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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
記憶追悼―由宇麻―
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麦畑の少年

あの時、

ぼくは死にたかった。


あの時、

ぼくは生きてみようと思った。



あの時から…―




俺は生きようと決めた。







周防(すおう)…いい響きだな」

おっと。

じじくさくなってしまったな。

「姐さんの勤めていた病院…姐さんが言っていた病院のままでありますように」

何故…私はそんなことを願ったのだろう?


あの子に出会うことを何となく本能的に感じたのかもしれない


そう、私は…


危機感を感じた。



「毎月20万は払う!そう言っているだろ!」

と、男。

「厭よ!また手術なんていったら足りないわ!!それに…あんな不気味な子がいたんじゃ再婚なんて無理だわ!!!!」

と、女。

「私だって厭だ!!!!」

と、男。

「何であんな子が産まれたの」

と、女。

ガラッ。

「診察は終わりましたけど…入りますか?」

と、看護師。

「いえ…」

と、男。

「じゃあまた…」

と、女。

「…あぁ」

と、男。


加賀(かが)はただ見ていた。

入院費に顔を曇らす親は何処にでもいる。別に珍しくない。

だけど…―

「『何であんな子が産まれたの』……か」

誰もあんたから産まれたくて産まれたんじゃない。

と、内心毒づく。

壁に手を突いて早々から厭な場面に出会したことに加賀は深々と溜め息を吐いた。



「また…」

「また…ね」

「そりゃあ、親にあんなに言われて同情するけど…私だって、また“あんなこと”する子なんて欲しくないわ。こっちから願い下げね」

「そうそう」

看護師達は再び、勤務に戻っていった。

「また…あんなこと…?」

気になるが、それよりも気になることがある。

「不謹慎な看護師だ…」

こっちから願い下げはその子の言葉だろう?

「姐さん…全然違うよ」

周防は変わったようだ。




生命を尊ぶのは医者でも看護師でもない。


人としての常識だろう?


「あの」

「あ、はい」

「院長室は何処にあるのでしょうか?」

加賀は(はた)とネームプレートを付けた看護師を呼び止める。彼女は気付いたようで、加賀に頭を下げた。

「加賀龍士(りゅうし)先生ですか?」

「はい」

畑はこれからよろしくお願いしますね。と微笑み、案内しますよ。とカルテを棚に仕舞った。

その時だった。


「ぼくに触るな!!!!!!!!!!!!」


900号室。

先程から話題の病室からだ。

「きゃっ!!!!」

女性の短い悲鳴。

「何が!?」

加賀が病室に入ろうとドアに手を掛けて…

ガラッ。

中から開いた。

若い看護師が加賀の脇腹にぶつかり、すみませんっと小さく叫んで走り出す。

由宇麻(ゆうま)君!」

知り合ったばかりの畑は加賀の横を足早に通り病室へ。


加賀は動けないでいた。

握力が失せて鞄が垂直に落ち、足元に倒れる。


「……こ…れは…」

一体…何だ。


ベッドに人が、患者が、子供が…―



鎖で縛り付けられていた。


長い。とても長い髪が顔を肩を腕を四肢を覆い隠していた。


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