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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
ツミビト
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ツミビト(4)

「この子が欲しいって?」


「あぁ」

「何で?」

「欲しいから」

「もしかしてお兄さん少年の売買でもしてんの?あげないよ」

「いくらだ?金だろ?」

「……買う人か。身分は?」

「子を失ったただの父親さ」

「へぇ。この子はそこらの子供とは違う。高いよ?ただの父親には払えない」

「100万」

「む~り」

「1000万」

「無理だって」

「1億」

「もーちょい」

………………………………。

「100億」

……………………………………。

「さっすが」




「遊び済みだけどいいよね」

雪の積もるアスファルトに素足で立つ少年。外套を着込んだ男は金髪を揺らして、布を纏っただけのその少年の頬にキスをした。少年は紅い瞳に感情をなくしてされるがまま。

「………あぁ」

対する男は帽子を目深に被り、奥から少年をじっと見詰める。

「その顔は惜しいけど君を売るね。出来損ないで失敗作の割りにいい利益になった。ありがと」

そう言って片手に前金の1000万の入ったスーツケース、もう片手で少年を押して言う。

「精々、可愛がってもらいなよ」

音をさせずに雪を踏み締めた虚ろな瞳の子はケースを渡して手ぶらになった男のもとへ。

「彼は命令に従順だよ。例えば―」



…―殺せ―…



と、

「…こ…ろ……せ…」

たった3文字。1文字1文字しっかりと少年は繰り返す。

体をゆらりと揺らすと彼は一度直立し、男を見上げた。

「――!!?」

紅蓮の刃。

2本のナイフ。刀身には少年の瞳と同じ色の炎が纏う。それを手のひらでクルリと回転させると逆手に握り直した。

「強いよ。ただの父親さん」

「こ…ろ…す…貴方を…殺す…殺す…殺す殺す殺す殺す殺す」

揺れる前髪。

ふっ…

ずぶっと足を雪にとられた帽子の男は少年の刃を避けて倒れ、その体に少年は乗った。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

ペロッ

感情を写さない瞳を細めて少年は男の驚きの頬を舐める。そしてにこっと口だけ笑みを見せるとその開閉する唇に乱暴に噛み付き、影でナイフを掲げる。

「止めろ」

ぴたりと停止する少年。

「ちゃんと前金に小切手をくれたのに裏切るなんてすっきりしないからね。ほら、止めろと言っただろ!」

ナイフの刃を男のコートを滑らせる少年の姿に眉を曲げた金髪の男はつかつかとブーツを鳴らすと少年の襟首を掴み、投げ捨てた。

「うっ」

路地の壁に背中をぶつけた小柄な体は地で体を縮める。その白い子供の前髪を掴むと金髪の男は苦痛に顔を歪ませる少年を無理矢理立たせた。

「君は奴隷。違うかい?」

体が震える。

「君は下僕。違うかい?」

閉じた唇が震える。

「返事は?」



「………………はい。紫水(しすい)様」



何事もなかったかのように無表情になった少年は答えた。

「うん。で、君のご主人は僕じゃなく彼だ。彼の言うことを文句言わずに実行するんだよ。どんなに苦痛なことだとしてもね。たとえ死ねと言われても。分かった?」



「はい」



「ばいばい」

深く深くキスをすると、少年を置いて颯爽と黒のベンツに金を積んで車を発車させる。

話し掛けることも振り向くこともせずに紫水は捨てた。



「名前…は?」

洸祈(こうき)

「寒いだろ?」

「いいえ」

「そう言わずに。風邪を引いてしまう」

「………あなた様の名前を訊かせてください」

「………崇弥(たかや)……(しん)

「慎様、精一杯しますが邪魔と思われたら遠慮なく自殺を命令してください。あなた様の見えないところで死にますので」


……………―洸祈―……………


「はい。何でしょうか、慎様」

「やめてくれ」

「あっ…あぅ…ごめんなさい!邪魔なら―」

「違う!俺は主人じゃない!!」

「じゃあ―」

「洸祈!!!!!!」

再び降り始めた冷たいもの。それらは二人に優しく降り注ぐ。

慎のコートを羽織った洸祈を慎は強く強く抱き締めた。

「慎…様…」

目を見開いた洸祈は震える声で狼狽える。

「あ…の…俺は―」

「違うんだ洸祈…君は…」

人の温かさに包まれて頬を熱に火照らせた洸祈はじっと動かない。否、動けない。

「洸祈、これは俺からの最初で最後の命令だ」

慎は洸祈の肩に額を乗せて呻く。



命令だ…


「洸祈、今日までのことを全て忘れなさい」




林、

君を愛していた。

だから、


君との最後の約束を…―




俺は残りの生涯を掛けて果たす




「洸祈、愛するよ」

見付けるの遅くてごめんな。

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