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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
匂へどもしる人もなき桜花 ただひとり見て哀れとぞ思ふ
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夢追う人、壊れた人

明日から6月!てか、既に暑い!

熱中症にお気を付けを(*_*;

「マサ、ワタシはキミの知りたいことは何でも教えるよ。ただし、知りたいことだけだ。キミの興味のないことを教えるのはキミもワタシもつまらないからね」

レベッカは俺の最初で最後の先生だった。

最高の先生だった。





俺は馬鹿だったんだ。

確かに、俺は天才だったが、天才を隠せない馬鹿だった。

俺は普通じゃないことを、当たり前じゃないことを出来る天才だった。

そして、普通のことを、当たり前のことを出来ない馬鹿だったんだ。

本当は、俺は普通に普通じゃないことをして、当たり前に当たり前じゃないことを出来れば良かったんだ。


俺は天才だけど、馬鹿だったから、小学校時代はありとあらゆる人間に犬猿された。

教師にも同級生にも。

まず、最初から間違えたんだ。

各個人に差が出始める小3の時、俺は教師の問い掛けに少し余分に答えた。

その教師は純粋な興味だったのだろう。

俺の知能を試した。

その教師は俺の才能に夢中になった。

しかし、同級生や他の教師にはそれがつまらなかった。

俺が他者に犬猿され始めた頃、俺を買っていた新米教師は周囲の先輩同業者に虐められていたらしい。

そして、その教師は長期休職後、彼の子供の頃からの夢だった“教師”を辞めた。

俺は改めて、小学校の全員に嫌われ、所謂引きこもりになった。

本当は、サッカーも野球もしてみたかった。でも、俺一人では出来ないから、諦めた。

だから、もう俺には登校に意味はなかった。


俺の家は医者の家系だ。代々、長男が医院長の座を世襲してきた。

だから、父は医者で、俺の兄の将来は問答無用で医者と決められていた。

母は病院のスポンサーの家の出だった気がする。

厳しい人だった。

そして、俺は次男で末っ子で、天才だった。

天才の俺に父も母も喜んだ。

礼儀作法と勉学に煩い両親だから尚更だ。

兄を支える医者になるんだぞと、有り余る金で俺に英才教育をした。

だけど、兄は並々ならぬ努力で両親の期待に応えてきたから、俺を受け入れはしなかった。

そして、俺は兄も通った私立の名門小学校に入り、嫌われた。

その原因は俺が天才だったから。

他の市立小学校よりも格段に先を行く教育プログラムの中で、俺は更にその先を行っていた。遠回しに教師や他の生徒のやる気を欠かせて迷惑だと、校長にはねちねちと言われた。

そして、俺は不登校児となり、両親は俺に自宅学習を選択させた。

だけど、天才の俺に教えられるほどの度胸のある家庭教師はいなかった。

両親によって何度も家庭教師は変えられ、俺が13歳の時、彼女は新たな家庭教師として我が家にやってきた。


「初めまして。ワタシはレベッカ・ブラウン。物理学者だ」

彼女は俺の最初で最後の先生だった。




「マサは将来、何をしたい?」

「…………言ったよ、レベッカ。俺は医者になるんだって父さんに言われてる」

「それは“マサのお父さんは”だ。ワタシは“マサは”何をしたいか聞いているんだよ」

「言うだけ無駄だよ。投資されている以上、俺は親に従うことしか選べない」

衣食住のどれか1つでも断たれたら、多分、俺は簡単に衰弱死する。てか、辛い思いをしてまで生きていきたくない。

俺はあんまり、自分が好きじゃないし。

寧ろ、嫌いだし。

「結局はキミの決断だよ。キミがお父さんの言い付け通りに医者になったからって、親は先に死ぬんだ。キミが健康に生きてくれればだけど。そしたら、キミは自由だ。キミは選択できる。医者を続けるか続けないか」

「父さん、しぶとそう……」

「まぁまぁ。ほら、マサ。キミは何をしたい?」

レベッカはしつこく聞いてくる。

だけど、レベッカがそんなに聞きたいのなら……。

「俺、皆の役に立つロボットが作りたい。前に一緒に海上救難ロボット見ただろう?あれみたいな人を助けるロボットが俺は作りたいんだ」

俺は泳げない。だから、海に放り出されたら、直ぐに溺死する。

だけど、海上救難ロボットは俺みたいな海の中で無力な奴を助けられる。

「俺はロボットに思考を与える。ロボットは俺達から学ぶ。俺達とロボットは支え合って行ける。そう思うんだ」

そうだ。

俺は思考するロボットを作りたい。

現場で臨機応変に動けるロボットを。

「わお。マサがそんなに早口なのは初めてだ。凄く良い考えだと思うよ」

レベッカが微笑み、俺は自分でもびっくりするぐらい興奮していたことに驚いた。

少し恥ずかしい。

「別に……」

「でも、分かったよ。キミが本当に学びたいことが」

レベッカは物理学が専門だ。だけど、その他の学問でも彼女の頭脳は秀でていた。

天才だ。と俺が言えば、

世界が好きだから、深く感じたいだけなんだ。と返された。

不思議な女性だ。

「ワタシはキミが一生涯を医者に捧げたとしても、もしキミが岐路に立つ時に夢も選べるように、キミに教えよう」

そして、彼女は俺に電子工学のありとあらゆる知識を与えてくれた。




だから、義務教育と引き換えに、新設された政府管理下の研究所の研究者となることを俺は受け入れた。





俺が作りたかったのは思考するロボット。

人の欠点を補い、人を助けるロボットだ。

俺は両親も兄も忘れて、ただレベッカに貰った知識とロボット作成に集中した。

俺の作ったロボットが人を助ける姿を想像して。


俺は海中から海上、地中から地上、天空、人間が入りづらいありとあらゆる場所で活躍できるロボットを考え、作った。実際に災害時に出動し、成果をあげたものもある。

政府はこの研究所に資金を惜しまなかったから、俺もロボットを作りやすかった。

俺は夢を追えて幸せだった。


でも、そんな幸せは長くは続かなかった。



「君の発明するロボットは素晴らしい」

「ありがとうございます」

「だが、これからは兵器の開発を頼む」

「え…………」

丁度、海底でも重機並の作業が可能なロボットの案を提出した数日後だった。

政府のお偉いさんが現れ、思いもよらないことを言い出したのだ。

「でも、あなたたちは好きな研究をしていいと……」

「出来ないなら、出て行いけ。子供は中学校に帰ればいい」

「!!」

冷たい笑顔で俺を見下ろす。

俺には学校という施設に居場所がないことを知っていてそう言うのだ。

それに、今更家に帰れば、父にも母にも激怒される。根回しの早い政府がうちの病院に多額の資金援助をしたからだ。

そのことを知ったのは昨日だったが。

「だけど……」

「兵器開発の実績を見せてくれたら、我々はそれに見合うだけの投資をしよう。そしたら、君は作りたいロボットを作ればいい」

「………………」


…………俺には逆うことはできない。


「次は兵器の企画書を期待する」

そう言い残して彼は去った。






「くそっ!!くそくそくそっ!!!!」

俺は兵器なんてものが作りたいんじゃない。兵器と言うのは人を不幸せにするものだ。

俺は人を幸せにするロボットを作りたいんだ。

だけど、ここほど設備の揃ったところもない。

それに、俺は両親に投資された分を返さなきゃいけないんだ。

病院が潰されて一家路頭も絶対に駄目だ。俺のせいで両親や兄の努力を水の泡にしたくない。

でも、俺には――――兵器は作れない。

「俺は…………どうすればいい………………」

『マサ、オハヨウ。マサ、オハヨウ』

俺の足にぶつかったのは四足歩行のロボット。

昔から飼ってみたかった犬の代わりだ。人語を喋るけれど。

ロボットは額を俺の足に擦り付ける。

「レヴィ…………おはよう……」

複数のセンサーで本物の犬と変わりない動きを見せるから、俺が冷えた頭を撫でると、レヴィの尻尾は左右に揺れた。

『マサ、モットモット。モットナデテヨ』

「…………ん……」

レヴィは撫でてもらうのが好きだ。

起動当時から俺が沢山撫でてやっていたからだろう。

体色は黒で目は赤色。理由はこの組み合わせが一番ロボットらしさが抜けた気がしたからだ。

一応、モデルはラブラドールレトリバー。体長は子犬並だが。

俺がここに来て、初めて作成した同居人。

俺は寂しかったのかもしれない。多分。

でも、こいつの頭を撫でていたら、少しだけ落ち着いた。

「レヴィ、俺はどうすればいいんだろうな……」

分かっている。だって、俺は天才だから。


答えは一つしかない。

兵器を作るのだ。


だけど、分かっている答えを馬鹿な俺は選べないんだ。

『マサ、スキダヨ』

「…………ありがとう」



ああ、レベッカ。俺に教えて欲しい。


俺はどうすればいい?

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