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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
惨殺掲示 【R15】
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信用商売(4)

(やかた)の話をしよう。


館は少年の売春をしている店。

そこで少年達は自らの体を売って金を儲ける。そこにやってくる少年は孤児や親に売られてが多い。

儲けは客を取っただけ貰える。だから、羽振りの良い客を捕まえ、沢山のお金を貯めて一人立ちできるようになると皆出ていく。他と違い少年達の衣食住は保障され、薬や暴力といったのは禁止されている。

ただ、仕事が入れば断ることはできない。

良いのか悪いのか。

それが館。




「死にかけてた俺を救ったのがある旅人だった」

どうしたの?

俺を抱き上げたあの人の感触が今も残っている。

「あの人は自分の命を削り、契約という形で俺を助けた」

今もこうして生きているのはあの人のお陰。

「あの人は俺を館に連れて行った。そして、館の店主に契約を売り、そのお金を俺にくれた」

泣きじゃくる俺にあの人は「君を養えるだけの知識とお金を手に入れたら君を迎えにくるから」そう言った。

「それからずっと、館の屋根裏に俺は居たんだ。その時の店主はあの人と親しくしてたから、俺を大事にしてくれた。でも、店主が亡くなってから俺は、次の店主の命令で売り子となった。俺は1日3人。多い時で5人を相手にした。いつかあの人が俺を迎えにくるのを待って」

だけど…

あの人は迎えには来なかった。

「今ではもう館はない。俺の契約もあの大火事でなくなった」




今はただ、あの人に会いたい。





崇弥(たかや)、もう部屋に行こう?」

二之宮(にのみや)が荒い息遣いの洸祈(こうき)の頭を撫でた。

「そうや。崇弥、無理せえへんでええ」

呼吸補助機器を付け、くぐもった声で由宇麻(ゆうま)は言う。

「最後まで聞いて…」

だが、洸祈は退こうとはしなかった。

「そんなに焦らんで―」

「焦るさ!時間がないんだ!!早く…早く…早く…しないと…」

「……崇弥」

二之宮は洸祈を抱き締めた。車椅子に座る彼は微かに身動ぎする。

(れん)……」

「由宇麻君のことも考えて」

由宇麻の瞳を紺は捉えた。

「崇弥、ちょっと休ませてな」

その言葉は効果抜群だった。洸祈は目を閉じて呼吸を整えると分かったと頷く。

二之宮は車椅子を反転させた。

司野(しの)、ごめん」

「崇弥……ごめんな」




「崇弥、トイレ行く?」

……………………………こくっ。

「二之宮、ごめん…本当にごめん」

「謝り過ぎ。君から濃厚なキスを3回してくれたらチャラにするよ」

そう言えば洸祈は気が休まる。

「それに、連れションならいいだろう?」

くすり。

「何それ」

洸祈は膝の伊予柑(いよかん)を撫でた。



「んっ…………………………」

名残惜しそうに唇を舐めた二之宮は眠る洸祈の前髪を鋤いた。

「ねぇ、加賀龍士(かがりゅうし)先生、洸祈の様子は?」

「覗きは向いてないみたいだ」

薄く開いたドアをそっとスライドさせ、加賀が顔を出す。

「男の着替えを覗いても楽しいとは思わないけど」

皮肉をたっぷり込めた二之宮の言葉。

加賀はただただ微笑を残しただけであった。


「あれだけの爆風の中で手足の骨折だけで済んだのは、飛び降りた洸祈君を伊予柑が受け止めたから。火傷がなかったのは彼の魔法の属性だと、そっちの専門医は言っていた」

火系の魔法が爆風を和らげ、防いだ。それでだ。加賀は眉をひそめる。

「専門医が言っていたのだけれど、膨大な魔力に驚いていたが、この子の魔力は生まれては消えている。と…」

二之宮は目を見開いた。

「循環のサイクルが異常に短いのは…それでか…」

流石、専門医だ。とぶつくさ呟く二之宮。

「加賀龍士先生、魔力は全ての人が持っています。勿論、貴方にも」

初等教育で習うものだ。

「しかし、魔力を魔法として具現化できるのは一握りだけ。条件としては魔力に何らかの属性があるもの。崇弥みたいに火だったり、(あおい)君みたいに風だったり、そして、具現化が難しい空間だったり。属性は様々。そして、ある一定量以上の魔力を蓄えられる器があることだ」

この器は生まれたその時から全ての人間にあり、大きさは決まっている。

「器が小さければある一定以上の魔力が蓄えられず、属性があっても具現化できない。逆に器が大きくても属性がなければ無しか生まない」

属性と器。この二つがあるものを魔法使いと呼ぶ。

「崇弥の場合、属性は火、器は巨大ってわけだ」

それが膨大な魔力の要因。実際はもっと複雑だが。

「まず、魔力が器たっぷりに蓄えられる。ゆっくりゆっくり。気の遠くなるような時間をかけて。普通の魔法使いの魔力の循環のサイクルってのは簡単に言うとこう」

二之宮は簡易台所に近寄るとコップを手に取り、水道水を蛇口を捻って、ぎりぎりまで注ぐ。

「器ぎりぎりまで魔力が溜まると蛇口は捻られ、止まる。そして―」

バシャッ。コップの水を勢い良く流した。

「魔法を使えば蓄えは消えていく。そして、全てを使い切った時、再び蛇口は捻られ、魔力は溜まり始める」

次はチョロチョロと水を注ぐ。

「一度なくなると一定量以上の魔力が溜まるまで魔法は使えず、半日から1日で使えるようになる。完全に器を溜めるとなると36時間から48時間」

溜まりきった水を再び流した二之宮は溜め息を吐いた。

「これが専門医の言葉から考えられる崇弥の現状」

一気に捻られたそれ。

水はコップを直ぐに満たし、二之宮の腕を伝わって滴った。

「生まれては消える。さ」

水は生まれては消えていく。

「崇弥の異常な早さの魔力の回復は崇弥の器の大きさだけでなく循環のサイクルが人と違うせいだったわけだ」

「何故?」

では人と違う何だ?

「分からない。崇弥(しん)と崇弥(りん)には特殊な何かは…いや…崇弥林…なのか?」

加賀の瞳を二之宮は睨んだ。わけが分からず、加賀はすくむ。

「加賀龍士先生、崇弥の資料を出来れば僕にくれないか?崇弥が19年前に行方不明になった病院がここなのは知っているんだ。本来なら、崇弥の実家がある山梨の病院で生まれるはずだった双子が」

「それは…」

無理が。

「加賀龍士先生にその権限がないなら院長に(きり)からの要請とでも言っといて。絶対に他言はしない。崇弥の為なんだ。いや、僕の為なんだ。僕は崇弥のいない世界で生きられない」

お願いします。

二之宮は床に額をついて土下座をした。加賀は二之宮の行動に目を見開き、後退る。

「僕は幾度となく洸祈に救われた。命だけじゃない…心も救われた。それなのに僕が洸祈に返せるのは洸祈に貰ったものの1にも満たない。今、この瞬間も僕の重荷を洸祈が全て背負ってる。そして、僕に降り掛かるはずだった痛みを全て受け止めているんだ」

だから…

加賀は暫く茫然とすると二之宮の肩を叩いた。

「桐だね。私に権限はないけど、佐木(さき)院長に伝える。私からも頼むから」

………………………ありがと。

ぼそっ。

微かに赤面した彼はぱっぱと膝を払うと、よろしくお願いします。と頭を下げ、加賀にドアを開けた。


「何かあればナースコールをしてね」


「はい」

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