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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
記憶追悼―由宇麻―
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麦畑の少年(5)

あれから1週間。

私は900号室には近付いてすらいなかった。

「また…」

加賀(かが)先生があの子の相手をしなくなってから」

「鎖だと傷になる畏れがあるから次は縄にするとか」

「動かせるとまたあんなことをしてしまうから完全に自由を奪うしか他ないわ…」

「加賀先生になら心開くと思ったのだけれど…」

「加賀先生…一体どうしたのかしら?あの子に何か言われたのね」

「他の先生のようにならなければいいけど…」

「最近のあの子大人しかったのに…元に戻ったよね」






「私、なんか悪人ですね」

犇々(ひしひし)と感じる罪悪感。

「悪人じゃありませんよ」

(はた)は加賀の猫背気味のその背中を叩いた。加賀はその勢いでそのまま机に突っ伏す。

「でも、どうしたんですか?」


由宇麻(ゆうま)君に姐さんは突き落とされた。


「あの…加賀…姫野(ひめの)を知ってますか?」

「姫野…さん……加賀先生のご親戚の方ですか?」

「あ、いえ…姉です」

去年からここにいる畑さんは2年前の事件は知っているはずがない。

真偽の確かめようがない。

由宇麻君の言葉は本当か嘘か。


…―由宇麻君ならやりかねない―…


「くそっ!私は何を考えているんだ!!」

「加賀先生?」

畑は加賀の顔を覗き込む。加賀ははっと顔を上げると後ろ首を掻いた。

「でも加賀先生…由宇麻君、貴方が毎朝彼に話し掛けるようになってから本当に大人しくなったんですよ。私達看護師におはようって返してくれるようになったんですよ」

畑は優しく笑う。

「何があったのか分からないけど、あの子が一瞬でも人になろうとしたのは貴方のお陰です」

私のお陰…―


誰かに頼られるのは好きだ。

誰かに喜ばれるのは好きだ。


だけど…



―ぼくが突き落としたんだよ―


憎んでいるんじゃない。

いや…

憎んでいる。

本当か分からないけどああきっぱり言われて嘘だと思えない。


だけど、本当に心に引っ掛かるのは…


私は君を見失った。




「加賀!」

「へ?」

ついつい呆けた声で返してしまった。

佐藤(さとう)…さん」

先輩医師だ。

「お前、由宇麻君から逃げてるらしいな!」

「逃げる?私は追われる立場ではないのですが…」

由宇麻君は私を追っていたのか?

ゴンッ。

医者に殴られた。

「いった…何をっ…」

「23人もだぞ!」

「………23人…?」

「由宇麻君にやられた医者の数さ。半数以上がノイローゼ。精神科行きが2、3人程。残りの半数以上が近付かなくなる。俺もその一人だったりする。そして、そのまた残りが由宇麻君の体に手を出そうとして殺されかけた。さぁ、栄えある24人目の加賀はどれだ?」

私は24人目になるのか。

「精神科行きはないな。ぼけっとした顔してるし」

心外な。

「じゃあどっちだ?案外どっちもか?動けない由宇麻君に手ぇ出して知らんぷり。とか?」

「そんなわけあるか!!!!」


後輩に怒鳴られたにも拘わらず、佐藤は笑むと、畑のように加賀の肩を叩いた。

「だよな。じゃあ、一体どうしたんだ?」


その声が優しくて…

もう一度。

もう一度だけ、辛い記憶を呼び覚ます。



「2年前…一人の看護師…加賀姫野が自殺をした事件を知っていますか?」


「姫野ちゃんだろ?」


「はい…詳しく教えて下さい」

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