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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
惨殺掲示 【R15】
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惨殺掲示(2)

何で暗かったんやろ。

「なぁ、瑞牧(みずまき)さん。崇弥(たかや)どうしたん?」

何だか含みのある会話をしていた瑞牧さんに俺は尋ねた。

「俺が知るかよ。お前、父親だろ?」

そう言われて本当の父親だと自覚する。

確かに俺は父親。崇弥の秘密を親として知っている。

そのことを将来、崇弥と話し合うつもりはないし、それで受けた傷を癒そうとも思わない。

ただ、崇弥がそのことで無理をしないよう見ていたいだけだ。

「ちょっと…すっごく元気あらへんかった」

「俺の推測だが、アイツは多分危険だ」

また危険。

心を赦すな。蓮君の言った言葉が胃の辺りに重くのし掛かる。


「誰かが赦してやらんと居場所をなくしてまうやん…」


司野(しの)?聞いてたか?」

「…多分危険って言ってたで」

ついつい瑞牧さんの声が神経の中から締め出されていたようだ。俺は姿勢を正して項目にチェックを入れながら瑞牧さんの話に耳を集中させる。

「用心屋は用心棒を貸し出す店。それ以外でも俺達の時みたいに仕事を手伝ったりと半万屋だ。アイツの肩から下がってたの何だか分かったか?」

黒くて細長い。

「弓入れてる奴みたいだったで?それにしては小さかったなぁ」

何だったんやろ。崇弥はその身にそれしか持っていなかった。

瑞牧さんは携帯用の熊さん灰皿―可愛い熊の顔と思いきや、獲物を狙うマジな熊の顔だった―を取り出すと短くなった煙草を押し付ける。

「あれの中身は刀だ」

「刀?」

銃刀法違反…。

「あの反り。あの端から見て分かる重量。間違いなく中は日本刀。アイツの家は武術の家だろ?」

と訊かれても…。

「知らんで」

「“崇弥”は緋沙(ひさ)流武術の本家だ。それくらい父親として覚えとけ」

「崇弥は強いけど武術家やったんか」

「お前、アイツの強さを生で感じたことあるのか?」

瑞牧さんは真剣な顔して訊いてくる。立ち止まった瑞牧さんに合わせて俺も立ち止まった。

「力あるで。組み臥せられたら終わりや。よっぽど動揺しないと隙見せへん」

「緋沙流は魔法と武術を織り混ぜたもの」

「そんで?」

「あれは魔法を使える者、すなわち軍人用の武術の大元だ」

軍人用の武術。

「今の軍で使われているのは緋沙流を極々簡単にしたもの。緋沙流の基本中の基本みたいなものだ。魔法の制御の仕方。各武器の使い方」

つまり、

「緋沙流は人殺しの武術」

「だからって崇弥は人を殺したりせぇへん!!!!」


『洸祈は過去に殺人を犯している』


これは、蓮君が俺に告白してくれたこと。

『友人を殺した…と。あいつが言った。僕に』

またも蓮君の言葉が胃の辺りに重くのし掛かる。

「…………司野、よくきけ。緋沙流は魔力が高い程その力を発揮できるんだ」

「崇弥の魔力は…」

それは化け物のように膨大だと。

「そんな奴が獲物である刀を携えてるんだぞ?」

「人を殺すん?でも―」

「殺人とは言ってない。しかし、それに準する何かだ。俺達が何故、監査をしに来たのか忘れたのか?」


『ここ、行くぞ』

『あれ?瑞牧さんと?』

『その言い種はなんだ?』

『でも何で二人なん?新人の頃は未だしも最近は立派な仕事人として一人で行かせてるやん』

『敬語。ま、あれだ…命令だ』

『命令?瑞牧さんに命令!?』

夜鷹(よたか)がな』

『瑞牧さん恐いから、皆が仲都(なかと)総務官殿に頼ったんやな』

『生意気になりやがって』


「命令…やろ?」

「渋い顔した夜鷹からな」

瑞牧さんは渋い顔をして言う。そして、本日5本目になる煙草を取り出そうとして箱が空。

瑞牧さんはチッと舌打ちをした。

「命令はこうだ。辻一製薬を見てこい」

「普通…やな」

「司野由宇麻(ゆうま)宛の命令だ」

初耳。

わざわざ俺宛。

「もう見終わったから帰るぞ」

会話を切ると、瑞牧さんは俺を置いて早足で先に進む。

「司野、早く来い!!」

瑞牧さんの怒鳴り声。焦りが感じられる。

「せやかて―」

「部下を見す見す危険な目に遭わせられるかよ。命令には従った。だから帰るぞ!」

だから瑞牧さんがついてきた。そういうことなん?

渋い顔した仲都総務官が出す命令。

その命令は総務官より上の人。

交換条件

緋沙流武術

崇弥の仕事


俺の足は止まって動かない。

「瑞牧…さん……その命令は…多分…いえ…絶対に―」

「1時間。司野、帰るぞ!!」




俺は来た廊下を戻っていた。瑞牧さんの声が廊下に木霊する。

人のいない廊下を俺は崇弥を探して走った。


あの命令は、



日本政府。



「ダメや!!崇弥!!!!」


詮索はしないと約束した。


だけど、



「もう関わったらあかん!」

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