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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
あなたと共に歩む
333/400

誓いの言葉

以前、修行という名目で(れん)のいる劇場で働いていた陽季(はるき)は他の劇団員に誘われてボランティア活動にも参加していた。その中には教会でのボランティア公演もあり、その縁で今回の結婚式の会場にその教会を借りることができたのだった。

教会の管理人は陽季と洸祈(こうき)の関係を理解し、その上で貸していた。

それ以前から洸祈がその管理人と知り合いだったことを陽季が知ったのは結婚式当日だったが。


12月28日の早朝、教会の裏手にある一軒家のインターホンを陽季が押した。彼の背後には洸祈。

暫くして、軽装にエプロン姿の男が玄関ドアを開けた。

「本日はよろしくお願いします、坂東(ばんどう)さん」

「よろしく、陽季君」

坂東は陽季とその恋人が待機できる部屋として自宅を貸す予定で、ドアを大きく開けたが、陽季より先に陽季の恋人がぴょこんと玄関に入り込んだ。

洸祈が常時眠たげな坂東の目を見上げて笑う。

「今日はよろしく、たっさん!」

「え…………洸祈?あー洸祈?相手って洸祈か!?この洸祈!!!?」

「この洸祈……です。はい」

陽季は洸祈と知り合いと言うことに驚きながらも、初めましてよりも知っている仲の方が洸祈が緊張しにくいと安心する。が、坂東の意外そうな反応に陽季は苦笑いした。

「結婚すんのお前か。いい人見付けたな」

「でもね、陽季はいい人だけど、見付けたのは陽季の方だよ。陽季が俺を見付けたんだ」

「そうなのか!?」

「はい。一目惚れしました」

またも意外そうな反応。

陽季は坂東の中の洸祈の位置付けを察する。

「いい人に見付けて貰ったな。ずっと幸せにな」

「ん。たっさんも花と幸せに」

「おうよ。じゃ、そことそこの部屋を使っていいから。トイレはあっち。それと、必要な物があったら遠慮なく言ってくれ。俺はリビングで朝飯だ」

坂東は陽季と洸祈に微笑むとリビングに入っていった。

そして、直ぐに包丁がまな板を叩く音が聞こえてくる。少し遅れてじゅーじゅーとフライパンの上で油が跳ねる音も。

洸祈と陽季は顔を見合わせると、軽く口付けを交わしてから無言で別々の部屋に入った。






「……ヤバい……緊張してきた」

「もー。普段からラブラブ見せ付けてくる割にメンタル弱いのね。舞台での自信はどこいったの」

「……だって……着物じゃない」

着物に扇子じゃないと舞台での自信とか思い出せない。前髪を上げたから額がすーすーするし。スーツもネクタイもキツい。

七五三の気分だ。

それと、俺達は普段からラブラブを見せ付けてるバカップルじゃない。

リア充なのは認めるけど。

「菊さん、洸祈どんな感じだった?」

今朝も絶対に薬は飲まないとか言いながら、べそかきまくっていた洸祈だが……。

二部屋に分かれて準備に取り掛かった時は落ち着いていたが、きっとまた不安になってる。

一応、あっちの応援に葵君がいるが。

「30秒だけ胸を貸してあげたわ」

「……は?」

何言ってるの?菊さん。

「陽季よりもがっちがちで固まってて(あおい)君凄く困ってたの。だから、私の胸を貸してあげてから陽季のお宝映像見せておいたわ」

「は?は?」

「練習中の陽季の失敗映像集。役立って良かったー」

……突っ込みは入れないからな。

入れたら俺が疲れる。精神的に。

でも、少しだけ気を紛らわすことが出来た。

洸祈も頑張っているのだ。

なら、俺も頑張ろう。




菊さんと葵君が数分前に教会の方に行った。

……そろそろだ。

俺は部屋を出、隣部屋のドアの前に立つ。

「…………洸祈、準備出来た?」

ノックはせず、声を掛けるだけにした。

『………………うん』

小さな声。

だけど、分かった。

洸祈がドアの直ぐ傍で耳をすましていることは。

「大丈夫。一緒だ。ずっとずっと」

カタンと何かがドアにぶつかる音がした。

「いつまでも一緒……洸祈、ドアを開けてくれる?」

1分、1時間、1日、1ヶ月、1年……俺はいくらでも洸祈を待つつもりだった。

俺にとっても洸祈にとってもこの儀式は人生を変えるような出来事だから。

他人には恋人の延長線に見えるだろうが、俺達には延長線なんてものじゃない。

少なくとも、俺にとってはこの先の人生を全て洸祈に捧げる誓いだ。


かちゃり。


「陽季……かっこいいな」

ネクタイ代わりの赤いリボンに真っ白のスーツを着た洸祈がぎこちなく微笑んだ。

身支度中にも泣いたのか、彼の目尻は少しだけ赤かった。

「ありがとう。洸祈も白が似合ってるよ」

「ありがと」と短くくすくす笑いをし、洸祈は肩を俺の肩にぶつける。

その時、お日様の匂いがした。

日向の匂い。

「行こう。俺達の結婚式に」

俺に向けられた手のひら。

触らなくても知っているけど――


「洸祈……愛してる」


――握ると、洸祈の手は温かかった。


「知ってる」


洸祈は片手を腰に当てて自信満々に言った。



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