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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
記憶追悼―由宇麻―
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麦畑の少年(8)

…―龍ちゃん―…



…―姐さん?―…






視界がぼやけて…



「おはようございます」

加賀(かが)先生。


ナースが囁いてくる。


それにしても…

天国でも私はお医者さんか。白衣を着ているし。



折角、天国に来たんだから、

「天使がいい…よ…」

白い柔らかそうな羽を纏った美女の天使。

某、イメージキャラクター、キュー〇ーのような羽を生やした裸の赤ん坊がラッパを持ってうろちょろしているのはなんか嫌だが。

「なぁに言ってるんですか」

ナースがその黒髪を揺らして呆れたように返してくる。

金髪じゃないのか…。

妙なところで和風だ。

でも、考えてみればここが天国とは限らない。第一、一応、ここでの天使役みたいなナースに呆れられた。


もしかして、地獄か?


爽やかな朝を迎えさせて谷底に落とし、更なる激しい絶望と苦痛を……。

ナースがどうの黒髪がどうのどころではない。

「寝かせてくれ…まだ地獄は」


もう少しだけ夢を…


ナースさんお願いだ。

もう美女の天使なんていいから。


あれ?


ナースさん?


おっきな注射は反則ですよ!?


ちょっとちょっと!



…………………………………。


「ちょっと!!!!!!!」


がばっ。

「注射は厭だぁ!!!!!―」

「加賀!」

口を塞がれた。

あれ?佐藤(さとう)さん?

「ふぐっふぁっぐっ?」

何事ですか?

って言いたかった。

佐藤さんは一息吐くとにっと笑った。この人が笑うと周りが明るくなるから好きだ。


ここは仮眠室だ。

(はた)さんに佐藤さんが笑っている。


やっと佐藤さんは手を放してくれた。

「私は…確か天国に…」

「ナースがご奉仕する天国か。由宇麻君を庇って9階から転落したんだよ」

9階って…普通は即死では…。

「やっぱり、ここは天国なんですか。そして、天国でも医者の仕事をしろと」

この生前と全く同じ造りの病院で死んでも仕事を続けろと。

地獄かもしれない。

でも、医者の仕事には誇りを持っている。

「畑さんや佐藤さんに似た人がいるこの世界で求める人を助けなさいと…由宇麻(ゆうま)君に似た子もいるのかな…会いに行かなきゃ」

「重症だな」

佐藤さんらしき人は安堵の溜め息を吐いた。

「加賀先生、貴方は7階のベランダに巧く落ちたんですよ」

私の脈を測りながら微笑んだ畑さんらしき人。

この人の言うことが本当ならば、それじゃあ…―

「現世ですか?生きてるんですか?ここは私のいた世界ですか?」

貴女は畑さん?

貴方は佐藤さん?

「そう言うことだ。お前は頭打って軽い脳震盪起こして気絶してたんだ」

生きているわけだ。

「今は?」

「現在、お前と由宇麻君が落ちた日の朝の5時半。もうすぐ日の出だ」



ほれっと佐藤さんは程好い暖かさの缶珈琲を手のひらに乗せてくれた。お礼を言ってあれからの話に耳を傾ける。

「7階の共同エリアのベランダに落ちたお前達は、偶々、病室を無断で脱け出して自販機に甘いもん買いに行っていた患者さんに発見された。俺と七海(ななみ)ちゃんで駆け付けてみれば、由宇麻君を抱えてお前が気絶してたわけだ」

ここからが大変だったぜ。

そう言う佐藤さんは何だか楽しそうだ。

「お前達に呼び掛けてたらさ、由宇麻君が起きたんだ。そして、動かないお前を見て俺達にすがり付いたんだ。助けて、助けてって。気絶してるだけだ大丈夫。でも一応検査しなきゃなって、お前と由宇麻君を離そうとしたら矢駄の一点張り。あの言葉、お前に聞かせてやりたかったぜ」

「ええ。『ぼくのこの身体全てをあげるから加賀先生を助けて』ですって。あの子が必死に頼んできたの」

畑さんは正常ね。と、また脈を測って言う。

私は畑さんが言った由宇麻君の言葉を繰り返したていたらいつの間にか笑みを溢していた。

私はまた一歩、由宇麻君に近付けたようだ。

「大丈夫って言っても離れないからさ、『加賀を助けるのに由宇麻君の身体を使うには、一度検査しなきゃいけないんだ。だから付いて来い』そう言ったら首を縦にすっげー振って…検査はスムーズに進んだ。お前の存在は凄いな」

佐藤さんは子供はちょろいなと、一度由宇麻君から逃げた身でありながら自信満々に言い、畑さんに呆れられていた。


「あ…それで由宇麻君は…」

「何ともなかったぞ」

コクリと喉を鳴らして珈琲を飲み干し、缶をリサイクルボックスに投げ入れると診てくる。と、佐藤さん意気揚々と出ていった。

畑さんはそれじゃあ。と立ち上がる。

「後でまた。暫くしたら検査しますからね」

「はい」

そして、

「加賀先生」

「はい?」

「由宇麻君、そこにいますよ。気付いてました?」

…………………………………。

布団を持ち上げると、少年が腰にへばりついていた。

「…由宇麻君」

何だか温かいと思っていたのは由宇麻君だった。彼は安らかな寝息を発てている。

「院長命令です。今日から加賀先生は由宇麻君の担当医です。気にかけてやってください」

「はい」

ゆっくり頷いた。





「由宇麻君…約束したからね」

加賀は由宇麻の頬を撫でた。

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