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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
惨殺掲示 【R15】
67/400

信用商売(6)

…アリアス・ウィルヘルム……―



『迎えにきたよ』


月葉(つきは)…お前…」


洸祈(こうき)は月葉を見上げた。

「ええ」

ヒールを鳴らしてアリアスの隣に立つ月葉。

「あたしはこっちの人」

『そういうこと』

黒髪に黒服。

全身が黒のアリアスは洸祈に歩み寄った。

「来るな!」

『片手に片足では逃げられないね』

ヒタリと伸ばした手のひらが洸祈の左頬に触れた。洸祈の瞳が彼女を捉える。

「触るな」

『一緒に来てくれるなら』

「売りに出されるんだろ?厭だね」

『だから貴方の要求は呑めない。実力行使しなきゃいけないから』

緋色に輝く洸祈の瞳に怯むことなく、アリアスは言った。

崇弥(たかや)洸祈、貴方が全ての元凶なんだ。これくらいしても当然だと思うが?』

黒い革手袋の指先は洸祈の耳朶を擽る。

そして、


「全く思いませんね」


鋭い刃が二人の目の前を一閃した。アリアスが腕を切られる間一髪で背後に跳ぶ。

「下がって」

洸祈の前に立ったのは茶髪の青年。翻ったコートから微かに見えたのは、クロスにS。


シュヴァルツ商団。



『これはこれは。「スーべリアの若騎士」じゃないか』

アリアスはふふふと不気味に笑う。その片手には細い針。

『シュヴァルツ商団護衛です』

アレンは剣を構え直して言った。

『通りで、リヴァ・シュヴァルツ・コーティの気配がムンムンと』

「ムンムンねぇ…」

長い髪を一つに高くくくったリヴァは柱の影からアレンの横に出た。

「アレン、ムンムンか?」

「ムンムンと言うよりメラメラです」

「それは?」

「暑苦しい…」

ごんっ。

「よく言ったな」

「い…たい…」

リヴァの鉄拳に顔をしかめても切っ先はブレない。

「と、言うわけで、アリアス、捕まってもらおうか」

続々とシュヴァルツ商団の面々がアリアス達を取り囲んだ。


「洸祈君、大丈夫?」

「え?…あ…アクアさん…」

月葉を見詰めたままだった洸祈はアクアの声にハッとする。アクアは笑むと、洸祈の車椅子を反転させた。

「ごめんね。洸祈君を巻き込んじゃって。アリアスをやっと見付けたと思ったら、どうやら目的地がここで…先に言うべきだったのに…」

「言ってたら、俺、すぐにここを離れていました。リヴァさんは正しい」

「でも…」

「利用できるものは利用するのが当たり前です。それに俺にとってもアリアスは敵ですから。寧ろ、あなた達のお陰で助かった。片手片足じゃあ、自爆すらままなりませんし」

「自爆って…!洸祈君、あなたは―」

洸祈を心配するアクアを洸祈自身が片手を上げて止めた。それに商団長リヴァの姿を見て、アクアは反射的に黙る。

「あの戦争狂は捕まえなきゃ。世界の平和の為に」

乾いた嘘っぽい笑み。

洸祈は車椅子から片足で立ち上がると、ぴょんぴょんと跳ねて地下の駐車場出口に向かう。

「洸祈君!?何処へ…」

「あんなのの近くに居たくないし。それに、二之宮(にのみや)はともかく、司野(しの)はこれ以上危険に晒せない」


暫く隠れます。


洸祈はアクアに背を向けると、シュヴァルツ商団とアリアス、月葉を置いて、よろよろと歩みを進めた。

「洸祈君、その怪我じゃ…」

「二之宮に聞かれたら……谷にいるって言ってください。それと…司野の傍に居てって…」

「谷?あ、洸祈君!」

アクアの制止も聞かずに、彼は後ろの緊迫した空気を無視して進んだ。








「で?アリアスと共謀者を捕まえ損ねて、何?」

「行っちゃいました」

翌朝、ここ最近の疲れが溜まっていた彼は、昼過ぎまで寝ていた。

起きれば、シュヴァルツ商団護衛が足元で土下座の体勢のまま寝ていた。

二之宮は寝起きからこの優男を見たことに無性に腹が立って蹴飛ばすと、彼はベットから転がり落ちて悲鳴をあげたというわけだ。

崇弥(たかや)が谷に行くって?」

「ですからそう言って―」

ごんっ。

「重要なことなんだ。本当に谷に行くって言った?」

「いいましたよっ!」

リヴァだけで十分なのに、二之宮にまで殴られたことに、彼は躍起になって答える。

「洸祈…行かなきゃ」

「それはダメです」

「君に言われる筋合いはない」

二之宮は背筋を伸ばすと、椅子に掛かっていたコートを掴んだ。

そこをアレンが止める。

「どいて」

「まだ伝言があります」

「どうせ、追うなでしょ?昼ドラじゃあるまいし」

二之宮は片手をドアに掛けるが、アレンがその手首を握った。

「いいえ。司野さんの傍に居てと」

彼の歩みが止まる。

「………ちっ…」

「あの…蓮?」

「崇弥め。僕がそう言われたら動けないの分かっててだな」

「谷が何か?」

頭を掻き、ベットに大の字になった二之宮にアレンもベットに腰掛けて訊ねる。二之宮ははぁと大きく溜め息を吐くと、アレンを睨んだ。

「君には関係ない。ただ、僕は崇弥にはあまり谷に行って欲しくないんだ」

「なぜ?」



「谷は……怪しいからさ」


「つまり?」

戯れに聞き返したアレンは手持ち無沙汰に剣を膝に置いて、ポケットから愛用の布を取り出し、丁寧に剣身を磨き始める。

彼にとっては本当に戯れだった。

「谷の人間の死因の多くは、原因不明の心臓系の病」

「はい?」

「崇弥の母親もそれで死んだ。谷は何かおかしい。危険だ。血筋なのか…土地なのか…」

「気のせいですよ。偶々です」

「偶々、


崇弥の母親も、


僕の友人も、




崇弥(あおい)も……ね」



「え?」


アレンは剣身を磨く手を止め、二之宮を見詰めた。

一気に静寂が満ちる。



それはまるで、昼の喉かな時間が死んだようだった。

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