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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
惨殺掲示 【R15】
69/400

涙(2)

洸祈(こうき)が仕事中に爆発に捲き込まれて骨折と打撲で入院していたが、

失踪。


はや1ヶ月は経っている。





俺は眠る前の至福の読書を邪魔するように鳴った電話の子機を荒々しく取った。


「はい」

その時、自分でも驚くぐらい低く、獣が威嚇するような声音が出た。

『あ…(あおい)?』

びくびくした窺うような声。


この声…!!!?


俺はその声に自らの声音に驚くよりももっと驚いた。

立ち上がりかけた俺は俺の膝枕で眠る千里(せんり)を落としかけて、慌ててソファーに座り直す。千里が膝の上で寝返りをうった。

一呼吸吐くと、極力声量を小さくして一番聞きたかったことを訊く。

「元気?」

『…あぁ。元気だよ、葵』

「すっごく心配したんだから」

『ごめん』

でも、元気なら良かった。

「今どこ?」

『母さんの実家』

母さんの実家は…谷。

俺は安堵から肩の力を抜いてソファーの背凭れに体を預けた。手から子機が滑り落ちる。

カツッ…なんか硬い音だ。

と、股のところで何かが蠢いていることに気付いた。

「ん?」

「…うぅ…痛い…」

千里だ。

子機がぶつかって起きたようだ。唸った彼は頭を押さえて頭を俺の膝に押し付ける。

てかっ…そこはっ…!

「千里、離れろ!」

俺は千里を無理矢理端に退かした。

少し理不尽だがしょうがない。

千里が動くからいけないのだ。

膝の上で動くからいけないのだ。

しかし、優しく退かしたつもりが、力が籠ったのか、千里がソファーから転がり落ちた。

「ぐっ」

あ、鼻打ったな。

俺は妙に醒めた頭で冷静に判断し、千里の頭を打った子機を取り上げていた。

「それで?ここ1ヶ月どこにいたわけ?」

『…………』

呼吸音が聞こえるから無言のようだ。

琉雨(るう)ちゃんには心配させたくないから見舞いはどうにか止めた。警察に届けようかと思ったけど」

『しなかったよな?』

「そりゃあね」

役人の世話にはなりたくない。

その先には洸祈が骨を折った仕事を依頼した政府がいるのだから。

「洸ー?」

等と明るい声でいいながら、頭を擦る千里の顔は怖い。

そんなに痛かったか?

『ちぃか』

「今ねー、お兄さんが居ないお家でエロいことしてるんだ」

爆弾発言。

『琉雨と(くれ)がいんだぞ!』

その言葉は洸祈と一緒に俺も言わせてもらいたい。

が、

千里はニコニコなオーラだけ出して、唇を重ねてきた。

確かに洸祈がいない間、千里は心配だよ。と言いつつ、キスの回数は増えるわ…勝手に風呂に一緒に入ってくるわ…。

それでも期待している自分が憎い。

でも、未だに戯れみたいな触りっことキスしかできていないのだからしょうがない。

「わけない…よな」

「何考えてるの?今はそれどころじゃないでしょ?」

その時、一度唇から離れた千里の舌が俺の首筋を舐め、噛み付いた。

「っあ!!!」

またかっ!

どうしていつも噛み付く!?

「こー、よく聞こえてる?」

『ちぃ!』

くすくす…―

千里の指先は噛み付かれて脱力した俺のパジャマのボタンを外しにかかる。

洸祈の焦り声のBGMの下で1個…2個…と笑いながら。

「せんっ…電話」

俺はどうにかそれだけは言う。

千里は頷いて子機を俺の口元に持ってくると、問答無用で深く口付けをし、わざと淫らでやらしい音を出す。洸祈に聞こえてると意識すると火照りが止まらず、逆に千里の攻めをいつも以上に感じて、口の端から漏れる声も止められない。

暫くこうしていた。

「ってことで、ここからはお子様は禁止だから」

「あっ!!」

本当に楽しそうな千里は、俺の体の隅々を撫で回す。

背中を撫でたり、尻を撫でたり、太股撫でたり…お前はオヤジか!!!!

『ちょっ!葵、大丈夫か!ちぃ、無理矢理じゃないよな!』

そんな洸祈は優しい。

「疑うの?言ってあげてよ、あお」

開けたシャツから覗く素肌に頬を猫のように擦り付けてくる千里。

くすぐったい。

だから、本音とは裏腹に俺は、

「やめ!離れろ!」

と、反射的に叫んでいた。

洸祈の息を呑む音。

千里はポカンと口を開け、「嫌がるあおはちょーそそるね」と、胸の尖りに噛み付いてくる。

「あっ!」

「今日は…洸が見付かったお祝いだね」

それは受話器の向こうの洸祈に向けられた言葉。

「あお、あの時はキスしたね。あの時はパンツ一丁で二人で触れ合ったね」

何をばらしてるんだ!

「あの時は僕ら、生まれた時の姿でいいかな…一緒に抱き合って眠ったね。あの時はあおだけ気持ち良くしてあげたよね」

何を…―

「でもあお…次は僕も気持ち良くしてよ…」

これらは俺だけに向けられた言葉。

『葵、帰るから!お兄ちゃんは帰るから!』

洸祈の言葉はもう入ってなかった。

頭に詰まっているのは千里の言った意味を考えることだけ。

あの時は千里が「まだ怖い」と言った俺を膝に乗せて、少し違和感があったけど、気持ち良くしてくれた。

次は?

千里がしたように俺が千里を気持ち良くする?

それって…―

『洸祈さん!?

(はる)、俺、帰る!お世話になった。ありがとう。千鶴(ちづる)さんにも伝えてくれるか?

え?あ…ああ…分かりました。行ってらっしゃい。

行ってくる…―』


…―千鶴さん―…


あ…。


千里の動きが止まった。

ぴっ。

彼は俯き、俺の胸に額を押し付けて子機の電話を切る。

「千里」

「……………………なに?」

泣いてると思った。

しかし、言い返そうとした俺の邪魔をするようにキスをしてきた彼の表情は、俺が力一杯抱き締めてしまうほど苦しそうだった。

「あお?どうしたの?」

「お前は俺達の家族だ。琉雨も(くれ)も欠けちゃいけない。洸祈も欠けちゃいけない。勿論……お前も欠けちゃいけない」

「僕は……母さんが好きだよ」

「うん。千鶴さんも欠けちゃいけない」

それにしても…―

「お前さ、笑うのも泣くのもヘタクソ」

「うるさいよ!」

笑うとか、泣くとか、

すっごく…―


「微妙」


だけど、

「だけど…―」



嬉し泣きとか、

すっごく…―



「最高の顔だよ」



ご褒美に今日ぐらいは千里の望みを聞いてやろう。


千里が泣き顔に必死に歪んだ笑みを浮かべて大きく頷いた。






「洸に手紙…来てたの言い忘れてたね」

千里は口で呼吸をする葵を抱き締めて言った。

「………あ…あの手紙?」

「うん。でも、明日には帰ってくるからいっか」

眠そうにする葵の手を布団の中で握った千里は小さく笑う。

すると、葵はもぞもぞと動きだし、亀のように背中を上にして丸くなった。

「あお?」

「かた…づけ…なきゃ」

どうにか起き上がろうとするが、千里からだとただ停止しているだけに見える。

「あおには沢山気持ち良くしてもらったから、明日までに僕が片付けてあげる。だから―」

千里がそう囁くと、葵は耳まで赤くなった顔を隠すように千里に背を向けて丸まった。

「おやすみ、あお」



「………………………おやすみ……千里」

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