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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
短編3
50/400

虹色の飴玉

ネオンの光を反射して雨は足元をキラキラと輝かせる。

「行くとこないのですか?」

ぱしゃっ。

騒がしい雨音に微かに混じる雑音。俯き、垂れた前髪の間からの視界にスニーカーが入る。

「親御さんはどうしました?」

周囲の音質が柔らかくなった。跳ねるような音になる。

「未成年が遅くにこんなところでずぶ濡れになって立っていたら危ないですよ?」

傘だ。

雨は止み、雨の匂いに混じって懐かしい匂いがした。

「お節介かもしれませんが君を放っては行けません。帰るところがないのならこれを使って何処かに泊まりなさい。君はここにいてはいけない」

これを。と、手のひらに万札を1枚乗せて握らせた。

ネオンの光を反射して雨は靴をさらさらと流れる。

「いいですね?」

ぱしゃっ。

騒がしい雨音に微かに混じる雑音。俯き、垂れた前髪の間からの視界からスニーカーが消える。

周囲の音質が硬くなった。雨は突き刺すように落ちてくる。

「もう」

傘だ。

雨は止み、雨の匂いに混じって懐かしい匂いがする。

「僕の家来ますか?」

ぱしゃっ。

スニーカーを追うことにした。




35歳、独身。

数少ない友人達との飲み会の帰りだった。ほんの少しで真っ赤になる僕は会社ぐるみでの飲み会より友人達との方が―彼らは分かっているから―気遣いをしなくて好きだ。その日も自分でも不思議だと思うぐらい長く付き合っている幼なじみの友人の会社の愚痴を聞いた。友人は僕の性格を知っているから僕の反応を見ずに言いたいことを言う。僕はそれを聞いて自分の会社と比較する。そうだよな。と思えば僕は相槌をうった。

僕は重度の人見知りだ。

“事務的な用事で”“必要だから”そう言う時はまぁいい。しかし、問題は必要外の人間関係だ。

無条件でなつく幼児や、寧ろ、僕自身が幼児となる高齢者は問題ないが、同年代とその付近は駄目だ。

人間不信に陥る。

長いこと付き合っている仲なら何ともない。しかし、通りすがり、上司、後輩…

怖い。嫌われている。不安。

全てはストレスとなり、体に消えることなく溜まる。

時折、死にたくなる。

口から溢れる言葉は“もう疲れた”だ。どうしようもなく胃の辺りがむしゃくしゃしてベッドにあたることもしばしば。ベランダに出て“死のう”なんて考えて結局、勇気が出なくておじゃん。

精神病かもしれない。きっとかなり病んでる。


雨の中を僕は歩いていた。友人達との会話は綺麗さっぱり忘れていた。

否、忘れようとしていた。

明日は会社は休みだからとゆっくりゆっくり歩く。

そしたら壁に凭れて雨にうたれる少年がいた。

赤茶色の髪が俯く顔と共に垂れ、拳は薄手のパーカーのポケットに隠れているようだった。

小柄な彼はただただ俯いていた。

僕も昔はあんなだった。人と目が合うのを避けて俯いて歩いていた。

恥ずかしいから怖いからそう理由付けてひたすら黙々と歩いていた。

ねくら?気色悪い?あっそう。

ならそう思えば?

僕は投げ出さずにストレスとして溜めた。しかし、僕は彼を見た瞬間、あぁ綺麗だな。そう思った。

それほどに少年の俯く姿は美しかった。


そして…


「行くとこないのですか?」


彼の孤独に足を踏み込んだ。




「服、大きいのしかなくてごめんなさい」

なるべく小さいものを。

風呂から上がった彼はヒタヒタと床に足をつけてやってきた。

見ればズボンを腕に掛け、ワイシャツ1枚だけを着て立っていた。

白のワイシャツから伸びる2本の足は細い。

パンツだけは洗ってどうにかドライヤーで乾かしたものを着てもらったが、

「ズボン、ベルトあるけど」

ベルトもまたでかい。

それにしても…なんて子だろう。

普通、知らないおじさんについてくるか?

そんなことするのは危険だ。親に教わらなかったのだろうか。

もしかしたら危険と分かっていてもついてきたのは危険でいいから。どうでもいいから。なげやり。

自殺願望?

少年は僕を見上げる。

ルビーみたいだ。

これを緋色と言うのだろうか?

「えっ…と」

どうしよう。

あっ…。

「名前は?」

そうだ。これだ。

先ずは自己紹介だ。

少年は開いた口をパクパクさせては閉じる。

「僕は笠岡響(かさおかきょう)。君は?」

僕から自己紹介すれば話してくれるかな?

「…沢山」

たくさん?

名前?苗字?

「―ある」

沢山ある?

名前が?

「じゃあ、自分が一番好きな名前を教えて下さい」

「……ひ…わ…」

ひわ。

鶸のことだろうか。

「ひわ、お腹空いてますか?」

……………………………………。

ふるふると小さな頭が左右に振られる。お腹空いてないのか。

僕は飲み会で友人から札幌の土産と貰ったチョコレート菓子を鞄から出した。

夜に砂糖は虫歯の元だが。

「好きに食べてていいですよ」

僕はお風呂に入ろう。


「ひわ、寝る場所だけど僕のベッド使っていい―」

すぅ。

ひわは床に寝転がっていた。

胎児のように体を丸めてチョコレート菓子には手を付けずにすやすやと寝ている。

「疲れてたんですね」

そこで僕の糸が切れた。

思えば敬語をひわに使う必要はないような。

年下にでも敬語は癖で使うが、何となく、友人達のように気を許せそうな気がしていた。

まるで昔の自分を見ているようで…いや…違う。

臆病者の僕は離れ、ひわはまるで…離されたような目をしている気がした。

赤い頬を優しく撫でる。

人とここまで近くで触れ合ったのは久し振りだ。

「明日また考えよう」

熱がありそうなので、額にそっと熱冷ましを乗せてベッドに寝かせた。

僕は敷き布団を敷いて寝る。



思わぬ拾い物をしたな…

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