惨殺掲示(3)
血。
「マジかよ」
瑞牧は思わず耳を塞ぎたくなるような現実に顔をしかめた。
「たすけて…くれ…」
「化け物が…化け物が…」
「…痛い…痛い…痛い…」
廊下に転がる人々。
彼らは両足の腱だけを的確に切られている。
床に転がる人数分の拳銃は全て銃身が何かに貫かれていて使い物にならなくなっていた。
「誰が…」
など言わなくても分かる。
用心屋の店主。化け物と呼ばれている元軍学校のわけあり特待生、崇弥洸祈の仕業だ。
「た…助けて」
「今、救急車を呼ぶ」
用心屋の邪魔をすることになるとは言ってられない。寧ろ、アイツのせいで有能な部下が巻き込まれたのだ。
しかし、救急車を呼ぶ前にすることがある。
「おい、スーツ着た餓鬼を見なかったか?」
手近な奴を掴んで壁に凭れさせる。
司野は何処だ。
「…知らない…」
「ふん、そうか」
「し…の……ゆ…ま…」
司野由宇麻。
確かにそう聞こえた。
「司野を知ってんのか!?」
踵を押さえて踞る女性。
女でも容赦なく切ったのか!?
「司野…由宇麻を…使え…そう言われた…の…」
「誰にだ!!」
「うっ……」
沈黙する女性。どうやら気絶したようだ。
他の者も顔を青くしている。瑞牧は社員フロアの電話をひっ掴むと救急車を呼んだ。
一通りの応急措置をしてやると、短い休憩をする。
そんなことしている場合じゃないが用心屋がいるフロアに息も絶え絶えに行く勇気はない。
状況を悪化させるだけだ。
それにしても、
「司野を囮にするために命令を下した奴がいるのかよ」
そいつは政府―クロス―に庇護されながらも監査部を裏切った。
最低な奴。
「一体、アイツは何者なんだ」
緋沙流習得者だろうが元軍学校の特待生だろうが何故、アイツが中心で悲劇が起こるんだ。
力ではない。
身元ではない。
それこそアイツは…―
化け物だ。




