閑話―底の光―
あ・け・お・め!
今年もよろしくなのです(*‘∀‘)
水に沈んでいた。
それも多分、プールの水。
エラ呼吸ができない以上、俺には水の中で鼻からの呼吸はできないはずなのに、不思議と塩素の匂いがしたのだ。
塩素の匂いの中で熱さも寒さも感じない水に沈む。ひたすら沈む。
水を透かす美しい光のベールが消え、光が薄れてもまだ沈む。
いつ水底に着くのだろうか。
それよりも、プールって底なし沼みたいなものだったっけ?
あ。
俺達が小さかった時、洸祈が溺れたことがあった。
それも市営プールのど真ん中で。
そこにはダイビング用に一際深いエリアがあり、深さが4メートルほどあったのだ。
俺がプールに誘った時、泳ぎがとんとダメな洸祈はプールなんて絶対にヤダ!と膨れっ面をしていた。しかし、父さんがプールで沢山泳いだらアイスを買ってくれると言う条件で、洸祈もプールに行くことになったのだ。
父さんが休憩室の窓から見守る中、洸祈はプールサイドに座って水に足を付けるだけ。むすっとして水を蹴る。
父さんの条件では“沢山泳ぐ”だが、実際に市民センターの前に来た時点で洸祈の機嫌は最悪。笑い声絶えないプールに不釣り合いなほどの不機嫌顔。受付の女の人が驚くぐらいだった。
だからこそ、俺は洸祈がプールに来ただけで十分だろうと、彼をほっといて泳いでいた。しかし、俺がちらちらと見上げた父さんの横顔は物凄く寂しそうで、もうそろそろ仕事に行かなくてはまずい時間だと言うのに、洸祈が心配で仕事に行けないでいるようだった。
しょうがないので、俺が洸祈の説得をすることにした。
「洸祈、プール入ろうよ」
「いい。俺、ここでいい」
洸祈には良くても、父さんには良くない。
「父さんとの約束は?沢山泳がないと」
「…………」
ぷいっとそっぽを向く洸祈。
泳げなくても泳ごうとするぐらいできるだろうに。
こうなったら……。
「洸祈が泳がないと、父さんが洸祈のこと心配して仕事行かずにずっとここいるよ?」
すると、そっぽを向いていた頭が、今度はかくりと下に傾いた。
洸祈は父さんが大好きだから、父さんと比べてやると自分が嫌いなことでもしてくれるようになるのだ。
洸祈は一度プールサイドに立つと、手摺の方へ。
波立つ水を見、喉を上下させて手摺を掴む洸祈。彼は一段一段、慎重に階段を降り、そして、腕を伸ばして俺の首に抱き着いた。
「ううう……」
不服の篭った唸り声で洸祈が固まる。
そんなに怯えなくてもいいのに。
「偉い偉い。父さんが喜んでるよ」
くすんと鼻を鳴らす洸祈と、恥ずかしげもなく感動の涙を流す父さん。父さんは休憩室と室内プールとを隔てるガラスにへばりついて俺達に手を振る。そして、父さんは俺達の背後に大きな時計を不意に見付けて、目を丸くした。
自分の腕時計とそれとを1回、2回、3回見比べ、一度肩を竦めると、「ごめんな」と口パクをして休憩室を出て行った。
これはもう呆れるしかない。
「洸祈、自分で立ってよ。ここはまだ低いから」
「……むり」
別に泳げなくても立てるでしょ。
「俺、泳ぐよ。それでもくっ付いてる?」
洸祈をくっ付けて泳げるわけはないが、ゴーグルを付けて水面に向かって体を傾けた瞬間、洸祈が俺を突き飛ばすようにして離れた。その見た目の割りにある筋力に、かなり勢い良く押される。
危ないなぁ。危うくプールサイドに頭をぶつけるところだった。
「葵の馬鹿!」
どうやら俺は洸祈に嫌われたらしい。
「俺、帰る!帰るの!……帰るぅうう!!帰らせてよぉおお!!!!」
そして、洸祈が泣き出した。周囲の視線を集める大声で。
ああ、俺も帰らせて。
「ぼく、どうしたの?」
洸祈よりも随分と幼い子供の母親が洸祈を心配して話し掛けてきた。彼女の横にはプールサイドに掴まってばた足をする子供。
洸祈もああやって練習をすればいいのに。
「葵ぃいい!!!!」
知らない人に話し掛けられ、洸祈はほんの少し前に馬鹿と貶した俺に抱き付いてくる。
この切り替えの早さは一体……。
洸祈のご都合主義には毎度ムカつく。しかし、洸祈に、優しくされても知らない人よりは嫌いな俺がいいと、頼って貰えるのは嬉しかったりもして、結局、俺は洸祈を突き放せないのだ。
「すみません。人見知りなんです。洸祈、俺の背中。首に掴まっといて」
「泳がないで」
「うん」
背中に温もりと洸祈の心臓の鼓動が伝わってくる。思った以上に怖かったみたいだ。
俺は洸祈を背中にくっ付けてプールサイドに沿って歩いた。一歩、また一歩と。
少しずつ深くなる。
洸祈の心臓がまた早くなる。
もっと前へ前へ。
大丈夫、俺はプールサイドに掴まってるんだから。
「!!!?」
しかし、突如として足場が消え、更に洸祈の体重が加わって俺達は一気に水の中へ。
ほんの一瞬の内にこれだ。
そして、洸祈の心臓が大きく跳ねた。
「んー!!!!」
洸祈が恐怖で暴れだす。
暴れたらもっと沈むのに……!
首がしまって苦しい!
洸祈の腕が外れた。
「っ!…………洸祈!!」
重りがなくなり、俺はプールサイドにすがり付いた。周囲を見渡すが、洸祈の姿が見えない。
「洸祈!!洸祈!!誰か助けて!!」
洸祈が死んじゃう!
「子供が溺れた!」
大人の声がし、高い椅子に座る監視員が降りてくる。
俺は洸祈を探して潜った。
洸祈、どこ?
「………………何してんだ」
「んー……夜這い?」
「何で!」
「僕の火曜日の習慣」
千里は俺を組み敷いてそんなことを言う。
てか、今日から始めて習慣とか言うな。
「ここは俺の部屋だぞ!」
両隣に琉雨と呉の部屋があるのだ。呉は知らないフリをしてくれるだろうが、琉雨は……。
「分かってるよ。だから、今からあおを僕の部屋にお持ち帰りするの。出戻り夜這い!」
そのネーミングはなんか違う。
「あおが僕のとこに夜這いしに来てくれないから、僕からあおに夜這いしてもらいに来たんだよ」
結局、お前が俺のとこに夜這いしに来ただけたろ。
「っ……」
「お願い、僕の部屋来て?」
撫でんな、阿呆。
千里は可愛い顔をしておねだりしながら、俺を高ぶらせてくる。小悪魔か墮天使とはお前のことか。
「……お前、もう溜まってるのか?」
日曜に寝たってのに……。
「だって……一人で寝ると悶々としてくるんだもん」
「自分で慰めてろ」
「もー、何度も言わせないでよ。僕はあおの中でしか無理なの」
なんでこう、千里は性欲が有り余るほどあるんだ。
洸祈や陽季さんは全然なのに。いや、陽季さんが転勤族だから、しょうがなくかもだけど。
と言うか、どうして俺達はこんな餓鬼な会話ばかりなんだ?
洸祈はさておき、陽季さんは冷静で大人な喋り方をする。まぁ、陽季さんは年上だから俺達より大人だけど。
なんかロマンチックで…………女々しいか、俺。
「でも、そうか……。家か」
「家?」
「俺達、ホテルでしないよなーって」
「あ……洸達?」
そう、洸祈と陽季さんは出掛けると、大抵、二人でホテルに泊まる。
「陽季さん、こっちいる時は良く洸祈をデートに連れてくだろ?それも泊まり掛けで。それで2・3週間は持つみたいだし、俺達も見習うか」
正直、俺は二人が羨ましい。だけど、千里に陽季さんのようにと要求したって、俺に洸祈のようにと要求されるぐらい困難なことだと分かっている。
陽季さん達は陽季さん達。
俺達は俺達。
俺達は俺達で最善の形を見つけていかなくてはいかないのだ。
だけど、まずは模倣だ。
取り敢えず、“夜這い”と“出戻り夜這い”以外だ。
「土日、デートな」
決めたら早速、実践だ。
「なんか……それってデートっぽくない……」
しかし、千里は不満らしい。
「何で?」
「デートは僕から誘うの!」
別にただのデートと言う名の実験だ。
「…………あおはエッチなこと嫌なの?」
「嫌……じゃないけど、頻繁過ぎるだろ。正直、これ以上は腰が死ぬ」
「………………僕、変なのかな……」
千里がベッドの端に腰掛けた。千里の髪がぱらぱらと揺れる。
どうやら、不意に何かが引っかかったらしい。
「あおから離れたくない……多分、僕は不安なんだ……」
「せん……」
こてんと倒れて俺の隣へ。
千里の背中が丸い。
「あおはいつも冷静だから……キスして触ると、あおは冷静さを失う。僕は素のあおの傍にいたいんだ」
「俺は冷静か?」
「うん……だけど、僕はあおの焦る顔が見たい。あおの情熱的な顔が」
「……………………」
千里が不馴れな言葉で俺に必死に伝えてくる。
「僕はあおの一瞬一瞬が見たい」
「俺の一瞬……」
「そう。君の一瞬が」
体の向きを変え、千里が俺の頭を抱えた。薄いパジャマの生地から千里の熱が伝わってくる。
千里の匂いが濃くて、少しくらくらする。
「デート、僕から誘うから。今日は一緒に眠らせて」
欠伸をし、千里が俺の毛布に入り込んできた。一気に強くなる千里の体臭。
なんだ。そうか。
お前も眠たかったのか。
「だから…………ね……」
千里は眠る準備から眠るまでが早い。長い睫を揺らして俺の腕に縋って眠る。
そして、俺は千里の分だけ狭いと感じながらも、密着による圧迫を居心地良く感じ、意識を遠くへ飛ばした。
そう、夢の続きへ。
洸祈がいた。
沈んでいた。
心無しか笑顔を見せて、深く深く闇の中へと。
どこまで沈むんだ?
俺は手を伸ばしたが、届かなかった。
足で水を蹴っても蹴っても前へ進まない。
洸祈が見えなくなっていく。
『死なせないわ。絶対に』
水に響いた女性の声は鈴のように澄んでいた。
「!?」
そして、水底からは眩いばかりの光が溢れてくる。
俺の頭が変になっていなければ、アレは虎だ。緋色の虎。
虎が俺を見上げていた。
「っ!!」
熱い。
プールの水がどんどん熱くなっている。
間違いなく、あの虎の炎系魔法だ。何故か、あの虎から洸祈の魔力を強く感じる。
ヤバい。
この魔法の目的は水を温めるに留まらないだろう。プールの水を全て蒸発させる気だ。
そうとは決まっていなくても、そうだと俺は確信していた。
俺は魔法でどうにかできるけど、ここは公共施設で、沢山の無関係な人々がいて……!
『葵!魔力借りるぞ!!!!』
背中から水圧と声、大きな温もりに包まれた。
気泡が俺の視界を奪う。
そして、俺の体に大量の魔力が流し込まれてきた。
頭をトンカチでかち割ったような痛みが俺を襲ってくる。
俺にはこんな量の魔力を扱えるわけないんだよ!
そう心の中で怒鳴った瞬間、父さんが自身の魔力と俺の魔力諸とも全てを俺の風系魔法に変えた。
風が指の間をすり抜けて飛び散る。
それは一瞬だった。
「と、父さん!」
プールの水だけが強風に吹き飛んだ。
気付いた時には俺の体は宙にあり、消えた浮力に重力が勝って落下する。そして、俺は父さんに抱き包まれて3メートル下の硬い床に落ちた。
遅れて雨が降ってくる。
雨音と人々の騒がしい声。
「葵、ごめんな」
そうだよ。体中の節々が痛いよ。
でも今は……。
「ううん……洸祈を……」
「ああ」
ワイシャツをびしゃびしゃにした父さんは俺を床に寝かすと、俺の髪を撫でて洸祈のもとへ。
「慎、これはどうなってる?」
「憲、お客さんが皆大丈夫か見てくれ」
「あー……分かったよ」
叔父さんがプールサイドから俺達を見下ろしていた。
叔父さんは渋々と頷くと、プールの底からプールサイドに上らせようと子供を抱えている母親に手を貸す。
「皆さん、怖い思いをさせて申し訳ありません!事情は和泉グループが説明致しますから!怪我をした方は直ぐに手当てします!本当に申し訳ない!!」
勿論、野次が飛び出す。
客からも叔父さんからも。
「おい、慎!俺には無理だ!!」
「分かってる!!少し静かにしてくれ!!!!」
「………………」
父さんが怒鳴り、プール内は一瞬で静まった。
「洸祈。目を覚ませ」
洸祈の肩を揺らす父さん。
「父さん、俺のせいで……」
「お前は休んでいなさい。魔力を奪ったからな。それに、これは怖がる洸祈を無理にでも外に連れていこうとした俺のせいだ。すまない」
父さんは悪くないのに。
悪いのは、父さんを悲しませる洸祈に苛ついて、洸祈を無理矢理でも泳がせてやろうとか考えていた俺だ。
背中に洸祈をおぶって、洸祈の足のつかないところで潜ってやろうとか……。
俺は残酷な人間みたいだ。
「洸祈、もう怖いものはないから。起きてくれ」
その時、洸祈の顔を赤い虎が舐めた。さっきは水の中だったからよく分からなかったが、しゃがんだ父さんよりもお座りをしている虎の背の方が高かった。
しかし、この虎は一体何なんだ。
「んん…………」
「洸祈!」
「ん………………ぱぱ…………ぱぱ!」
気が付いた洸祈は瞳を潤ませ、父さんの首に抱き着いた。
「ぱぱ!ぱぱっ!!怖かった!怖かったんだよぉおおお!!」
大声で泣き叫ぶ洸祈と、その姿を消す虎。洸祈の背中を擦る父さん。
「死んじゃうって!怖くてっ!!」
「ん。洸祈、葵。二人とも怖い思いをさせて本当にごめんな」
父さんの腕が傍で立ち尽くす俺も引き寄せる。びちょびちょの三人で生温い体温を分け合う。
洸祈が泣き止むまで、俺達はそうしていた。
それから暫く、洸祈はプールは勿論、風呂にすら入れなくなった。
ただ、父さんか晴滋さんと一緒にならどうにか風呂に入れた。
その中に俺はいなかった。
俺は一人でプールで泳ぎ、一人で風呂に入り、一人で……。
「葵ぃいい!葵ぃいいいい!!」
プールサイドで慣れた声が叫んでいた。
「こ、洸祈!?」
なんでプールなんかに洸祈が。
「葵、洸祈が葵と遊びたいってさ。あと、俺も遊びたいから来ちゃった」
目を真っ赤にした洸祈と楽しそうな父さんが対照的立っていた。
「お、俺も泳ぎたいっ」
「俺も泳げないから葵先生に教えてもらいたいなぁ」
「なら二人ともこれ付けろ」
何故、叔父さんまでいるのだろう。
「何それ?」
「お子ちゃま用の浮き輪だ。両腕に付けろ」
「お子ちゃま用?」
「ああ、例外的に慎も使用可能だ。良かったな」
腕に付ける浮き輪を叔父さんは父さんに渡し、洸祈の腕にも確りと付ける。そして、洸祈には更に腰を支える浮き輪を追加した。
「叔父さん、動きづらいよ」
「水に入ればお前はそれに感謝するさ」
「憲、小さくて腕が入らない」
「ビート板抱えてろよ。ほら」
父さんは水色のビート板を抱えると、自分を見上げる洸祈に微笑む。
「今日は皆で沢山遊ぼうな」
「うん!葵、一緒に泳ごう!」
それでも慎重にプールサイドから降りてきた洸祈は腕の浮き輪にびくびくしながらも足を浮かせた。
唇を噛んだ洸祈が俺に手を伸ばしてくる。
「葵」
俺に手を伸ばしてくれるんだ……。
俺は洸祈の手を取った。
「シャーク登場!か弱いペンギンさんを食べちゃうぞ!!」
「ちょっ、叔父さん!」
洸祈がやっと少し水に慣れたってとこなのに。
「憲、俺まだ泳げない」
父さんがビート板を胸に、足を窮屈に曲げて無理矢理浮いていた。足が着くのだから、立てばいいのに。
「お前のどこがか弱いペンギンなんだよ。逃げなくていいからな」
「え、酷いなぁ。俺も追い掛けて貰いたい」
「お前なぁ……」
「ほら、逃げるぞー!洸祈、葵!」
随分と滑稽な体勢で効率の悪いばた足をする父さんは何だか楽しそうで、俺も洸祈も笑わずにはいられない。
「洸祈、逃げよっ」
「うんっ!」
そして、俺達もとろとろと逃げ出した。
そう、二人で。
「あーおーい、朝だぞー」
「んん……」
唸る葵と。
「いやーん」
ヤらしさに欠けるヤらしい声。薄っぺらい言葉が葵が被る毛布の中から出てきた。
「またか。ちぃ」
毛布を捲らずとも分かる。この声の持ち主は千里だ。
「やだなぁ。朝っぱらから恋人達のベッドを覗かないでよ」
ぴょっこりと毛布から顔を出した千里は目尻を擦りながらもはっきりと洸祈を挑発する。そんなことは無視するのが洸祈にとっては当たり前であり、彼は葵の肩に触れた。
「葵、朝だぞ」
「駄目だよぅ。あお、悪夢見てたみたいだから。やっと、安心したのに」
洸祈が布団を捲ると、そこには千里の手を握る葵がいた。千里の肩に額を付けて眠っている。
「葵が悪夢を?」
「洸と喧嘩でもしたみたいだね。洸と慎さんの名前を呼んで謝ってた」
「葵、俺は怒ってないぞ」
洸祈の指が葵の髪を鋤いた。
小さい時に葵がしてくれたように、そっと。
すると、葵の表情が更に柔らかく、優しくなる。それは魔法のようにすんなりとだった。
「狡いなー、洸は。言葉1つであおを幸せにするんだから」
「俺も葵の言葉1つで幸せになるさ。お前の言葉でもなるぞ」
「うにゅう。褒めてもあおはあげないよ。今週末はあおとデートなんだから」
朝から褒められた千里が照れる。しかし、その後の千里の発言に洸祈の表情が歪んだ。
「デート?」
「ホテルに泊まるの。よろしくね」
口が開き、文句の数々を言おうとし、洸祈は葵の安らかな横顔に閉口する。
「………………ほどほどにだぞ」
「はーい。ほどほどにプレイするー」
「おい」
「まぁまぁ。あおからホテルでゆっくりしたいって言ってきたんだからさ」
「葵が…………なら許す」
結局は葵に優しい洸祈である。
千里の額をど突いてから、洸祈は葵の体に毛布を掛けて部屋を出た。
「おやすみ」