“『羨ましぃ~!私もあんな恋したい(はぁと)』ラブラブ伝染作戦” 後編
次話から最終章入ります(/・ω・)/
あと、1日早いけど千里誕生日おめでとー(*ノωノ)
「今日はありがとうね」
「それは私の言葉だよ。買いたかったんだ、胡鳥さんへのプレゼント。なかなか決められなくて」
「いやぁ、どんな些細なことでも君の役に立てるなら俺は嬉しいよ。あ、ここだ。安くて美味い洋食屋」
「わあ、お洒落ね!」
「おすすめはパスタらしいよ。どれ選んでも損はしないって」
「名前が凄い。サンタマリアパスタ……とても神聖そうなパスタ。何だか楽しそうなお店」
「そうだね。入ろっか」
「うん」
作戦はこうだ。
『俺、土曜に洸祈と定番ショッピングコースでデートするから』
『定番ショッピングコース?何それ』
『まず、雑貨屋で新商品をチェック。洋服屋で俺が洸祈に服を選ぶ。昼飯。ペットショップで小動物を見る。雑貨屋で新商品チェック。スーパーでその日用のおつまみやデザートを買う。夕飯。で、帰宅。からの、大人の時間』
『大人の時間?』
『聞くの?』
『いや、聞かん』
『双灯はやよさん誘って「双灯さん、お昼どうしよっか?」「陽坊おすすめの店行かない?奢るから」「やったー。行く行くー」で、昼飯から合流。で、俺達のラブラブデートをストーカーして?』
『ストーカー?』
『やよさんってゲームっぽいの好きだから、ゲーム感覚で追跡してくれればいいよ』
『それでラブラブが伝染すんのか?』
『さあ?』
『………………』
と言うわけで、俺は陽季の杜撰な計画に乗ったわけだ。
しかし、最初から壁にぶち当たった。
俺はどうやってやよちゃんを誘えばいい?
今まで休日なんて昼寝で潰していた。1人カラオケや1人野球観戦。あっても女性陣の荷物持ちや年少組のお守り役。
さてどうしよう――と考えていたら、
『双灯さん!私、そこのショッピングモールに行こうと思ってたの!双灯さんの意見も聞きたくて。嬉しい!』
やよちゃんに喜ばれたのだ。
胡鳥の誕生日が11月27日だが、やよちゃんはずっと胡鳥への誕生日プレゼントについて悩んでいたらしい。で、俺に誘われ、俺なら胡鳥の趣味が分かるかも、男同士貰って嬉しいものが分かるかも、と考えたようだった。
理由が胡鳥への誕生日プレゼント選びとは言え、やよちゃんとお出掛け出来るのだ。
どんな理由だろうと、やよちゃんと二人きりなら……!
勿論、胡鳥への誕生日プレゼントについては真面目にアドバイスした。だって、やよちゃんは胡鳥が喜ぶ姿を望んでいるのだから。
そして、俺達は昼になり、ランチする為に陽季おすすめの店にやって来たのだ。
流石、定番なだけはある。
陽季おすすめの店はやよちゃんの言う通り、お洒落で落ち着きある内装だった。メニューも平均価格がかなり安く、お財布に優しい。
ただし、ランチタイムは一気に込むらしく、俺達は陽季の指示で11時に店に入った。
店内に入った時、ちらと赤茶の髪が見えたが、俺は気付かない振りをしながら近くの席に着く。
「やよちゃんはサンタマリアパスタ?」
「うん!」
「俺は……本日のおすすめにしようかな。……すみません、注文いいですか?」
俺は傍を通ったウェイターを呼び付けた。
やよちゃんはやっぱり女の子で、早速、午前の戦利品を袋を開けて見ている。「この色、やっぱりいいなぁ」等々。ぶつぶつ言っているが、俺にはどんな姿のやよちゃんも可愛い。
今日はいつものポニーテールをほどいてマフラー。マフラーにだぶつく髪とか……やよちゃんの可愛さ1倍。
あ、1倍じゃ小さい?
だって、彼女はいつでも可愛いから。
俺が注文していると、
「はる、これ何か凄い!ぺぺろんふらっぺみらくるぱすた!ミラクルな味する!食べて食べて!凄いから!」
「…………うん」
俺達の座る角のテーブルの斜め向かい。
やよちゃんから見て正面右斜め、俺からは背後左斜め後ろ。
俺は振り返りたくなるのを抑えて、まずはやよちゃんに気付かせる。
「ねぇ、洸祈君だよね?」
やよちゃんが首を伸ばして二人の方を見、注文を繰り返すウェイターの横で俺に言う。
先にウェイターの相手をしてから、俺は知らぬ存ぜぬを決めて後ろを振り返った。
さて、洸祈君の女装力はいかほどか。ちょっとどころか、俺はそれがかなり気になっていた。
素体が良いから、それを陽季がどう料理しているのか。陽季監修の洸祈君の女装姿は……。
「周り気にして女装してるんじゃないかな。そっとしておこ――」
変だった。
仲良く陽季と女の子な洸祈君がランチをしているはずが……変。
俺は急いで体の向きを戻して俯くと、やよちゃんに隠れてスマホを操作する。
宛先は洸祈君の向かいに座る陽季だ。
『何でそーなってんの?』
で、送信。
「そっか……周りを気にして……」
やよちゃんは納得しているが、俺は納得出来ない。
何故なら、もう既に作戦通りじゃないからだ。
陽季と洸祈君、この二人がおかしい。
ちろりん。
30秒して陽季からメールが帰って来た。
『洸祈に脅迫された』
それだけ。
「陽坊……お前、洸祈君の恋人なんじゃないのかよ…………」
脅迫される仲だったのか。
「陽季、本当に洸祈君が好きなんだね」
しかし、やよちゃんは感慨深そうだ。
やよちゃんがこれで良いのなら……俺も構わない。
陽季が女装してようが。
「それにしても、陽季の女装レベル高い……やる時はとことんの陽季らしいね……」
「あ……うん」
やよちゃんに評価されるぐらいなら、あの女装凄い方なのか。
地毛に合わせたのか、髪はプラチナブロンド。長髪で男らしいところを隠し、タートルネックで首も隠す。
仕掛けは分からないが、豊満な胸がある。
仕掛けは全然分からないが。
そして、フリフリのロングスカートに武骨な足を隠し、ファーの付いた真っ白のロングコートであらゆる違和感を隠せば完成。
女らしさを追求するのは普段の陽季と変わらない。
俺達は見慣れているが、陽季の白銀の髪しかり、プラチナブロンドしかり、周囲から浮いているのは否めないが。
「知らない人から見たら女の子にしか見えないよ。流石、陽季」
うんうんと1人頷くやよちゃんだが、気になるのは完璧女装男子――陽季の表情が暗いこと。
計画通りに行かないこと自体が悔しいのか、洸祈君の女装姿が見れなくて暗いのか……。
『やよちゃんがお前の女装誉めてるぞ』
取り敢えず、元気付けにメールを送った。
ちろりん。
『当たり前』
返信は早かった。本当に直ぐだ。
「ペペロンフラッペミラクル凄い!美味しい!洸祈にも私のカプチーノマルガリパスタあげるー!」
そして、立ち直りも早かった。
「ありがとー、はる子ちゃん!大好き!」
「私も大好き!」
………………斜め後ろのラブラブカップル、ラブラブ過ぎて苛ついてくるんだけど。
「ねぇ、やよちゃ――」
君も陽季達のあのいちゃつきぶりはないよね?
と、聞こうと思ったら、やよちゃんは頬杖を突いて二人を見ていた。
「いいなぁ……」
嬉しそうな、羨ましそうな。
乙女の顔。
「………………陽坊達、本当に幸せそうだよね」
「うん……いつも感じるの。陽季の、洸祈君の為にって想いを」
「好きだって自信満々に言い合える関係いいよね」
「うん」
パスタの感想を楽しそうに語らう二人を見ながら、やよちゃんが頷いた。
ああ、俺も言えたらいいのに。
やよちゃん、好きです。
君に自信満々に言えたらいいのに。
結局、やよちゃんがデート中の二人に話し掛け、俺達はカップル+野次馬2人で定番ショッピングコースを廻った。
作戦とは言え、デートを邪魔したら悪いかなとは思ったが、洸祈君が陽季とは出来ないガールズトークでやよちゃんと盛り上り、俺と陽季は後ろから追い掛けるだけ。
「女装、上手いな」
「慣れてるから」
「……舞台だと着物とか髪飾りしてるもんな」
「女装し慣れてるから」
「え?………………趣味?」
「なわけあるかよ。洸祈がいかにも女子な店に入りたい時、男二人じゃ浮くだろ?あと、カップル向けのレストランとか。カップルって言ったって、男二人で来られると店側も俺達もいい思い出なんて作れないからな」
少し驚いた。
陽季がこんなに成長してたなんて。
陽季は洸祈君が大事だからこそ、恋に盲目になりがちだと思っていた。なのに、今の陽季は洸祈君自身のことだけじゃなく、きちんと周りの様子も見えている。
大人のふりをしていた子供が、本物の大人に成長したみたいな。
「寂しいな……」
「そうか?俺達が異端なのは重々理解してるし、俺は男とか関係なく、洸祈が好きなだけだから。それに、異端な俺達を理解してくれる人もちゃんといる。だから、寂しくなんかない」
俺は寂しいよ。
方向音痴で直ぐ迷子になる世話焼かせ坊主が立派になって……親の気持ちってこんななのかな。
「洸祈、ディナーの予約そろそろなんだけど」
「えー。ねぇ、はる。琉雨の髪にはどっちが合う?右?左?」
「どっちも合うけど、琉雨ちゃんが既に持ってる飾りは赤色が多いし、そっちにしたら?」
「夏に爽やか、冬に可憐!じゃあ、左のにする!」
微笑み、白色の髪飾りを持った洸祈君は爛々気分でレジへと歩いて行った。すかさず、陽季が洸祈君を追い掛ける。
いかにも女子なお店だからだろう。
まぁ、洸祈君は琉雨ちゃんへのお土産のことで頭が一杯のようだが。
「双灯さん、帰ろっか。洸祈君、陽季と夜景の綺麗なレストランでロマンチックな夜を過ごすんだって言ってた」
「沢山からかえたし、帰るかな。はる……はる子ちゃん、俺達帰るわ」
「ばいばーい!またねー!」
「ばいばい、洸祈君!」
はる子ちゃんの代わりに洸祈君が俺達に手を振ってくれた。やよちゃんも手を振り返す。
そして、はる子ちゃんは「陽季」と呼び掛けた俺を睨んでいた。
美女の顔が台無しだぞ、はる子ちゃん。
「あ!帰りのバス!双灯さん、こっちこっち!」
陽季と見詰め合っていたら、スマホを見たやよちゃんが俺の手を握り、駆け出した。
足を縺れさせつつ、どうにか歩調を合わせる。
「これ逃したら1時間待ちだよ!あと3分で来ちゃうよ!」
背中を追い掛けて分かる。
やよちゃんは背が低い。
やよちゃんは華奢。
やよちゃんの髪がふわふわ揺れてる。
洸祈君が選んであげたブレスレットを早速付けてる。
何より、可愛い。
ちろりん。
メールだ。
見なくても差出人は分かる。
何故なら、“ちろりん”は陽季専用だから。
序でにメールの内容も分かる。
『作戦成功』
手が温かい。
実際に手を繋いでいるんだ。
だから、間違いない。
やよちゃんの手はとても温かい。
~後日~
作戦はこうだ。
胡鳥が双蘭と菊菜を呼び出し、偶然を装いつつ水族館デート中の陽季と洸祈に出会す。そして、ストーキング。
最終的にイチャイチャカップルを見た双蘭と菊菜は恋をしたくなる。
――だ。
しかし、
陽季が洸祈のお迎えに出掛けようと借りている部屋を出ると、玄関ドアの前で待機していた3人組に部屋に押し戻された。
「もう何なの!?ことさん!!!!」
「ごめんごめん。二人を誘ったんだけどやっぱり疑われて、理由をとことん追求されて言っちゃった」
「『理由は聞かずに水族館に一緒に行きませんか?』なんて怪しいに決まってるじゃない」
菊菜が陽季の眼前に立ち、陽季の女装姿を上から下まで観察する。
「俺もそれは怪しいと思うよ!ことさん、もう少しマシな誘い方してよ!」
陽季はやる気の欠片も見えない胡鳥に肩を怒らせるが、胡鳥は軽く笑うだけだ。
「ん、絶妙ね。流石、私達を見て育っただけのことはあるわ。でも、これは許せない」
「ちょっとスカート捲らないでよ!菊さん!」
あろうことか、菊菜は陽季の履くロングスカートを捲り上げた。
陽季のボクサーパンツに生足が晒け出される。
胡鳥が露骨に視線を逸らした。
「捲らなくてもすけすけよ!ペチコートは?あとこれ、夏物スカートよ。有り得ないから。そもそも素足で寒くないの?タイツは?女の子は足を冷やしちゃ駄目でしょ。スリムな足を生かしてパンツにしなさいよ」
「女じゃないし!」
「それと、この乳は何だい?」
「ちょっと乳揉まないでよ!蘭さん!」
陽季と身長の変わらない双蘭が陽季の背後から手を伸ばして胸元をまさぐる。
「大きさだけあればいいような単細胞男は騙せても女は騙せないよ。女装は細やかなぐらいがいいのよ。ちょっと着込めば偽乳なんて要らないぐらいよ」
「洸祈は大きさだけの単細胞だからいいの!」
陽季は下からスカートを捲られ、上から偽乳を見られ、顔を赤くして怒鳴った。
第一、女装は趣味でもないのだ。
作戦とは言え、洸祈との水族館デートを初っぱなから双蘭と菊菜に邪魔されて苛つく。
「洸祈が待ってるから!女装講座は聞きたくない!」
「あんた、私達が行き遅れないか心配なんだって?」
「行き遅れ……とまでは言ってないから」
犯人はすっと背中を向けた胡鳥だろうが、陽季はモゴモゴと自分の無実を主張する。しかし、双蘭も菊菜もさして気にしてないようで、「だったら、女装なんて止めて今日は洸祈とデートしなさいよ」と双蘭は言った。
「何で……」
「だって、私達は素の二人が大好きだもの。ね、蘭ちゃん?」
「そうだよ。二人で水族館行って、夕食はここで鍋にしよう。飲み会だ。洸祈に陽季とのいちゃつき具合聞いてあげるよ」
「それいい!陽季と洸祈の恋ばな聞かせなさい!」
双蘭は腕を組み、菊菜もグッドアイデアと言わんばかりに人差し指を立てる。
陽季は二人が何を言い、何に興奮しているのか理解するのに数秒を要し、やがて、ボケッとした顔を正した。
「それ、いつも通りじゃん」
いつも通り陽季と洸祈の仲を肴に酒を飲むだけだ。
「そう。いつも通り」
双蘭は陽季の胸元からシリコン製の塊を取り出し、菊菜の手元へ。胡鳥も興味深そうに偽乳を見る。
陽季は双蘭に羽交い締めにされながら奪われた偽乳に手を伸ばした。
「いつも通りじゃ意味ないんだって。返してよ、俺の乳!」
「後輩がこれだから私達はイイ男探しする暇がないんだよ。あんたが洸祈を誰よりも幸せに出来ると判断したら、私達も心置き無くイイ男探しするよ」
「そうそう。二人の恋路が心配なの」
菊菜は胡鳥の手に無理矢理偽乳を押し付けると、陽季の額にでこぴんを食らわせる。痛みよりも菊菜の行動に陽季は目を丸くした。
「俺達ラブラブだから。心配されなくても洸祈と一緒に百歳越えるし。ギネス載るし……」
抵抗を止めた陽季。
双蘭も菊菜も彼を解放する。
「なら今日は洸祈といつも通りの格好でいつも通りのデートをして、鍋食べながらデートの報告しな」
「ラブラブだって判断できたら、私達は真面目にイイ男探して恋愛する。約束してもいいよ。針千本する?」
「……する。約束する」
陽季がそっと小指を立て、菊菜がそれに固く小指を引っ掛けた。
そこに双蘭の指も絡む。
「嘘吐いたら針千本飲んでよね」
「師弟の約束。絶対に守るよ」
ぷらぷらと揺れ、やがて、三人の小指は離れた。
そして、
「あの、この気持ち悪いの誰か回収してくれません?」
と、両手にシリコン製偽乳を乗せて硬直した胡鳥が顔を歪めて言った。