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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
父さん
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沈黙(7)

昔、近所のお祭りで父さんが紙相撲大会優勝商品として、チョコの包みを沢山貰ってきた。父さんはそれらを俺達にくれ、そのまま昼寝をしていた洸祈(こうき)のもとに一緒に寝に行ってしまった。洸祈が甘いのが苦手で、わざわざ寝ている奴を起こすのもということで、千里(せんり)と二人で分けることになった。

最初は平等に分けようとした。なのに、千里がジャンケン勝負しようと言ってきた。そして、勝って沢山取るとも言った。面倒だと言ったのに、あいつがしつこく言うからジャンケンをすることにしたのだ。

千里のお望み通りにジャンケン勝負を初めて10分もしない内に、千里が負け続けていることに我慢ならなくてルールを無視した。

当然、俺は怒ると、千里に逆ギレされ、起きてきた洸祈に泣きついて俺に非があると喚きたてられた。

俺は大人で、千里は子供だからと。

多少の我が儘は赦してきたが、今回は流石に赦せなかった。

明らかに千里が悪いのに、謝るどころか俺が意地悪だと言ってきたのだ。それを真奈(まな)さんは甘やかして、それでは千里を赦してしまうことになる。ついカッとなって俺は酷い言葉を言った。

『何だよ!千里は我が儘なんだよ!!!!うちの子じゃないくせに!そんなに食いたきゃ……櫻の家に帰れよ!!俺ん家で何で…ここの子のように振る舞うんだよ!図々しいんだよ!!!!』

とても酷い言葉を言った。

千里には(さくら)に居場所がないと知っていて言った。

俺は最も効果のある言葉を選んで千里を深く傷付けた。

最低だ。

と、千里のように喚いた後で思った。

俺は沸々と沸き上がる罪悪から逃れるようにその場から去った。泣く千里を置いて。

父さんと話をして、真奈さんに事情を聞いて、もう千里が謝るまで謝らないとかどうでも良くなっていた。千里が心配だった。

何故なら、あいつは我が儘だけど、頑固でもあったから。俺はそんなとこが好きで大好きだったから。

だから、俺は千里が心配で捜した。

夏蜜柑に千里が見付かったことを教えてもらって、俺は家に慌てて帰った。

膝を擦りむいてまで俺を捜してくれていた千里は寝言でも俺に謝っていた。

厭だよ。見棄てないで。要らないなんて言わないで。

あいつの悲しみ、不安が俺の胸に刺さった。

そしたら、起きて必死に謝る千里をごめんって、抱き締めていた。

千里の言う通りだと思った。あいつは子供で、俺は大人。確かに、俺は千里より大人だった。我が儘は言わないし、泣き虫じゃない。だから、大人気なかったかもしれない。別にチョコにそこまで執着していないのに、あいつのジャンケンのパターンを読んで連勝していた。手加減するとかは、なかった。ただ、あいつの…千里の泣きそうな顔を見ていたかった。綺麗な金髪も透き通るような翡翠の瞳も好きで、千里の泣きそうな顔はもっと好きだった。

俺はそんな時から千里が好きで好きで堪らなくて、今まで伝えられないくらい不器用だった。

だから、飴を渡そうとした千里に“いらない”と言ってしまった。あいつにとっての飴の意味も知らずにだ。

その後、俺は…―




(あおい)は濡れた体のまま、千里の頭を両腕に埋めた。

「千里」

「あ…お…」

ゆっくりと千里の顔が上がる。

そして、あまりのことにぽけっと開いた千里の唇を、葵は問答無用で噛み付いた。


がりっ。


千里はその痛みに顔を歪める。しかし、葵から逃れようとはしなかった。彼は必死に目を瞑って堪える。

長い間、二人はそうしていた。

やがて、それが痺れを切らした千里の伸ばした舌によって口付けに変わる前に、葵は唇を離した。

「これでチャラだ」

くっきりと残る葵の歯形。

「それで…ごめん」

それを葵は消えるまで指で優しくなぞる。痕は直ぐに唇の弾力で消えた。

「赦してくれるの?」

「チャラだから」

「本当に?」

千里は再度、強く確認する。

「うん」

葵が頷くと、千里はニコッと笑い、濡れた背中にそっと腕を回した。葵は微かに体を強張らせるが、すぐに千里の体温を受け入れる。逆上せ気味の葵の鼓動と、緊張気味の千里の鼓動が重なる。

「棄てないで…」

「棄てない」

あの時と同じ。


 飴をくれようとした千里に断ったらあいつは必死に棄てないでと繰り返してきた。

 そして、俺は勘違いをしているらしい千里に棄てない。と言ったんだ。

 俺は飴なんかよりも…


「いい?」

葵は訊く。

あの時は訊かなかったけど。

千里は片目を開けるとむすっと頬を膨らませた。

「もうっ、待たせないでよ」

 思い出した。

 あの時、俺は…

「ごめん」

 そう言って俺は…



『何言ってんのさ!飴なんかくれなくたって俺はお前を赦すに決まってるだろ』

 飴なんていらない。

『へ?』

 千里は俺の腕の中で首を傾げた。

『第一、俺はチョコが嫌いなんだ。飴だって…甘いの苦手だって知ってるだろ?』

 欲しいのは…

『そう…なの?…じゃあ、その手のチョコは?』

『千里、口開けて』

『?』

『はい、あーん』

『あお?』

『棄てないから…』



 欲しいのは千里(お前)なんだ。






んっ……………………。


葵の手が千里の髪を解いた。

鮮やかな金が光り、葵と涙を頬につぅっと流した千里を包み込むように舞う。

「好きだよ…せん」

「うん…あお。好きだよ」

ここは千里が先に倒れるところだと思った。


が、


「おっほん」

洸祈は壁に手を突いてお熱い二人をじーっと眺める。

「洸?」

「なーにが『洸?』だ」

洸祈は呆けてる葵を千里から奪い取ろうとしたが、千里は葵を掴んで離さない。

「だーめ。あおはあげない」

崩れ落ちそうな葵を抱きしめた千里は不適に幸せそうに笑う。

「まさかじゃねぇよな!」

洸祈は何かを察して言う。


ふふふ。


葵はお酒と不馴れなキス、それに逆上せが重なりふらふらだ。

洸祈はキッと千里を睨む。

「疲れきってるだろ!?赦してもらえて嬉しいのは分かったから今日はもう寝かせてやれ」

「だって―」



…―あおが興奮してる―…



千里は洸祈に囁いた。

洸祈は言葉を呑み込むしかない。

「このままなんてかわいそーじゃない?」

くしゅっ

葵がくしゃみをした。

「濡れたままだと風邪引くぞ」

「と言うわけであお、一緒にお風呂入ろ?」

「ちぃ!」

いーじゃん。千里はその細い四肢で葵を抱き上げる。

と…―

葵は朦朧としているがはっきりと首を縦に振った。

「千里…もう…あんなこと…」

「しない。あおの気持ち分かったから大丈夫。ごめんね。ゆっくりと焦らないから」

「…うん」

洸祈は引き下がるしかない。

しかし、これだけは言いたい。

「いいか!我が家の家訓は健全な男女交際だからな!男子交際だけど!」

「洸、ありがと。お休み」

これから起こることは考えないようにして洸祈は二階の琉雨(るう)のもとへと急いだのだった。




「ほどほどにしやがれよ…」

「…旦那様?」

「トイレ行くときは俺がついて行ってやるよ。風呂場の前通るからな」

「ほへ?」

「琉雨、可愛いよ」

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