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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
惨殺掲示 【R15】
61/400

信用商売

「マジかよ…」

「マジだね」

生まれて初めて座った。


「車椅子かよ…」


足に腕の骨を折るだけでもなのに、更に不幸なことに右腕に左足ときた。

松葉杖どころではない。

馴染みの加賀(かが)が決定したのは、

「看護師さん一人つけて当分は車椅子生活だね」

「って…さぁ、苛め?」

「だってねぇ。嬉しいでしょ」

だってじゃねぇ。

若い美人看護師だ。

当然、女の人。

色々な意味で食欲旺盛な19歳男児の世話なんて普通させるだろうか。

「確かに年上の美人のお姉さんは好きだけど…」

トイレに風呂、食事に着替え。全てを歳の近い美女に世話してもらうなんて…。

「もう俺…世間に顔出せない」

「じゃあ僕が―」

「殴るぞ。男の看護師いねぇのかよ?」

男同士なら別になんだけど。

周防(すおう)には男性看護師はいないんだよ。美人看護師が細心の注意を払ってお世話しますを宣伝文句にしようかと考えてるからね」

因みに用心屋は(あおい)を代理の店長として普段通りだ。崇弥(たかや)の実家は未だに軍の監視下。と、知り合いは皆忙しい。

「でもさ、洸祈(こうき)君一人じゃあ無理だよ?ほら考えてごらんよ。一人あたふたして怪我悪化させて、お漏らしなんてしたら末代先までの恥だね」

まったくその通り。


ガラッ


「ふふふ。(あか)、あたしがその役買ってでましょうか?」

來月葉(らいつきは)の登場。肩に乗った白いものが小さく蠢いた。

「遠慮する」

「けれども…あたしの推測だと、あと15分したらトイレに行きたくなるんじゃありませんの?」

なんて的確。

「そうゆーこと言わないでくれる?マジで行きたくなるから」

「それはさておき、あなたに渡すものがありましたの」

あっさり話を変えられた。

加賀はただただ見守っている。美人看護師のお姉さんは痺れを切らしたようだ。花瓶をと言って花のない花瓶を持って行ってしまった。

「渡すもの?」

「主人の葬式で渡そうと忘れてましたわ」

と、白いものが耳を立てた。

耳を…?

伊予(いよ)ですわ」

と、小さな白い犬が洸祈の膝に飛び乗った。

犬…!?

「なにこれ。病院に動物は禁止だぞ」

「魔獣ですわ」

平然と彼女は一言。

「伊予…ね……何で?」

(しん)の友、夏蜜柑(なつみかん)の子ですの」

これは巨大な狼になるわけだ。

「夏蜜柑の子で伊予柑。もう一体の金柑(きんかん)はこちらに来る前に蒼子(あおのこ)に渡してきましたわ。あら、なついてますわ。あなたの魔力はいい匂いですものね」

身を乗り出した月葉は伊予を下敷きに洸祈に鼻を近付ける。ぐるっと鳴いた伊予は洸祈の肩に収まった。

「重っ」

そこに、再び来訪者。

「崇弥、来たよ」

二之宮(にのみや)?」

二之宮ははふっと息を吐くと近くの椅子を掴んでどかりと腰を下ろす。

「何しに―」

「世話係りに決まっているだろう?僕は夜の仕事人だから」

「もしかしてあなた…ウンディーネかしら?」

「ご名答。來月葉」

ふふふ。と二人は奇妙に笑う。

「思えば二人って似てるな」

そう洸祈が言えば無視される。

「男だったのは驚きだわ」

「洸祈って書いてあるから、てっきり変態だと思ってたよ」

「おい!なんで俺の名前使ってんだよ!」

そう洸祈が言えば無視される。ふくれっ面をした彼は伊予のふわふわした毛を握った。

それに対して、伊予は欠伸をするだけだ。

「あなたの美声のファンは男だけじゃないのよ」

「今後もよろしく」

「ふふふ。いい出会いをしましたわ。ありがとう、緋」

そうこうしている間に、何か感謝された。

「伊予をよろしく」

「あぁ」

服の裾から鼻を突っ込む伊予の頭を叩いて月葉を見送る。と、美人看護師が戻ってきた。

「お姉さん。崇弥の好みのタイプだけどあとは僕がやるから仕事頑張って。あとはじめまして(・・・・・・)の加賀先生も」

加賀の目が泳いだ。二之宮は加賀を見詰めて放さない。

加賀は深く息を吐くと、小さく頷いた。

「あ、あぁ。洸祈君の知り合いの方なら…寝る場所は―」

「添い寝だから」

ふふふ。と月葉さながらの笑みを浮かべて無邪気に伊予と遊ぶ洸祈を眺めて、二之宮は加賀と看護師を追い出したのだった。

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