惨殺掲示
「おめでとう。君は俺が殺した2番目のモノになるよ」
枯草色の髪。あれは…
「司野!?」
くるっと振り返った青年…男の人は、眼鏡の奥の瞳を見開いて振り返った。
「崇弥!?何で崇弥がこんなとこ居るん!!?」
そう言った司野は満面の笑みを浮かべて俺に走り寄る。
あ、可愛い。と、思ってみたり。
「仕事なん?」
「………」
つい答えに口ごもると司野と行動を共にしているらしい瑞牧が俺の泳いだ目線を捉えた。
あの人は苦手だ。
「司野、仕事中だぞ!」
仕事中と言う割りにかったるそうに目を細める瑞牧はくわえた煙草の灰を床に落とす。
俺は心中で床はあんたの灰皿じゃないし、第一ここはあんたの会社じゃないだろ!とツッコミを入れてみた。
「ふーん。用心屋の生意気小僧か。何でお前がこんな寂れた製薬会社にいんだよ」
自らの発言を忘れて興味深そうに俺に質問する。靴を鳴らして前に立つと身長差から圧倒的な圧力を感じる。俺はヤル気の失せている瞳を睨みながら答えた。
「仕事だ」
政府からの交換条件。
「仕事…用心棒が金のない倒産すれすれの会社で仕事か。赤字まみれの社長を狙う馬鹿なんていないだろうし……仕事ねぇ」
探るような顔。否、何しに来たのかとっくに知っているのかもしれない。
すると、司野が俺の着たパーカーの帽子を引っ張った。
「いいやん、仕事なら仕事で。崇弥、いつ仕事終わるん?なぁ、今日一緒に帰らへん?琉雨ちゃんに鍋誘われてんのや」
今日の夕食は鍋か。
確か今朝、何鍋がいいか皆に訊いていたような。
俺はそれに何と答えたのだろう。
「崇弥?」
その声に現実に引き戻される。司野が答えを待って見上げてきた。
「残念だけど…」
司野が居たんじゃ仕事が終わらないよ。
「司野、行くぞ」
「そんなぁ」
きっちりと着こなしたスーツの襟首を掴むと、瑞牧は司野を引き摺る。されるがままの司野はぷくっと頬を膨らませた。
「おい、用心屋」
と、煙草を人差し指と中指に挟んだ瑞牧はおもいっきり俺を睨んだ。
反射で背筋を伸ばしてしまう。
「何ですか?」
「俺達はあと1時間もしたら帰る。行動を起こすならそのあとにしろ。俺達を巻き込むな」
「………………」
多分、いや、絶対に瑞牧は分かってる。
俺の仕事がどういうものか。
そう、こちらも巻き込むつもりはない。寧ろ、居ては困るのだ。
「鍋、食おなー」
ひらひらと無邪気に手を振る司野。俺は多分、曖昧な表情でそれを見たと思う。
司野はぽけっと口を開けて首を傾げていた。