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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
谷の子供達
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谷の子供達(4.5)

(はる)ー、シャンプーまだぁ?」

「はい、(あき)君」

伸ばされた秋の手に、千鶴(ちづる)はシャンプーのボトルを置いた。

「ありがと、ちづ…!!!!!?」

「何なら私が洗おうか?」

「いいって!それより、俺!分かる!?俺なんですけど!!!!」

流石の千鶴も言いたいことは分かる。

だが、

「大人になると、きっと、洗われるの嫌がるだろうから、今の内に目一杯可愛がらないと」

という、真っ当な理由があるのだ。

「やめて!ホント俺、大人じゃないけど思春期真っ盛りなの!!」

エプロンをし、袖を捲し上げた千鶴はシャンプーの液を手に付けて、秋の茶髪に触れた。

「ねぇねぇ、秋君、カッコいいからモテてるんじゃないの?」

「俺?んー…まぁまぁ。クラスの奴等より一桁多くチョコ貰うくらいは」

最初は優しく、ゆっくりと泡立てていく。

「一桁も!?モテモテだね。彼女も一人や二人?」

「千鶴姉さん、二人いたら二股だから」

「でもいるんでしょ?」

「長く続かなくって」

先ずは耳の裏。

「どうして?」

「何かさー、一緒にいると飽きてくる」

「そうなんだ」

次はこめかみの後ろ。

「都会の子は遊び好きだと思ったけど」

「遊び好きだよ?」

「じゃあ、何に飽きるの?」

「話に飽きる」

頂点は優しくしないと、秋は嫌がるのだ。

「どんな話をしているの?」

鏡を通して見える秋の茶色がかった、瞼に半分隠された瞳を見詰めて訊いた。

「誰がウザいだのキモいだの、誰がヤっただのヤらないだのって言うような下品な話」

「秋君はいい子ね」

前髪をそっとかき揚げ、生え際を洗う。

「てか、ついてけない。田舎の血かなー」

そう言って目を閉じたその表情は暗かった。


…―そんな寂しそうな顔をしないで―…


「私達が秋君頃の時は、そーねぇ……………」

「千鶴姉さん?」

ふいに止まる千鶴の声。

秋は目を開け、鏡越しに千鶴を見上げた。


ぽたり。


「泣いてる?」

「………………………ううん」

千鶴は手を止めると、シャワーの蛇口を捻る。温度をみると、何も言わずに秋の髪にかけた。

「ちゃっかり俺、千鶴さんに洗われてんのな」

「…………………………うん」


ぽたり。


二人の会話はそれっきりになり、シャワーの音だけが響く。泡は秋の頬と背中を滑り、排水口へと落ちていった。

「………千鶴姉さん…」

「………………うん」

「サービスとして付けといたげるよ」


「…………………………うん」


水滴は秋の髪から首を滑り、鮮やかな金髪を濡らして千鶴の目尻を通る。


ぽたり。


「秋君」

「ん?」

「私達…最高の友達だったの…四人で…いっつも笑って」

私達は(りん)の明るさや優しさに惹かれて集まった。

「時には大喧嘩して…仲直りして…」

林がいたから、私は柚里(ゆり)(しん)に会えた。

「なのに…林を失って…柚里を失って…」

「千鶴姉さんはひとりぼっちじゃないよ」

千鶴の手を引いた秋は、耳を赤くしながら言う。

「秋君…」

「おじちゃんも言ってたけど、千鶴姉さんの子供も…会えなくても生きてんだし……それに、傍には俺達がいるし…」

ぶきっちょなのは小さい頃から変わっていないようだ。

「ほんとに秋君も皆、いい子っ」

千鶴は服が濡れるのも構わずに秋に抱きついた。

「ちょっ!」


「あーっ!!!!」


高い少女のような声。

寝巻きを取りに一時帰った彼が立っていた。

「しゅ、修一郎(しゅういちろう)!?」

秋は短い悲鳴をあげると、替えの服を掴んで修一郎の横を通り過ぎる。

「秋っ、待ってよ!」

修一郎も秋を追って出て行った。



「二人とも仲良しね」

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