさに洸祈は目を細めた。

「今から俺ら二人ですっげー濃い初夜を過ごすの!邪魔すんなよ!!」

「このエロ餓鬼!陽坊、いつからこんなにエロくなった!!まさか…俺のPCで官能小説読んでたのお前だな!!!?」

事前学習って官能小説かよ。

ムカつく……。

洸祈はかくっと双灯に体を預けると温まった手を彼のシャツに滑り込ませた。

双灯は微かに目を見張る。

「エロサイト見てた双灯に言われたくないな」

そんなこと知らずに陽季はあーやだ。とベッドに転がった。

今の陽季には双灯の前で洸祈がベッドに腰掛けているようにしか見えない。

「洸祈君!何する気だ!」

双灯の囁き声。洸祈は朦朧とした意識の中で双灯の体をまさぐる手を増やした。

いい体。

筋肉あるなぁ……。

洸祈の戯れは続く。

「一通り見させてもらったけどやよさんには劣るね」

陽季は洸祈の髪に手を伸ばして笑う。

「変な目でやよちゃんを見んじゃない!」

双灯は体裁を取り繕いながら洸祈の片腕を掴んで引き摺り出そうとした。

しかし、


疼く。


胸が疼く。

「双灯さん、行こ」

洸祈は双灯の腕を引くとベッドから降りる。

「ちょっ!洸祈君!!」

当然双灯は洸祈の行動に動揺した。視線で陽季を見るが陽季は逆にイラついたようでふんっと鼻を鳴らして手で払う。

「陽坊!」

「洸祈の看病よろしく」


もしこの時、陽季が洸祈の異常に気付いていたら……――

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