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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
短編7
321/400

“『羨ましぃ~!私もあんな恋したい(はぁと)』ラブラブ伝染作戦” 前編

「おはよ」「どうしたの?今日は眠そうだね。夜更かししたの?」「そうなんだ。楽屋に泊まったからテレビなくてさ」「本当?見たい見たい」「金曜日だよ」「多分、遅くなるけど平気?」「ありがと」「また寝るの?……なら、お休み」


「良い夢を、洸祈(こうき)


送話口に囁き、しかし、陽季(はるき)は壁に凭れながら暫く受話口に耳を済ましていた。

それから名残惜しそうにゆっくりとスマートフォンのボタンを押し、寝袋に伏せた。

「………………俺も二度寝しよっかなぁ……」

陽季の横顔を朝陽が照らすが、彼は眩しそうに目を細めて光に背を向ける。

そして、俺と目が合った。

「何?」

「お前、本当に洸祈君ラブだなーって」

「本当も嘘も、俺は洸祈を愛してる。それだけ」

洸祈君に関してだけは、こいつは恥ずかしげもなく、いつも真顔で「好きだ」「愛してる」と話すのだから、俺の方が恥ずかしい。軽い気持ちでからかわなければ良かったと後悔した。

「二度寝すんの?」

「………………しない。走ってくる」

立ち上がり、帯をほどくと寝間着代わりの紺の浴衣をその場に脱ぎ捨てる陽季。見たくもないが見慣れた陽季がパンツ一丁、上は裸で伸びをする。そして、部屋の隅に置かれたスポーツバックから綺麗に畳まれた上下のジャージを手に取った。

陽季はここ最近は綺麗好きと言うか、整理整頓好きと言うか、小まめな性格で、ジャージを着ると寝袋を丁寧に畳む。

「お前、変わったな」

「歳を感じてね」

「ランニングじゃなくて、洸祈君に再会してからだな……世話好き?みたいな」

「は?後輩も増えたし、成長しただけ。ま、洸祈は世話しないとぐーたらちゃんになるから必要に迫られてるけど。てか、顔に似合わないこと言い出したら歳だぞ」

「似合わないとはなんだ。まだ若いからな」

と言っても、既に歳を感じている陽季に言われると虚しくなってくる。

双灯(そうひ)も走る?」

陽季が首にタオルを掛けて聞いてきた。

気晴らしに朝のランニングと言うのも良いが、隣が陽季だとハードな気がする。

誰よりも練習熱心だし、誰よりも練習時間が長い。その上、毎朝ランニングをしている。

毎朝20キロとか走ってそうだ。

付いていけない。

「ペースあるだろ。一人で行ってこいよ」

「あ、そう。スーパーの向かいの公園ぐるぐるしてるだけだけど、やよさんは走ってるのにな」

「やよちゃんが!?行く!!!!走る!!!!」

それならいくらでも走れる!

俺は自分のスポーツバックからジャージを出してパジャマから着替える。

寝袋は……後だ。

今は陽季に付いて行かなくては。




何かと腹の空く男子3人は10時のおやつに袋ラーメンを楽屋の小さな調理場で用意していた。

調理担当は陽季だ。

スーパーの安売り野菜を適当に刻んで水を張った鍋に加える。

そんな陽季の背後で席に着き、持ち寄りのどんぶりに味噌ラーメン用の粉末スープを入れて待つのは双灯と胡鳥(ことり)だ。

「――それで?愛しの弥生(やよい)さんに会えたのにどうしてそんなに窶れてるんです?」

「やよちゃん……足早くて……頑張ったけど追い付けなくて……2回擦れ違って終わった…………」

「弥生さん慣れてるんですね。持久力がある」

「でも、頑張ってって応援してくれた……スポーツドリンク買って陽坊と待っててくれた」

「それ俺が買ったやつ」

陽季が沸騰した鍋に麺を入れて暇そうにかき混ぜながら言った。双灯が目を剥いて陽季を振り返る。

「え…………マジかよ!?やよちゃんの名前書いて冷蔵庫に保存してるんだけど!」

「双灯が勝手に勘違いしたんだろ」

「飲まなきゃ。直ぐに飲まなきゃ」

双灯は立ち上がると冷蔵庫の扉を開ける。中は幾つかの籠で区切られており、それぞれに名前の書かれたビニールテープが貼ってある。

各自、他人に食べられたくないものはその籠に入れていた。

そして、双灯は自分の名前の入った籠を引くと、中からペットボトルを取り出し、席に戻った。

「出来た。どんぶり貸して。お湯分ける」

「ん」

「よろしくお願いします」

茹でるのに使ったお湯を分け、野菜と麺を公平に分けていく陽季。

洸祈の世話で成長した陽季は手際が良かった。

「一味ないじゃん」

陽季が冷蔵庫を漁り、双灯が箸を用意し、胡鳥は陽季と自分に冷水機の水を用意する。

「じゃあ……いただきます」

「いただきます」

「いただきます!」

三人とも両手を合わせ、額を突き合わせて麺をずるずると啜った。



一先ず小腹を満たし、息を吐いた3人。

最初にその話題を始めたのは胡鳥だった。

「先輩、そろそろ告白した方がいいんじゃないですか?」

「え!?は?何言ってんだよ!!」

椅子の背凭れに体重を預けていた双灯がびくりと肩を震わせて背筋を伸ばす。

「いや、俺もそろそろタイムリミットな気がする。やよさんっていくつだっけ?」

陽季が誰にとでもなく聞いた。

「僕と一緒で25かな」

「うちの女性陣から色恋の話ってホントに聞かないけど、大丈夫なの?」

「大丈夫って何が?」とは双灯も胡鳥も聞き返さない。

「蘭は月華鈴一筋だからなぁ……」

「てか、菊さんもやよさんも月華鈴一筋でしょ」

「陽季君はどうすればいいと思うんです?」

胡鳥が陽季に訊いた。

陽季は良くぞ聞いてくれたと言わんばかりに姿勢を正し、両手を顎の下で組む。そして、神妙な顔付きで頷くと、二人を上目遣いで見ながら一言、


「合コン」


と言った。


「合コンって……相手の男が必要だろ?」

「3人必要ですね……一人は先輩だから、あと二人は確保しないと。誰か候補はいるんですか?」

「あ………………」

胡鳥の問いに陽季は口をポカンと開ける。

分かりやすい彼の表情に胡鳥も双灯も目を皿にした。

言い出しっぺがこれだ。大仰な身振りの陽季ほど信用ならないものはない。

「知り合い皆、相手いるわ」

「人数合わせなら兎も角、本気で相手を探してるんですから絶対に独身じゃないと」

「幸せオーラに包まれてんなー、お前。だから洸祈君とも上手くいってるんだろうな。俺も幸せオーラが欲しい!」

心の底から欲しがる仕草をした双灯は完全に恋愛に餓えていた。

「でも、恋愛物のドラマを見て、自分も恋をしたくなるとかもあるらしい」

「恋愛物ぉ?あんなの夢物語だろ。有り得ないシチュエーションに、有り得ないタイミングに、有り得ない擦れ違い!有り得ない尽くしだろ!何よりもイケメン&美少女補正が許せない!結局、顔じゃんか!」

しかし、いくら恋愛に餓えていても、双灯はシナリオ通りに進む恋愛ドラマは拳を握り締めて否定した。苦痛の表情だ。

陽季も胡鳥も互いに目を合わせる。

「先輩、良く分かってるじゃありませんか」

「俺はリアリティーがあるのがいいんだ!」

「……なら、リアルな恋愛物にしましょうよ」

胡鳥はポンと手を打ち、陽季と双灯は揃って首を傾げた。

「うちで唯一の超甘ったるい恋愛経験のある陽季君達のデートを見る。リアルですよ?」

「でも、二人を否定はしないけど、男同士だろ?想像しにくい」

双灯がちらと陽季を見るが、陽季は「確かに……」と考え込むと、胡鳥を真似してポンと手を打った。

「明日さ、一緒に買い物行かない?午後は休みだろ?」

「何で?」

「何故です?」

「近くの大型ショッピングモールで洸祈が琉雨ちゃんにあげたくて喉から手が欲しくなるようなものを買うんだ」

「で?買ってどうすんの?」

双灯は既に陽季の考えに信頼を置いなかったが、聞いて欲しそうに胸を反らす彼にしょうがなく訊く。

陽季は満足そうにふんっと鼻を鳴らした。

そして、

「それを出汁に洸祈に女の子になってもらう。名案だろ?」

彼は自信に満ち溢れた表情で拳を天に突き上げる。


「『羨ましぃ~!私もあんな恋したい(はぁと)』ラブラブ伝染作戦ッ、やるぞ!!!!」


陽季は叫んだ。




こうして、“『羨ましぃ~!私もあんな恋したい(はぁと)』ラブラブ伝染作戦”は後日、決行されることとなった。

~おまけ 楽屋にて(本編前夜)~

「あ、10月30日……今日は初恋の日らしいですよ?先輩」

「明日ハロウィンじゃん!お菓子用意しとかないと蘭達に殺される」

「俺、買っといたよ。今年は用心屋で祝えないのかぁ……洸祈が拗ねるなぁ」

「そこは大丈夫だろ。琉雨ちゃんが仮装してるんじゃないか?洸祈君、琉雨ちゃんに夢中だろうよ」

「聞いてます?ハロウィンより初恋の日ですよ。先輩は初恋覚えてます?」

「やよちゃん!」

「双灯って俺達だけだと自信満々にやよさん大好き―って言えるのにな。でも、双灯の初恋はやよさんじゃないだろ」

「は!?やよちゃんだよ!」

「俺は洸祈だけど、双灯は院長先生だろ」

「院長先生はお母さんみたいな存在……だから、やっぱりやよちゃんだって!俺は生まれも育ちもやよちゃん一筋!」

「いえ、それが僕も見たんですよ」

「え?一体何をだ?」

「先輩の書いた院長先生宛のラブレター」

「え!!!?マジで記憶にないんだけど!……いや、書いたような…………」

「なら今度、施設に帰った時、双灯が使ってた部屋の壁見てみろよ」

「ええ、見てみるといいですよ。先輩の初恋がででんと公表されてますから」

「え…………え!?院長先生が貼ったのか!?意地悪じゃない!?」

「本当に記憶にないんですね。そのラブレター、先輩は院長先生に渡せずにベッドに隠してたんですよ」

「この前の大掃除の時に俺が見付けて壁に貼っといた。年少組がそれを見て成長してるぞ。朗報なのは、その後で院長先生が返事をラブレターの隅に書いてあげてたこと。読んだら?」

「そうそう隠してて……忘れてたわ。早く読まないと………………じゃないだろ!!人のラブレターを勝手に晒すな!!!!」

「年少さんが平仮名を読めるようになるまではまだ猶予がありますよ?」

「急ぐんだな、双灯」

「だから、人のラブレターを――」

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