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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
匂へどもしる人もなき桜花 ただひとり見て哀れとぞ思ふ
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君だけの桜(12)

(きり)のレイヴンに結界で中央棟ごと守られて間もなく、千里(せんり)がダウンした。

今の今まで気力で持っていたらしく、ぐったりと金に寄り掛かる千里。

俺は洸祈(こうき)の居場所を知りたかったが、そんな場合ではない。消耗しきった千里を置いて洸祈を探しにも行けず、俺は金と一緒に千里を抱いて温めていた。




くぅん。

金が鳴き、俺は自分の意識が遠退き掛けていたことに気付いた。

くぅ。

もそもそと身動ぎする金。

どうやら、移動したいようだ。

俺は千里を抱き抱えて金から離れた。

くぅくぅ。

金がペタペタと歩き出す。

……付いて行った方が良さそうだな。

金は洸祈との繋がりであり、俺はなるべく早く洸祈の居場所を知る必要があった。だから、千里に悪いと思いながらも、千里になるべく負担が掛からないよう彼をおぶって金を追った。


金がドアノブを噛み、器用に非常階段へと通じるドアを開けると、非常階段を降りていく。

俺も階段を降りるが、外に通じながら、結界のせいで風を一切感じられない。

千里は桐が助けに来たと言っていたが、正直なところ、俺にとって体の一部とも言える風の存在を消されるのは不愉快だ。息苦しくなる。

確かに、この結界は俺達を外部の攻撃から守っている。けれども、この結界は内部からの攻撃も防いでいるのだ。

この棟には俺と千里、洸祈しかいないのに、だ。

桐のレイヴンについては防御に徹した魔獣であること以外知らないが、それでも結界専門なら俺達が外へと出れるような一方通行の結界も作れたはずだ。

もし、軍にこの棟を完全包囲されたら、それこそ俺達は逃場がない。

以前、俺を助けてくれた桐だが、今回はどうしても桐の対応に不安を拭いきれなかった。


くぅん。

「…………っ!洸祈!」

いくらか階を降り、ある階段の踊り場で横たわる人影を見た。

微動だにしない洸祈は小さく縮こまって目を閉じている。

一瞬、俺達に刃を向けた洸祈のことが思い出されるが、金が洸祈に駆け寄り、高く切ない声で鳴くのを聞いて、俺は洸祈のところへ階段を降りた。

浅い呼吸。

洸祈は眉間にしわを寄せ、悪夢を見ているように見える。

千里が幻影魔法がどうとか言っていたな。

「金、洸祈からの魔力が戻って……」

くぅ。

金に洸祈からの魔力が供給されているということは、琉雨(るう)千歳(ちとせ)さんが洸祈を縛る原因を取り除いてくれたに違いなかった。

俺は消えない結界を見、洸祈の前髪をかき揚げた。兄の幼い顔が内なる苦痛に歪む。

「……出よう。ここから」

考え過ぎかもしれない。

だけど、怖いのだ。

中立の象徴とも言うべき鉄壁の防御。それは争いと無縁の人々を守る為にある。

しかし、そこに俺達は含まれているのだろうか。

嵌められたとは言え、洸祈は自我を失い俺達を襲った。

ならばもし、襲われた相手が俺達ではなく、武器を持たない一般市民だったら?

洸祈は桐の敵として扱われる。

軍学校時代、軍は洸祈に何か実験を行っていた。今回もその名残の可能性がないわけでもない。

つまり、今後も洸祈は軍に利用されるかもしれないということ。

洸祈は桐の敵に十分なりうるということ。

今なら弱った洸祈をどうにでも扱える。

だからこそ、駄目なのだ。

この場に残っているわけにはいかない。

「金、手伝ってくれるか?」

くぅん。

金はもちもちした鼻を俺の腕に擦り付け、俺は千里を一旦床に下ろしてから洸祈を金の背に乗せた。

洸祈の体がずり落ちそうになるが、千里をおぶり、小まめに洸祈の位置を直してやる。そして、一先ず非常階段から棟内戻った。


エレベーターで屋上……レイヴンの監視下だ。

エレベーターで1階……何もない中央棟に軍人を割く余裕は今の軍にはない。武器庫に集まっていた軍人の数からして、ここの1階はまだ安全だ。

俺達はエレベーターで1階へと向かうことにした。

「……さて、どうするか。桐の結界の破壊とか……」

くぅ。

しょんぼり。

洸祈の頬をべちょべちょになるまで舐める金は分かりやすく落ち込んだ。

尾を垂らし、耳を揺らす。

「…………俺がやってみるよ。物理攻撃……うーん……」

ナイフで太刀打ちできるのか……結界は傷付くと魔力を消費して瞬時に再生する。だから、物理攻撃でも、結界を削り続ければレイヴンを通して千歳(ちとせ)さんは魔力を消費させることができる。そして、千歳さんの魔力がなくなれば結界は維持できなくなり、壊すことができるが、消費速度が千歳さんの魔力の生成速度を上回る必要がある。

そこが問題なのだ。

もし駄目そうだったら、千歳さんがレイヴンに結界を消させたと同時に逃げる――しか思い付かない。

「んっ……」

俺の腕の中の千里が小さく唸って脇腹を押さえた。

傷口はほとんどふさがりかけていたが、痛みは消えていない。となると、千里の傷は表面しか治癒していない可能性がある。あとで医者にきちんと診て貰わないと。

俺は痛みに耐える千里の背中を擦ってあげようと思ったが、脇腹に響くかもと思い、頭を撫でる。

「……ありがと……」

「…………ああ」

素直に感謝してくる千里は珍しくもあったが、弱っている証拠でもあり、俺は鎖骨を鼻先でつつく千里の行為は気付かないふりをした。

『あ……せん……せん……り』

…………?

今、何か聞こえた。

と言うより、半ば信じがたいが、俺の声がした。

『せんっ……だ、……だめ……』

くぅぅ。

「金、静かに」

『はぁ……はぁ……千里…………もぅっ……』

俺の声だ。

もしかしなくても、俺の声だ。

滑らかに降下するエレベーター内で俺の“あの時”の声が聞こえた。

「おい、千里」

「……っ……ぅ……」

くそっ。

本当に痛そうにしているから怒れないだろ。

だから、俺は聞きたくもない自分の喘ぎ声に耳を澄まし、それの発信源を千里のズボンのポケットまで辿った。

「これぐらいは我慢しろよ?」

俺は踞る千里のズボンのポケットからスマホを取り出した。

しかし、そうか。

俺は自分の携帯を店に置いて実家に隠っていた為に携帯の存在を忘れていたが、千里は携帯を持っていたのだ。現代っ子の鏡だ。

スマホはロック画面になっていたが、瞬時に俺の誕生日を入力してロックを解除する。そして、俺の喘ぎ声を撒き散らす千里のスマホの画面には『着信中』の文字。

相手は『店』。

まさか、桐の結界の中でも店からの電話が繋がるらしい。

何でもいいから結界から脱する方法はないかと、すがる気持ちで俺は電話に出た。

「はい、(あおい)です」

エレベーターが1階に着いたが、外には出ずにドアを開けた状態でエレベーター内に待機する。

正面入り口に人影はない。

合図をすれば、金が洸祈のパーカーのフードに食い付き、ずるずると外へと引っ張る。フードが引かれて洸祈の臍が見えたり見えなかったり。

『やっと繋がる電話がありました……。おはようございます、葵兄ちゃん』

「おはよう、(くれ)

スマホの時計は午前3時。

呉的には朝らしい。

久々に声を聞くが、呉の変わらなさには和む。

「店は何ともない?」

『はい。千鶴(ちづる)さんが心配で無意識にお握りを量産したことを除けば、何ともありません』

それはそれで大事だ。

『葵兄ちゃんは何ともありませんか?』

洸祈を外へと出した金がエレベーター内に残る千里を鼻でつつき、薄目を開けた千里が力を振り絞って金の首に抱き付いた。

「俺は……結界に閉じ込められてて、どうにか脱出できないかなってところ」

『結界……脱出できそうですか?』

「桐の結界なんだけどね……千里も洸祈も動けない。俺は役立たずで……風が全く使えない」

ナイフ一本振り回すぐらいしかできない。

『桐……ああ、レイヴンですか。レイヴンの結界は一筋縄ではいきませんね。千兄ちゃんが動けないと言うことは、吟竜は無理と』

「……うん。そう」

幻影魔法の結界を容易く破壊した吟竜なら、もしかしたら桐の結界も破壊できるかもしれないが、もう千里に無理はさせられない。絶対に。

『……今、どこにいますか?』

「え……神域に……」

『神域ですか……神域の結界って桐が作ってたんですか……。中立が軍に付いていたとは……これは波乱の予感。今までの人生で26番目ぐらいのビッグニュースです』

……大きく誤解している。

「神域の結界なら千里の吟竜が破壊したよ。でも、今は神域の中央のビルに桐に結界で閉じ込められてるんだ」

『あ……そうですか。革命の時ではありませんでしたか。……しかし、神域自体に結界は今はないと。中央のビルですね。……分かりました』

「え……?何を分かったの――」


ぷつ。

つーつーつー。


電話が切れた。

呉は一体何を分かったのか……。

そして、スマホの着信画面は変わり、待受画面へ。

千里のスマホの待受は俺の寝顔だ。

寝顔ぐらいは許すが……着信音は変えておいた。勿論、変更前の例の音は削除しておく。理由は俺のプライバシー権の侵害だ。

「あ……伊予」

いつの間に現れたのか、伊予が千里をエレベーターから出す途中でへばっていた金に代わって、千里のズボンの腰部分を噛んで千里を吊るし、運んでいた。千里の呻き声が聞こえるが、脇腹への負担が大きそうな体勢だ。

そして、伊予はエレベーターを出ると千里を洸祈の上に重ね、前足で洸祈を千里ごと床に押さえ付ける。

怪我人に容赦のない……。

俺はこのままだとスライドするエレベーターのドアに挟まりかねない金を腕に抱え、俺も外に出た。

「伊予、千里とか腹に怪我してて……」

くぅ。

問答無用。

伊予は俺を見上げた後で俺を無視した。

日常、洸祈を尻に敷く伊予は女王様だ。逆らえないし、何故か逆らう気も起きない。

第一、いくら洸祈や金を苛めて来ようと、彼女が間違いを犯したことがなかった。

すると、バッハのメヌエットト長調が手の内で鳴り出す。

なんて健全な着信音だろうか。俺の喘ぎより比較できないぐらい良い。というより、比較したらバッハさんに失礼だ。

そして、電話の相手は『呉君』。

店からじゃない。

「呉?さっきの分かったって――」

『今、あなたの目の前にいます。この結界、壊しちゃっていいですか?』

「え…………」

顔を上げれば、携帯片手に呉がぽつんとガラス張りの正面入口の前に立っていた。

呉はコートを着込み、しかし、裾から覗くのはパジャマのズボンと裸足にサンダル。ボサボサの頭と眠たげな瞳。

只今起きました――の格好だ。

『そうですね。伊予さんのように伏せるべきかと。桐の結界の破壊は何分初めてで。手加減できないので、窓という窓も破壊するかもしれません。ご自分達でどうか身をお守りください』

呉が何を言っているのか分からない。

さっきから結界を壊すって……嘘だろう?

「ちょっ……と待って……この結界壊すの?桐の結界を呉が今から?」

『そうです』

「できるの!?」

正直、俺は呉が時制型空間転移魔法を使えることしか知らない。それに、その魔法を使ったのを見たのも(せい)の件が最初で最後だ。

『はい。できます。今からこの結界の時間を劇的に遅くします。そうすれば、この結界の再生能力はほぼ皆無。まるでガラスのように……ぱりん、です。ここまでが僕の計画ですが、何分結界の規模が大きく、手加減ができないので、建物も破壊しかねません。気を付けてください。では』

ぷつ。

つーつーつー。

「……切れた」

電話を切った呉はしゃがみ、コンクリートの地面にチョークを滑らす。

洸祈ほど早くはないが、綺麗な陣をてきぱきと書き出す。

呉は本気だ。

これは伏せていた方が良さそうだ。

くぅん。

状況を理解した金が小型化して俺の服の中に潜った。怖いのか、ぷるぷると震えている。

なら、金は俺が守ってやるからな。

俺も伊予達の近くで金を胸に抱いて伏せた。


そして、透明だった結界が赤黒く染まった。

それは一瞬で、水に赤と黒の絵の具を垂らしたかのようだった。


呉はもう見えない。

しかし、この赤を見ていると頭がくらくらしてくる。

まるであいつの瞳のような――

「――!?」

べろりと伊予が俺の頬を舐めた。生暖かい。

耳を揺らし、尾を揺らし、頭をぶるりと振った彼女。

びっくりはしたが、お陰で赤黒い光から目を逸らすことができた。

「伊予……ありがとう」

くぅん。

伊予は何でもないと言いたげに千里の背中に顎を乗せる。


やはり、伊予には逆らえない。


俺は呉を信じて目を閉じた。






何もない芝生の上で息も絶え絶えにもがき苦しみのたうち回る男を少女は見下ろしていた。

「痛いですか?苦しいですか?」

少女は暗闇を照らす炎を纏ったナイフを男の白衣の裾に刺した。ナイフは白衣を突き抜け、土に刺さる。

しかし、炎は白衣も何も燃やさない。

今は。

「どれくらい痛いですか!どれくらい苦しいですか!」

ちりちり。

白衣の裾から僅かに白煙が上がる。

炎が完全に白衣に移るのも時間の問題。

「ルーは許さない。あなたは旦那様を傷付けた。あなたなんかに……あなたなんかに旦那様を傷付ける資格なんかないのに!!旦那様を罰することをできるのはたった一人だけ!あなたじゃない!」

ナイフを抜き、少女は男の胸の向こう。脈打つ臓器に狙いを定めた。



「琉雨さん!!」

ぴくっ。

名を呼ばれた琉雨が、男のシャツを掠めたナイフを停止させた。紅に光る彼女の瞳が息を切らして立つ眞羽根(まはね)をゆっくりと見上げる。

「駄目です」

眞羽根は歩みを止めず、琉雨の隣にしゃがむと、躊躇なく、刃物を握る彼女の手に触れた。彼の片手は男の白衣に伸び、燻る炎を白衣ごと握った。

「…………ルーはこの人を許すことができない」

大切な人を傷付けた。

彼女にとって自分の命にも代えられない大切な人を。

「それはあなたが罪を犯す理由にはなりません」

「罪?罪を犯したのはこの人です。だから、ルーが罰する」

「彼は十分に罰を受けています」

覚めない幻影の中で彼は焼かれている――眞羽根は手摺から足を滑らせ、あらぬ方向に両足を折り、それでもなお見えない炎に泣き叫ぶ男を見た。

見ていられない。しかし、見なくてはいけない。

何故なら、彼に掛けた幻影魔法は眞羽根のものだから。眞羽根が自ら望んで行ったことだから。

それが自分の罪になるとしても、眞羽根は琉雨に殺人だけはやらせたくなかった。

「足りない!」

しかし、琉雨は苦しむ男から目を逸らさずにきっぱりと言った。

「足りています!この人には契約であなたの旦那様を操ることはもうできません!十分でしょう!?これ以上は復讐です!」

「何が十分なんですか?この人は旦那様を操り、旦那様の大切な人を傷付けさせた!旦那様にとって何よりも大切な家族を!だから、ルーもこの人の何よりも大切なものを壊す!」

目には目を。歯には歯を。

犯した罪への罰は同等でなくてはいけない。

だから、琉雨は男の一番大切なものを奪う。

男の命だ。

「それはすなわち……“旦那様が大切な人を傷付けてしまったこと”は“彼の死”と同じ重さと言うことですか……?」

「同じです!いいえ、この人の命でも足りな――」


ぱしっ。


眞羽根の手のひらが琉雨の頬を叩いた。

手加減などはなく、彼女の頬がほんのりと赤く腫れる。

「なん……っで……」

口はぽかんと開き、目は見開かれる。

「どうして…………」

「あなたは死に価値を付けた。命に価値を付けた。あなたは絶対にしてはならないことをした」

叩いたのは眞羽根。

なのにどうして眞羽根が泣くのか……。

琉雨は何もかも理解できないまま、眞羽根に抱き締められていた。

「命は比べられません。比べてはいけません。人の命は替えがきかない。人の命は尊いんです。それは誰よりも僕達が覚えていなくてはいけないことです」

「でも……でも……!」

でも、胸が痛いのだ。

愛する人の心の叫びが聞こえるのだ。

「命が重いからこそ、ルーは、ルーに命をくれた旦那様を傷付ける人を許すことは決してできないんです!!」

琉雨の望みは存在、名前、家族、愛情だった。

その全てを洸祈がくれた。

琉雨の望みは叶った。

だから、次は琉雨が洸祈の望みを叶える番。

それは琉雨にとって、何よりも優先される事項。

「許さなくていいです!ただ、許せないからこの人の命を奪う。そのことに僕は反対しているんです!」

「ならどうすればいいのですか!」

眞羽根の肩を強く押した琉雨は後退りながら立ち上がった。

「琉雨さん……」

「ルーには感じるんです!!旦那様の心の痛みが!どうすればこの痛みを止めることができますか!」

最初に『痛い』。

次に『ごめんなさい』。

最後に『殺して』。

頭の中に洸祈の言葉が木霊する。

「仕返しではその痛みを止めることはできません。あなたが彼を殺しても何も変わりません。だから琉雨さん、どうか旦那様の傍にいてあげてください。旦那様の為に。お願いします」

眞羽根が深く頭を下げた。

「あなたが誰かを傷付ければ、それは何よりも旦那様を傷付けてしまう行為です。あなたには分かるでしょう?」

「………………旦那様は……凄く優しい……人だから……」

洸祈は自分の傷口ではなく、他者の傷口を気に掛ける。

大切な者に“自分”が微塵も含まれていない。

いくら自分の心が叫んでいても、洸祈には他者の心の叫びしか聞こえない。

そんな人を大切に想う者は一体どうすればいいのか?

洸祈の心の叫びが聞こえてしまう琉雨はどうすればいいのか?

「なのにどうして旦那様を傷付けるんですか?旦那様がこの人に迷惑を掛けましたか?旦那様は大切な人を守りたいだけなのに、どうしてこの人は旦那様を傷付けるんですか?旦那様のことはもう放っておいて……!!」

琉雨はその場にしゃがむと、痛む胸を押さえた。

「会いたいです……旦那様に今すぐ……」

洸祈は他人の大切なものを守る手伝いをするだけ。守りたいものがある人への助力は惜しまない。なのに、人の中には私利私欲のために洸祈を追い掛け回す者がいる。そして、彼らは洸祈を傷付ける。

だから、洸祈の心の悲鳴は止んでくれない。

「……会いに行きましょう。琉雨さん」

眞羽根は琉雨の肩に触れ、琉雨は震える指先で彼の腕を強く掴んだ。

~おまけ~


「ねぇねぇ、あお」

「ん?」

「今日は催眠術の日に因んで、催眠術を学んでみたよー。早速、あおに催眠術かけてみてもいい?」

「信じてない奴に催眠術はかかりにくいらしいぞ?」

「まぁまぁ……あおはエロい気分になって――も――もしてくれちゃうー!」

「……………………アホか。俺は絶対に催眠術にはかからないからな」

「なら、あおはエロい気分にならない!――も――もしたくなくなる!」

「…………なんだよそれ」

「やっぱり!エロい気分のあおには催眠術はかからないのかー!ごめんね、気付かずに我慢させちゃって」

「……はぁ!?その論理はおかしいだろ!」

「じゃあ、僕は秘蔵のお宝写真を見返してたら、あおとあんなことやこんなことをしたくなる催眠術にかかっちゃったのー!!」

「催眠術関係な…………おいっ!!!!」

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