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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
ツミビト
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ツミビト

雪の降る冬の日、元軍人の崇弥慎(たかやしん)と元従軍看護師の崇弥(りん)の間に双子が産まれる。

その日、産まれたばかりの双子の片割れ、崇弥洸祈(こうき)が何者かに連れ去られた。




ケースの中の子供の紅く光る瞳。闇にその光は怪しく輝く。

「崇弥の末裔…洸祈か」

蠢く影はケース下のプレートに書かれた“洸祈くん”の字を撫でるとケースを開け、中の白い布にくるまれた子供を抱き抱えた。子供―洸祈はただ影を見て騒がない。

「大人しいな」

影はふっと笑うと産毛の生える白い頬を撫でた。


「洸祈?(あおい)?」


澄んだ女性の声。

赤みがかった茶色の長髪を揺らした小柄な女は白い病人の服を着て暗い部屋の中に向けて呼び掛ける。

愛しの息子達の名を…

「誰かいるの?」

よく分からない存在を感じた女―林はその紅い瞳を細めた。

影は腕の中の子供をもう一度抱き直すとクスリと笑う。

「誰!?」

「今晩は、崇弥林さん」

「貴方…何で―」

ガシャン

窓硝子が夜風で内に破片を飛ばして割れた。

「あうっ」

赤子の声。

その冷たさに体を震わせた洸祈は身動ぎし、声を上げた。

「私の赤ちゃん!!」

自らの子供を確認しようと開け放たれたケースに触れ…

「洸祈!!!!何するの!!洸祈は慎君と私の大切な―」

「この子は僕が貰う」

「貰うだなんて!あげるわけないでしょ!!!!」

出産後の疲労からぐらりと傾いた林は壁に手を突いて我が子に手を伸ばす。

「洸祈を返して…」

「もう産めない体ですからね。でもいいじゃないですか。双子なんだし、一人くらいねぇ」

その言葉に緋の瞳が見開かれた。

「何言っているのよ!返して!私の子を返して!!!!」

「林さん、崇弥の家は(さくら)の家と同じ軍人の家系。当然、もうこの双子のことは軍に知れ渡っている。そう、この膨大な魔力を秘めた洸祈君のことがね」

「だから何よ!!!!っ…」

身体の異常に林はその場に崩れる。影は揺れ、洸祈は小さく震えた。

「なんで…なんで…洸祈を…!!返して…!返してよ!」

「この子はいずれ軍人になる…いや…軍に飼われる獣、兵器になる。林さん、息子がモノとして軍に縛られるのは見たくないだろう?だから僕が貰おう。この子は僕が育てよう」

「勝手なこと言わないで!洸祈も葵も私達が護る!誰にも渡さない!!軍にも!!!!…うっ…」

林は痙攣を起こす。

元々長くはなかった命。二十歳までと診断された命。

「洸祈も…葵も…最初で最後の…愛しの子…駄目…お願い…」

出産は無理。そう医者には言われた。

「私が…この世に残した…子」

どうにか出産に堪え、我が子を愛することに残り火を使おうと慎と話したばかりだった。

「慎君…と…私の…」

大切な家族。


「何事ですか!?」


部屋の外、廊下から響く看護師の声。ゆっくりと確実にこちらへ向かって来る。

「おーと、時間だ」

影は窓辺に寄った。割れたガラス片がぱりっと音がして砕ける。

「イヤよ…洸祈…洸祈…」

震える体を引き摺る林。ガラスで皮膚が切れるのにも構わず洸祈に近付こうとする。

「林!!!!!」

看護師じゃない。部屋に飛び込んで来たのは…

「慎…君…」

「林!どうした!!!!窓が!?」

息を切らした慎は床に倒れる妻を抱き締める。林は窓を向き、

「洸祈…が…」

影は跡形もなく消え去っていた。

洸祈もまた…。

「林!すぐお医者様が診てくれる!しっかりしろ!!」

「慎君、洸祈が…奪われた…」

弱くなる呼吸。慎は何度も何度も林を揺する。

「林!!洸祈は俺が取り戻す!!だから、生きてくれ」

「慎君…約束…」

「あぁ、約束するから」

そこで安心したようだ。林は慎の頭を引き寄せた。


「慎…愛してる」


貴方に会えて良かった。

私達の子を愛して。


「林、愛してるよ」


長い口付けを…

お別れの口付けを…


慎の涙は林の涙に混ざり落ちる。


ごめんね。


洸祈を護って…

葵を護って…


「……………………ばいばい」









「林…」


林は慎の腕の中で息をひきとった。

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