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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
短編3
49/400

あるホテルの一室より 【R15】

タイトル通り、一応、R15の範囲です。

気になる人は飛ばしても本筋には問題ありませんm(__)m

読む人は持てる妄想力を駆使して読んでください"^_^"

んっ…………。


「もう駄目ですか?」


人肌を感じる。


「駄目…じゃない」


本当は駄目だった。


だけど、壊れてもいいと思えるぐらい人が恋しかった。


だから、駄目じゃない。


「分かりました」


んっ……………………。


「やはり駄目なのでは?」


駄目?


「…………やだ」


「?」


「離れたくない。傍にいて」


温もりが欲しい。


「ふーん。じゃあ、遠慮なく」


「それが本性…」


「えぇ、アナタだけに特別に…」



体を繋いで寂しさを埋め合うこの関係に…―




【あるホテルの一室より】




(ちょう)…」

最近、この偽名にも慣れた。

ビジネスホテルの部屋を3日前に取った時、「名前…ないと、なんて呼べばいいのか分からない」と言われたので、目についたホテルのロゴから“蝶”と名乗ってみた。

最初は「蝶…蝶…」とボクを呼ぶ彼を遠くに感じていたが、蝶と呼びながら泣いてばかりいる彼をいつの間にか抱き締めていた。

胸に頭を抱いてやれば、彼は直ぐに大人しくなり、ボクに子供のように寄り添ってくる。

そして、髪を撫でてやると、すやすやと眠った。

「何?」

「もう行くの?」

「うん」

仕事に行かないと。

彼は片手でシーツを胸元まで引き上げて、もう片手でボクのスーツの袖を強く引く。

「君はどうする?」

そんな彼のシーツをそっと取り上げ、隠す物のない裸体に指を這わせた。すると、彼は唸り、ボクの手を払うどころか、引き寄せて昨夜散々弄ってあげたところに持ってきた。

「何?」

「…………で…」

「?」


「行かないで…蝶」


触らせてくれたって、興奮してない体には説得力がない。

「足りないの?」

コクッ……―

この子は…。

「今日は会議だから無理。縛ってあげようか?ボクが帰るまで一人で楽しみなよ」

この答えは分かっている。

「やだ」

…―イヤだ―…

「蝶とじゃなきゃ…」

…―温もりを得られない―…


だろう?

彼はボクと違って、一人を紛らわすのに快感じゃなくて温度差を求めている。この関係は彼にとって温度差を得るのに一番有効だからだ。

「分かりましたよ。君って子は…まだ、したりないんですね。気絶するまでしてあげます」

彼の望みを叶えるために、引かれた腕を振りほどいた。


あぁ、可哀想な子だ…。




「蝶…」

結局、彼は気絶なんてしなくて、ボクの方が意識が飛び飛びだった。彼は感じてくれるのに、最後までいかない。ボクは彼が気絶しないし、昇天もしないから際限なく、心赴くまま、欲望のままに彼を使った。

そして、ボクは彼の腕の中にいた。

すべすべの肌。

女みたい。

胸はなく、あるのは味気のない筋肉だが。

「蝶、生きてる?」

「…何を訊いているんだい?」

死んでるわけないだろう。

ボクはお返しに彼の首にキスマークを付けてやる。

「君のせいで会議を欠席した」

「いいよ。ヤろう。ずっと…ずっと…傍にいよう」

それは君の願いのくせに。

そうやって押し付けたいんだ。

ボクとヤっている事実を。

多分、彼には恋人がいる。

きっと、大事にされてる。

だけど、ボクを求める彼は恋人に何か叶わぬ願いを持っている。

叶わないからボクで紛らわす。

彼の愛情は歪んでいる。

だから、恋人と噛み合わない。

不器用な子。

「ずっと…か。ホントにいいの?」

「何が?」

そう…。

「だれか心配しない?」

「心配?………うん、しない。そーゆー仕事ってのもあるけど……皆、俺を信用してるし…ううん、もう皆、俺をほっといてる。幻滅させたから。でも…もういいや……もう…どうでもいい」

そう言って彼は目を伏せる。

それで君は一人なのか。

だけど、本心は違うくせに。


もういい人間はそんな顔をしないよ。


泣きそうな顔だ。

「ロマンチストなんだ?」

ボクが訊くと、長い時間をかけて首を上下した。

「………うん。女々しいんだ」

餓鬼だからか、現実を知りすぎているからか。

多分、彼は後者だろう。

現実を知るからこそ、ロマンに身を焦がす。

理想を求めて止まない。

「………蝶。だから」

「大丈夫ですよ」

ずっと一緒に幻想に浸ろうか。

「同情しましたから、ボクの傍にいなさい」

どうやら、隠されていたボクの母性本能を彼は引き出してくれたみたいだ。

「ありがとう、蝶」

彼は笑みを見せる。

愛想笑いではなく、自らを嘲笑っているようだった。



「それじゃあ、シャワーでも浴びようか」

エアコンで汗が引いてきたところで、ボクはダルい体を起こして眠そうな彼の頭を撫でる。唸る彼はボクの手を払ってシーツに潜ろうとする。

あれだけ喘いだのだから当然か。

「眠い?」

「うー……うん……」

「でもさ、出した方がよくない?」

「うぅ?」

唸る彼。

眠くて精一杯らしい。

だが、そろそろ食事の時間だ。

二人で泊まってから何も口にしていない彼に、今日こそは少しでいいから食べさせなくては。

ボクはシーツに手を忍ばせた。

「ん!?」

そして、縮む彼の耳にボクは囁いてやる。

「ここ、洗わなきゃ。シーツ汚したくないし」

ボクが彼の四肢を擽ると彼は甘い吐息を吐いて、拒んでいるのか、誘っているのか、腰を揺らした。

「どうしたの?嫌?」

「嫌…じゃないけど…」

「けど…?」

「眠い」

そう真面目に返されるとこちらが困る。

ボクだって彼が眠いことぐらい分かる。だが、彼に眠られたら、彼はボクが彼を本気で喰いに掛からない限り起きてはくれなくなる。喰いに掛かったらボクは1日中彼を抱いて、ボクまでもが食事をできなくなる。

ただ、ボクは彼に食事をして欲しいだけだ。

死なれたら困るし、勝手に犯罪者にされたくない。

「眠いのは分かったから、体を洗ってから寝てよ」

「…………やだ…」

いつからこんなに我が儘になったんだ。

ボクは最終手段に出ることにする。

「!!!?蝶!」

「玩具」

ボクは彼に入れた玩具を指で揺らした。

「あ…取れなくなりそう」

「やだ!蝶!」

彼がボクの腕を握る。

「ちょっと踏ん張れば取れるよ。こんなにとろけてるし」

“とろけてる”なんて初めて言ったかもしれない。しかし、事実、ボクを受け入れる彼の中は熱くとろけている。

熱く優しく、気持ち良さそうだ。なんかまた彼を抱きたくなってきたかもしれない。

「踏ん張るって…」

そこに注目してくれてありがとう。

ボクは彼に簡単な例を上げて囁いてやる。

「―っ!!」

理解すると同時に真っ赤になる彼。

「厭ならシャワー浴びよう?」

「…………」

無言。

おや、やりたいのか?

「奥まで入れたい?」

もう、彼の体は熟知している。

ボクは彼の体の中を探り、一点を撫でた。

ぴくっ…―

「蝶っ」

「好きだろう?」

体はちゃんと反応しているのに彼はどうして分かってくれないの?と言いたげに見上げてくる。

「君は嘘つきだね」

「嘘じゃない!」

彼は妙に食い付いてきた。しかし、これこそ嘘つきの証拠だ。

「いや、嘘だ。君は嘘つきだ。自分に嘘をついてばかりいる嘘つきだ」

「違う!」

否定する彼にボクは少々感情的になってくる。

ボクは彼の体に埋めた玩具を一気に引き抜いた。

「あ!!」

「違う?君は弱虫だ。君は傷付きたくないから自分にさえ嘘をつく。そうだろう?じゃなきゃボクを求めたりしない」

「違う…」

まだ否定する彼。

「違くない。君は嘘ついて自分を守ってるつもりだろうけど、本当は君は君自身を傷付けている」

「俺は…」

「痛くない?君は飢えているんじゃないのか?」

彼の瞳が濁った。

あぁ…今、彼は揺れている。


「君は何を望んでいる?」

言ってから気付いた。

ボクの胸に引っ掛かっていたのはこれだ。

彼の本当の望みが分からない。

彼が全てをかけてを得たいと願うものが。

彼は瞳を揺らす。

不安そうな顔で…―

「俺は…俺は…俺は…俺は…―」

俺は?

「俺は…」

ボクは彼を抱き締めていた。

彼の肩を力一杯抱く。

彼が震えてる。

「蝶…」

「まだ君には重かったね」

彼がまた泣くから…。

精神的に弱っている人はよく泣くらしい。彼も弱っているのだろうか。

ボクと見た目10は違う彼はまだまだ未熟だ。

彼はきっと未熟な体を持て余して未熟な心を傷付けて…。

どうやら君は餓鬼なのか。

「蝶…蝶…蝶…」

彼は泣きながらボクの胸を叩く。

「蝶…蝶…蝶…蝶…蝶…蝶っ!」

彼の動きが止まった。

どうしたのかと思えば、彼は痙攣している。

「大丈夫?」

「蝶…ぎゅってして」

掠れた声。

頭をボクの肩に擦り付けてくる。

「ぎゅって…強く…」

「分かったよ。だけど約束して、夕食、サラダ一口でもいいから食べて?」

君に拒否権はない。

だって、今の君にはボクが必要だから。


「うん」



「君が泣き止むまでボクは君を慰めよう」


君に同情してあげる。


今だけ、君に“人の温もり”をあげるよ。



「だから、今はボクだけで我慢してね」

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