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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
あなたと共に歩む
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夢の終わり(2)

パーティー会場は璃央(りおう)の昔話で盛り上がりを見せ始めた頃――



教会で散々洸祈(こうき)との記念写真を撮られた琉雨(るう)はタートルネックにパーカー、チェックのスカート、ハイソックスに靴といういつもの格好に戻っていた。

そして、彼女はフォークを片手にストローからオレンジジュースをちびちびと飲みながら璃央の昔話を聞いていた。

『琉雨、二人だけで話をいいか?』

主のもとを離れ、人型を取る琉歌(るか)が隣に座る琉雨を見下ろす。

「え……でも、(しん)さんの舎弟さんの話……」

『琉雨』

「はう……はひ……」

尊敬の対象であり、自身の母体である琉歌に名前を呼ばれて琉雨は萎縮した。

しかし、琉歌はそんな琉雨の反応にはお構い無しですたすたとパーティー会場の出口へと歩いていく。その為、琉雨は琉歌の長い白髪を見ながら彼を追うしかなかった。



琉歌は煉葉(れんば)璃央の護鳥であり、琉雨の母体だ。

母体であり、父や母のような存在。

そして、琉雨の目標。

洸祈と陽季の結婚式をきっかけに久し振りに再会した璃央に琉雨がくっ付いていると、琉雨の希望を察した璃央が琉歌を説得した。

説得とは璃央のネックレスとしてぶら下がっていた琉歌が人型を取ること。

璃央の説得に応じた琉歌が長い白髪に赤い瞳、白い肌に白い着物の男の姿で琉雨の目の前に現れると、彼女は喜び、璃央から琉歌へとくっ付く対象を変えた。

それからは無口な琉歌に琉雨がせっせと料理を取って来たりと尽くしていた。

そして、琉雨がデザートを頬張りながら璃央による慎との出会いのエピソードを聞いていると、彼女は琉歌に二人きりで話をしたいと呼び出されたのだった。

普段の琉歌は琉雨の話を聞くだけ。あっても時々、相槌を打つだけだった。

それが、物言わせぬ口調で琉雨をわざわざ呼び出したのだ。

琉雨は琉歌に怒られるのではと思い、両手を胸元でキツく握った。



「あの……琉歌様……」

琉雨は人気もなく静かな廊下で立ち止まった琉歌を見上げた。琉歌が振り返る。

琉歌の赤い目は琉雨と同じ。

『琉雨。誰と契約している?』

「はひ?……だ、旦那様です……」

琉雨は崇弥(たかや)洸祈の護鳥だ。

『璃央は気付いていないようだが、崇弥洸祈にとても似た……しかし、違う魔力をお前は微かに持っている。二重契約をしているな。誰とだ』

「あう……えっと…………」

琉雨は琉歌の視線から逃げるように俯いた。

彼女は「あの」「その」と言葉を濁すだけでなかなか名前を言わない。

それに琉歌が元々切れ長の瞳を細めた。

『琉雨』

「あうっ」

肩をびくつかせ、猫背になる琉雨。

彼女は全身から恐怖を滲ませていた。

『護鳥は決めたたった一人だけに従う。確かに、お前は母体の私が無理矢理崇弥洸祈と契約を結ばせた。お前が決めた人間ではない者と。だが、お前は崇弥洸祈と過ごしてきて彼を信頼し、彼に力を貸すことを決めたのではないのか?』

「旦那様はルーの全て……です。ルーは旦那様の為だけに動きます」

『なら何故、お前は二重契約をしている!』

琉歌の口調に力が籠る。

それは琉雨を責める口調だった。

琉雨は俯いたままよろよろと後退り、壁に肩を寄せる。

その時、彼女の顔から数粒の水滴がカーペットに落ちた。

「ルーは旦那様の為なら何だってします…………ルーは護鳥である以前に、ただの琉雨なんです!旦那様から存在と名前と家族を貰った琉雨なんです!ただの琉雨は旦那様の為なら何重だろうと契約します!」

琉歌に声を荒げた琉雨。

表情の変化が乏しい琉歌の瞳が僅かに見開かれる。

「琉歌様こそ分かっていないんですよお!!!!」

琉雨は語尾が掠れるぐらい声を張り上げた。

叫び声に等しい。

「琉歌様よりもルーの方がずっとずっと旦那様のことは分かっています!旦那様を護るにはあのヒトと契約するしかなかったんですっ!!!!」


ぽふっ。


きっと琉雨は分からず屋の琉歌への怒りを拳に乗せてぶつけたつもりだったのだろう。

しかし、琉歌の腹へと突っ込んだ少女の全力の拳は何とも腑抜けた音を立てた。そして、琉雨はバタバタと琉歌の脇を走って行った。




「琉歌、琉雨の言う通りだ。琉雨の洸祈への想いは本物なのだから、私達に出来ることは琉雨を信じてやることだけだ」

『……璃央』

「洸祈がパーティーに出てくるようだ。あいつに琉雨を慰めて貰うか」

『………………』

琉歌はじっと璃央を見詰めると踵を返す。

その瞬間、琉歌の体は青白い光に包まれ、光が消えたかと思うと、璃央の首には鳥のモチーフの付いたネックレスが掛かっていた。





司野(しの)さんは部屋の鍵を返してもらっていたという情報を得、一先ず安心した俺と二之宮(にのみや)は、洸祈の様子を見に行く為にエントランスホールのエレベーター前でエレベーターが降りてくるのを待っていた。

と、降りてきたエレベーターの扉が開くと、ジーンズにパーカーの洸祈が突っ立っていた。

陽季(はるき)、二之宮」

「洸祈!起きたの?」

何て偶然だ。

入れ違いにならなくて良かった。

「二人こそ何してたわけ?俺を差し置いてデートしてたとか言わないよな?」

「キレるよ?崇弥」

冗談でもデートとか言わないで欲しいかな。

俺もキレるよ?洸祈。

「あ、琉雨見なかった?」

若干、というかかなりキレてしまっている二之宮の眉間の火山に気付かずに洸祈は全く関係のない話題を滑り込ませて来た。

「琉雨ちゃんならパーティー会場だよ」

「いや、琉雨が琉歌に怒ってどっかに走って行っちゃったとか、ちぃからメールが。(あおい)からも似たようなメールが来たからちぃの悪戯ではないと思うけど。まさか琉雨が琉歌に怒るなんて……あいつ、一体何を言ったんだ……」

琉歌……確か、煉葉さんの護鳥とか。

姿は見たことないが、普段は魔法の力で姿を隠しているのかもしれない。

それにしても、あの琉雨ちゃんを怒らせた琉歌ってどんな護鳥なんだろう。

取り敢えず、俺の琉歌に対する印象は悪い奴だ。まだ会ったことはないが、琉雨ちゃんを怒らせる奴は皆ワルに決まってる。

そして、司野さんをイラつかせた俺もワル……。

「俺の幼女センサーはこっちだって言ってるんだけど」

「メールは何分前に来たんだい?」

二之宮が訊ねた。

洸祈がアンバダサーをじゃらじゃらと付けた携帯を開く。

女子高生みたい……今は女子高生もスマホだからじゃらじゃらしてないか……。

一昔前の女子高生みたい。

「ほんの数分前だな。……2分前だ」

「なら僕達は10分程前からエントランス付近にいたから、多分、外には出てないと思うよ。陽季君はどうだい?」

「俺も出てないと思うけど」

小さい女の子が一人で玄関を飛び出して行ったら気付いている。

それに、司野さんを気にしていた為、いつも以上に人の動きに敏感になっていた。

しかしまぁ、俺も人間である以上、断言は出来ないが。

「幼女センサー……うーん……琉雨センサーも使うか」

何言ってんの、この子。いや、琉雨ちゃんセンサーがあるならそれを最初から使えば良いものを。

「…………あっちだ!」

洸祈は悩みに悩んだ末、ぴょこんと出たアホ毛をピンと立たせた。

そのアホ毛って神経通ってたんだ?

「じゃっ、パーティー会場で」

「あ、琉雨ちゃん探し手伝おうか?」

「いや」

洸祈は首を振り、


「琉雨が見付けて貰いたいのは俺にだから」


と、胸に拳を当てて自信満々に言った。

二之宮はそれを見て直ぐにわざとらしく額を手で隠したが、幼女センサーの他に琉雨センサーも機能しているらしいし、俺は洸祈に任せることにした。

琉雨ちゃんが自分を見付けて貰いたい人の一番候補は洸祈――というのは俺もそうだと思っているし。

「でも、人手が欲しい時は直ぐに呼んで」

「んー」

「それと、これを着なさい」

俺は着ていた羽織を脱ぎ、洸祈の肩へ。

その時に襟を整える振りをしながら洸祈の頬にキスをした。

「風邪引くよ、洸祈」

「陽季こそ寒くないか?」

白い着物1枚の俺。

見た目は寒そうだし、実際に足下は寒いが、それ以外は割りと平気だ。

「温かいパーティー会場にいるから。待ってるよ」

「分かった」

洸祈はひらひらと手を振るが、わざと手の甲を俺達に向けて薬指の指輪を見せてきた。そして、パーティー会場へとは別の廊下に向かって走って行った。


可愛い奴め。



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