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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
あなたと共に歩む
331/400

新たな出発(3.5)

あけましておめでとうございます(*‘∀‘)

ああ、また一年・・・(-_-メ)取り敢えず、頑張りましょう!

寝正月分を一気に投稿。お付き合いくださいな。

ここ最近、結婚式の準備や仕事で洸祈(こうき)の外泊が多い。

今朝、用心屋の全員に洸祈から招待状が手渡され、程無くして洸祈は仕事で店を出ていった。

まぁ、あれは仕事が忙しいと言うより、自分の目の前で招待状を読まれるのが恥ずかしかっただけだと思うが。

そんなこんなで、用心屋風紀委員の洸祈の外泊が多いと、千里(せんり)の欲求も高まるわけだ。


「ねぇ、あお。陽季(はるき)さんのこと、市橋(いちはし)さんとか(うみ)さんって呼んだ方がいいのかな?」

「陽季さんは陽季さんでいいんじゃないか?招待状に本名書いたのはけじめみたいなものだろうし……何してるんだ?」

「今夜は目隠しぷれいの気分だから……えーっと、ネクタイネクタイ」

パジャマ姿でクローゼットに入り、ハンガーに掛かった服を掻き分けるのは普通だ。

明日の洋服を事前に用意しておくなど、千里にしては上出来だが、勿論、千里にそんな理由はない。

「ネクタイどっかいっちゃった。あおの部屋にある?」

「いやー……ないな」

あるが、ない。

俺は千里のベッドに寝転がりながら、千里が定期購読しているファッション雑誌を捲った。

雑誌は似たような顔の男が似たような服を着ているだけでつまらないが、千里と目を合わせると嘘がバレる。

千里は「うーん」と唸ると、クローゼットの扉を閉めた。そして、今度はベッド下の収納を漁る。

「ネクタイないなら……紐……紐……」

「千里、諦めたらどうだ?」

千里の周囲には収納棚から出したガラクタが散らばっていた。と言っても、千里にはお宝達だが。

俺はベッドの上から高みの見物をしつつ、紐が見つからないことを祈っていた。

「じゃあ、あおは目隠しぷれいじゃなくて何ぷれいしたいの?」

…………俺はその“ぷれい”から離れたいんだよ。

「あー……この雑誌を一緒に読みたい」

千里が好きで読んでいるこのファッション雑誌のどこがいいのか純粋に知りたい。

「あおがファッション誌なんて珍しい。お洒落に興味が?じゃあ、今日はあおの着せ替えやろうかな!」

「え……」

崇弥葵(たかやあおい)、冬に着たいカフェテリア映えのお洒落コーデ!プロデュースby僕!」

意味不明。

ファッション雑誌読むどころか着せ替えになってるし。

「あお、因みにその雑誌の中でいいなってコーディネートはあった?」

なかった。

なかったからこそ、千里がファッション雑誌を読む理由を知りたかったのだ。

「……俺にはファッションとか遠い世界で……」

遠いどころか、次元が違う。

「そっかそっか。大丈夫、あおに似合うコーディネートは僕が考えてあげるよ。まずは……」

千里は手にしていたゼンマイ仕掛けの機関車をベッドに置くと、立ち上がり、床にガラクタを散らかしたままクローゼットを開ける。

行動がまるで子供だ。

おやつに呼ばれて玩具を放置し、それっきりの子供と同じ。

そして、千里が放置した玩具を片付けるのは昔から俺の役目だった。

「まずは冒険!これとかどう?」

千里に代わって玩具や小物を片付けていると、千里が自信たっぷりの表情で一着の洋服を俺に見せてきた。

黒の丸首のシャツ――なのだが、肩の部分がない。切れているのだ。

あれを着た場合、多分、肩が丸出しだ。

かつ、これに加えて裾が……ぼろぼろ。

「裾がぼろぼろだけど」

爆発に遭った人の服みたいになっている。

「ファッションだよ!」

「は?」

年代物のお古じゃなくて?

「敢えてぼろぼろにしてるの!かっこいいでしょ!?」

「え?は?はい?」

そんなに熱心に語られては俺が困る。本当にこいつは中古品に見えるものを敢えて新品として買うことに満足しているのか?

「…………もういいよ。あおにこれ系の良さを伝えるのは無理だって理解したから。別のにする」

「……すまない」

千里に拗ねられると少し悲しい。だから、謝っておく。

もしかしたら、千里の主張の裏には誰もが納得する理由があったのかもしれないし。

俺のファッション知識が薄いばっかりに……。

「あおは良く襟付きのカジュアルなシャツにセーター重ねてるよね。学生みたいな。知的で」

「…………あ、ああ……」

俺のファッションに解説を入れられるのはかなり恥ずかしいな。

俺は意識して着てないのに、千里の解説で否応なしに意識させられる。

「でもね、あおはそろそろ学生らしい知的さじゃなくて、大人らしい知的さをアピールしてくべきだと思うんだけど。どう?」

「どうと聞かれても……子供っぽいよりは大人っぽい方がいいが……」

「じゃあ、これ。シンプルに無地の襟付きシャツ。カラーは黒。下はスレンダーなので、カジュアルな革靴履いてね。あと、袖は捲ってっと……どう?」

床に服を並べ、一式を揃えて見せる千里。

全体的に黒い。

あと、細い。

「……俺よりお前の方が良い。お前の白い肌とか、金髪とかが映える。細っこいお前の体型に合ってるし。それに、確かにシンプルで大人っぽいが、俺が着るとかなり暗いぞ。喪服……」

「喪服!?」

「いや、喪服はちょっと言い過ぎたな。でも、黒はお前の好きな色だろ?俺もお前には黒が合うと思うから、俺まで黒だと隣を歩き辛くなる」

千里が首を傾げた。

それだけで俺の言葉が足りなかったことが分かる。

「俺はお前が自慢なんだ。綺麗でかっこよくって。そんなお前の隣に少しでも長くいたいんだ。だから、俺はお前の隣が似合う男になりたいんだよ」

すると、千里は目をキラキラと輝かせ、次の瞬間には俺は千里に飛び付かれていた。

「あお!僕もあおの隣が似合う男になりたい!!」

「いや、俺がお前に合わせるから。お前も俺に合わせようとしたら一生似合わない二人組になる」

「僕のコーディネートレパートリーは沢山あるから、僕があおに合わせるよ!ナースとお医者さんでしょー?バッターとキャッチャーでしょー?先生と生徒でしょー?探偵と助手でしょー?」

それはコスプレじゃないか?

と、早速、新たなコスプレ衣装を探してクローゼットに入る千里。

「あ、ネクタイ発見!目隠しぷれいしよっ!」

「…………ネクタイ……」

マジか。

そして、子供同然の千里は床に並べて放置したままの洋服を跨ぎ、玩具の片付けをする俺を片手でグイとベッドに突き飛ばす。

欲求全開の時に限って良く変な馬鹿力を発動させる千里。

「せん……」

あれよあれよの間に深紅のネクタイで視界が隠される。

「もうその気なんだから。あおのそう言うやらしいとこも好きだよ」

やらしいところ?

俺はやらしくなんかない。

お前じゃないんだし。

「自覚ないとこが……いいの」

千里の指が俺のズボンのゴムに引っ掛かる。

何してるんだ。

脱がせるのか?それとも俺のパンツの柄でも見てるのか?普通だぞ。

「あお、僕は君に告白しなくちゃいけないことがあるんだ」

「え?」

ズボンにするすると入ってくる千里の手。

……するのか。

「僕には氷羽(ひわ)がいる」

「ああ」

「つまり、僕には千里の人格と氷羽の人格がある」

「ああ」

だけど、俺が氷羽の人格に会ったのは本当に数えるぐらいだけ。

「そうだよ。この体で話すのは殆ど僕。千里だよ」

ということは、千里の体の主導権は千里にある――そうだろう?

「ううん。僕と氷羽は対等で平等なんだ。僕が皆の千里でいられるのは氷羽が僕の為に遠慮してくれてるからなんだ」

「そう……なのか……」

俺は千里の指の感触を感じながら、どうにか平静でいようと体の下に敷いた毛布を両手で握って堪える。

千里が今、何を思っているのか……目隠しで分からない。

「氷羽はね、洸が好きなんだ」

「……………………」

“洸くん”だろう?

氷羽が洸祈に対して無感情ではないことは気付いていた。

ただ、俺にはその感情の名前が分からなかった。

しかし、今、氷羽と対等な立場にいる千里がその感情の名前を“好意”だと言い切った。

それはつまり……。

「っ……千里……」

千里の指は俺を責め立てる。

急くように、焦るように。

「あお、目隠しされるといつも以上に感じるよね?何で?」

「はっ……言うかよ……」

その手の罠に嵌まって卑猥な言葉を口にするほど、まだ俺は自分を見失ってはいない。

「僕に触られてるのに集中しちゃうからでしょ?」

千里は煽るように指を巧みに使い、俺は苛つきを覚えながらも生理的反応を抑えられずにいた。

しかし、千里は一体、俺に何を言いたいのだ。

「だから、感じて。僕の君への気持ちを。もっともっと感じて」

「せんっ……言ってること、の、意味……が……」

「僕は洸と陽季さんを応援してる。でも、氷羽は……嫉妬してるんだ」

氷羽が嫉妬していると千里は分かる。

理解できる。

氷羽の嫉妬心を理解できる。

「最近、氷羽の気持ちが強くなってて、時々、凄く嫌になる」

「嫌って……」

「洸と陽季さんの結婚。僕自身が二人の結婚に嫌になるんだ」

「じゃあ、お前はその時、洸祈のことを……」

好きになるのか?

俺じゃなくて、洸祈のことを。

確証はないが、俺は度々、千里の中の氷羽に会っている。そして、氷羽に会う度に彼は洸祈の名を呼んでいた。

“洸くん”と。

「洸のことを好きになる。君のことを好きなように洸のことを好きになる」

お前は今、その言葉をどんな気持ちで喋っている。

顔が見たい。

でも……見たくない。

俺は“洸くん”に執着する氷羽の気持ちの深さなんて知りたくないはずなんだ。

「俺よりも洸祈が好きか?」

最低な質問だ。

千里を疑う質問だ。

だからなのか、もう千里の指を感じなかった。

千里が触るのを止めたのか、俺の脳が麻痺したのか。

「……氷羽が二人の結婚は嫌だって……洸くんを取られたくないって……言わなくても、相手の強い感情は勝手に伝わってくるんだ。僕達は」

それはどっちなんだ。

「でも!お前は……お前だろ!?」


お前の一番は俺なんだろ!


「氷羽が洸を好きでも、その感情に僕の気持ちが揺れても、ずっとずっといつだって、僕は崇弥葵だけを愛してる!!誓うよ!!」

どうして声を荒げるんだ――そう言って落ち着かせようと思ったら、真っ暗な視界のまま誰かにキツく抱き締められた。

肩を抱くように。

「……僕の告白は君に嘘を吐きたくなかったから。氷羽の悲しい気持ちや妬ましい気持ちを感じても、僕は君しか愛せない。…………だって、僕の一番は葵だから」

意味が分からない。

俺が一番なら……不安にさせるな。

「…………ごめん。僕もけじめを…………怖い思いさせた?」

「っ」

千里が俺の視界を塞ぐネクタイを外した。

目尻が熱いし、視界は水滴を通したかのように揺れて照明が無駄に眩しい。

そして、千里の顔が逆光で影を落とし、それでも翡翠色の瞳が俺をじっと見詰める。

「泣かせたね……でも、綺麗だよ、葵」

「き……れい……言うな」

俺の泣いてる顔で喜ぶのはお前だけだ。

「綺麗なんだ、君は。感情を高ぶらせた君は誰よりも美しく気高い」

「恥ずかしい言葉は並べるな……頼むから……」

俺を焦らせたり怖い思いさせたり泣かせたり辱しめたり、本当に性悪な奴だ。

だけど、千里に俺が一番だと言われるだけで俺は全て許せるし、千里がもっと好きになる。


俺はもしかしなくても、マゾだな。


そして、千里が「はいはい」と笑って俺の濡れた目尻を指で拭った。


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