ザンコクナトキ(3)
…―ごめん―…
懺悔を繰り返す
ぽんっ
「ふぇ?」
頭頂部に柔らかい感触がして、涙でぐしょぐしょになった顔を上げた由宇麻。目をしょぼしょぼさせた彼は二之宮に抱き抱えられた。
小柄な体躯の由宇麻は簡単に持ち上げられる。
「言えたじゃん、童顔君。これなら加賀先生を納得させられるよ。ごめんね、突飛ばして」
状況が把握出来ないでいる由宇麻は喉をひっくと鳴らして俯いた。
「おこっ…て…やろ…?」
醜いって。
「素直になれない君に怒ってたよ。加賀先生、早く起きてください」
と、二之宮は自らのせいで転がる加賀を爪先でつついた。うっと呻いた後、加賀は一層瞳を緩ませて二之宮を見上げる。
「貴方も貴方です。童顔君の現状を知る医者なら望むならなんて言葉は使っちゃいけない。誰かが24時間見ててあげないと童顔君は死ぬんだ。分かってるはずだ。貴方は助けられる者を最大限助ける医者。まだ将来がある童顔君を助けずに殺すのか?」
「私はもう由宇麻君を閉じ込めたくなかった…」
しゅんと小さくなった加賀。二之宮は疲れきった顔で息を吐く。
「と、怒鳴りたいところでしたが童顔君の必死な気持ちは僕にも分かる。僕は童顔君の味方だよ」
「蓮君…」
と、由宇麻は抱き抱えられたまま、にこっと二之宮に抱き付いた。
「ちょっと、首が!!」
二之宮が由宇麻の腕力の強さに慌てる。
「ひゃっ」
ぼふんとベッドに投げられた由宇麻はその衝撃に加賀のように呻いて転がる。その姿が滑稽に見えて二之宮はクスリと微笑した。
そんな二人の姿に後ろで加賀が笑顔を見せたのは秘密だ。
「加賀先生、これから喋ることはトップシークレットです。無理ならご退出を」そう言う二之宮に由宇麻はこれから話すことが分かる気がして逃げ出そうと足を布団から出し、
「童顔君…ここで逃げるんなら君を縄で縛りあげて強制再入院させるから」
ぴくり。
二之宮ならやりかねない。
由宇麻は布団に潜った。
「それで?加賀先生は?」
「外にいるって言っても聞き耳たてちゃうから私も聞かせてもらうよ。勿論、他言はしない」
「他言したら貴方の頭の中空っぽにしますから。その医者としての知識もずばっと」
「二之宮君、君は一体何者なんだい?適格な応急措置も、嘘ではないだろう記憶障害を起こさせるとか―」
「それを今から」
色気のある顔で加賀の口に人差し指を立てた二之宮。
一瞬で加賀は押し黙る。
「……お聞き、由宇麻君」
くしゃり。
そして、二之宮は息を呑む由宇麻の頭を撫でた。
悲しい哀しい昔話を始めようか。
由宇麻の頬を涙が一筋流れた…―。