麦畑の少年(7)
「誓う。私の全てを賭けて…」
「本当に?」
「あぁ。私は君の傍にいるよ」
だからおいで。
「本当に?」
加賀の動きに目を光らせながらも歩みを見せようとする。
「私は君に惹かれたんだ。それだけじゃ信じてもらえないかい?」
ゆっくりと…
ゆっくりと…
作った笑いは由宇麻君には逆効果。普通の子と同じように接しようなんて考えるだけ無駄だ。
由宇麻君は人の心に敏感。最初の出会いのように…
「ほら、おいで」
窺うように向けられる瞳は月明かりに葡萄色を見せる。
細い体躯。
流れるような長い髪。
微かに揺れる桜の髪飾り。
震える指先が私の手のひらに…
この時、私は由宇麻君に姐さんの姿を見た。
「…………………………姫野」
あ………………………………。
由宇麻…くん…。
加賀の言葉に手を引っ込めた由宇麻はそのままバランスを崩し、
「由宇麻君!!!!!!」
二人の手のひらは空を掴んで、由宇麻は落ちた。
…―さようなら―…
その薄いピンクの唇が別れの言葉を紡ぐ。
にこり。
由宇麻は笑った。
「一生、傍にいる。約束だからな!!!!!!」
ぎゅっ。
加賀は宙の由宇麻を胸に抱いていた。
二人は落ちる。
死ぬのか?
由宇麻君が生きてくれるならいいかも知れない。
強い衝撃。
『龍ちゃん、泣かないの』
『だって!』
『シャルは十分生きたわ。寿命だったの』
『でもっ…厭だよ!シャルと離れたくない!!』
『貴方はシャルを縛るの?』
『一緒に居たいだけ…だよ…』
『居たいのは分かるわ。ずっと一緒だったものね。でもね、貴方が彼女を離さなかったら彼女は逝けない。この世に囚われる』
『それは人だけ…』
『人だけ?全ての生命は皆平等。たとえ知能が高くても死は訪れ、土に還る。違う?シャルも土に還る。そして生まれ変わる。離さないのは彼女を剥製にし、その腕に抱えて閉じ込めるようなものよ。私も貴方もいつか死ぬ。そしたら彼女は?貴方は?』
『どうすればいいの?』
『シャルのことを忘れないで。貴方がシャルを拾ってきた日。シャルが貴方の手からご飯を食べた日。一緒に寝た日。忘れないで。そして、バイバイって送り出してあげるの』
…―バイバイ、姐さん―…