信用商売(2.5)
彼に異常が起きたのは、彼がこの病院に獣と共に担ぎ込まれてからこんこんと眠っていた時のことだった。
やっと目を覚ましたかと思えば、彼は全身を痙攣させて呻き声をあげていた。
「由宇麻君!!!!」
「うっ…っ…ぁ…あ」
由宇麻の細い指が空を握る。
何かを求めて口が動く。
「しっかりするんだ!」
「あ…っ……っ………」
ビクッ…―
体が大きく震えると力が抜けて腕はパタリと落ち、頭はかくりと横を向いた。
緩く閉じた瞼に細い枯草色の髪が掛かる。
…ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…―
呼吸補助機器が白く曇った。
「…………先生…戻りました」
幼い顔を更に幼くした由宇麻。涙の跡の残る頬を加賀はそっと撫でた。
「由宇麻君…本当に成長していないですね」
加賀の横で機器を外す看護師は驚きと困惑を含んだ声を出した。
「加賀先生と畑先輩は患者さんを知っているんですか?」
看護師、畑の後輩の看護師が由宇麻の衣服を戻しながら首を傾げる。
「産まれたその当時から彼はここに入院していたのよ。そして二十歳…彼の成長は止まった」
「へぇ、いいなぁ」
場が静寂に包まれる。
若い看護師は萎縮した。
「すみません…」
「人間は新陳代謝を繰り返して成長していく。それが時を止めたかのように止まった。そんな前例はない。つまり、何かあっても私達には対処が限られる。歳をとらないが由宇麻君は死と常に隣合わせなんだよ」
加賀はただただ眠る由宇麻を撫でる。
「由宇麻君…生きて」
「たか……や…」
由宇麻のベットから投げ出された片手が何かを掴んだかのように握られた。