表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
彼の選択
233/400

彼の選択(7)

花粉症予防にはヨーグルトらしいですよ☆≡(*≧ε≦*)/))

「あおー!湯田(ゆた)おばあちゃんからプリン貰ったー!」

二階の居住区から入った千里(せんり)はバタバタと階段を駈け下りる。

「あおー、プリン貰った………………あれ?」

しかし、店番のはずの彼の姿はなかった。








依頼だ。

目的地まで積み荷を守れ。



たったそれだけのはずだったのに。

『こんにちは。崇弥洸祈(たかやこうき)の片割れ』

黒髪に黒の瞳。

黒のズボンに黒のタートルネックと、全身黒尽くめの彼女は俺の前で笑っていた。



“東京から大阪までの貨物列車と積み荷を護衛しろ”


政府代理人の男は「洸祈は外出中です」と言っても「連れ戻せ」とばかり返してきて、ムカつくから俺は「なら俺がその依頼を受ける」と言ったのだ。

それに、洸祈一人に背負わせて、また傷を増やさせるのは厭だった。

今朝から(れん)さんが洸祈を連行し、琉雨(るう)は眠り続ける。このままでは何かを失う気がして、俺は愚かなことだと察しつつも二人を気遣ったということになる。

そして、俺は見知らぬ―多分、俺以外の依頼された者だろう―男達と共に2両編成の貨物列車に乗った。

天気も良く、2両目の1両目側を任された俺は欠伸をしていた。

窓の外は静岡だったんだと思う。

ぼーっとだけど、山だらけの景色の中に富士山を探していたから。


それがまぁ、長いトンネルを抜けたと思いきや、前方に女だ。



「なんで俺の名前知って……誰ですか?」

洸祈から繋げるあたり、洸祈と赤の他人ではないのだろうが。

『自己紹介がまだだったね。私はアリアス・ウィルヘルム、君の兄に毛嫌いされている』

「つまり、悪い人」

ろくでもないことを考えているということか。

『“悪い”かは置いといて、私はヒトだが、君達と同じヒトではない』

つまり?

『つまり、私はカミサマだ』

黒い冷えた瞳が細められ、それは冷徹美人の顔。かつ、ヒトとはなんか違うらしいから冷徹美カミサマの顔をしていた。


1両目に積み荷はあり、車掌側に4人。俺達2両目側に7人。この不均等さ加減は2両目側からしか1両目にいけない仕組みになっていたりするからだ。

そして、俺の見える範囲では、2両目は俺を除くと全滅ということになる。

カミサマの慈悲か、命は取られておらず、気絶しているだけみたいだ。

「それで?カミサマの用件は?」

『勿論、その中のものに用事だよ。貰って行ってもいいかな?』

アリアスは俺の体を貫いた向こう――積み荷を指差す。

まぁ、ここまできて「用はない」と言うとは思っていなかったが、まさか、政府の荷物が欲しいカミサマがいるとは。それか、政府の荷物は想像以上に重要度が高い……。

「嫌いな人間の荷物なんでお好きにどうぞといいたいけど、依頼されてるので。家計の為に働かないと」

俺は久方ぶりに触る銃を真っ直ぐ彼女に構えた。


なのに、


『なら、力ずくで奪うだけだ』


俺の背後は彼女に取られていた。そして、驚く暇もなく、背中を強く蹴られた。

「っ!」

苦手な接近戦に俺は受け身も取れずに俯せに倒れる。咄嗟に立ち上がろうとしたが、彼女のヒールが俺を踏んづけていた。

有り得ないぐらい、それが重くのし掛かる。

「くそっ……」

『兄とは比べ物にならないぐらい弱い。その武器はお飾りかな?』

俺を踏んだまま俺の手から銃を剥がすアリアス。

彼女はクスクスと俺を笑う。

何だよこいつ!

ホントにムカつく!

「……足どけろよ……!」

一丁の銃以外には何も持ってないし、魔法も長距離だから期待できる効果はない。

陣紙は依頼人側が持たせてくれなかった。曰く、想定外の行動を起こされないようにらしい。例えば、荷物持って俺が逃げたり。

信用されてないからこそ、多すぎて動きづらいほどの人数なのだろう。

互いを見張らせているのだ。

『退けてもいいけれど、この列車は私達が制圧した。無駄な抵抗はやめたまえよ』

映画でよく聞くテロリストの発言みたいだ。

……………………私達?

「あっちからじゃ開かないみたいです。魔法でも無理だった」

『分かった』

加えられてくる力が減ったので、這いつくばったまま顔を上げた俺は、列車の屋根からぴょんと下りてきた男を見た。

どうやら、“私達”の“達”らしい。その男も黒尽くめで、人の良さそうな顔なのに救世主ではない。

見た目に騙されるなとはこのことだろう。

「あ……この人……」

興味深げに俺を見てくるあたり、

「崇弥のそっくりさん?」

やはり、またも洸祈知り合いみたいだ。

「そっくりじゃなくて崇弥洸祈の双子の弟。崇弥(あおい)だ」

アリアスは忍び笑いをしているし、そっくりさんのまま訂正してくれなさそうなので、自ら名乗ることにした。

「オレはリク・シノーレント。アカデミーでは崇弥兄に色々と迷惑を掛けられた」

アカデミー……確か、洸祈だけは軍幹部の命令で強制参加させられた短期集中の超スパルタ教育設備とかなんとか。

3学期のテストがパスになるので、洸祈以外にも他数名が自主参加した。しかし、彼らが1ヶ月後に帰ってきた時は、帰宅を待っていた友に泣き叫びながら抱き着いたらしい。

洸祈は疲れたとしか言わなかったが。

それより、リクはさっき、洸祈に迷惑を掛けられたと……。

洸祈は一体何を仕出かしたんだろうか。彼は悪人でも顔は優しそうだから、絶対に洸祈が非がある何かをしたんだ。

行儀に関しては俺は兄でも信用してない。

ここは弟として謝っとくべき?

「首席の座が崇弥兄の阿呆で消えかけたんだ」

声音がちょっと凄みを帯びた。口元が笑っているけど、目が笑ってない。

「兄がすいません……」

「いえいえ。彼にはちゃんと謝ってもらったし。土下座+αで」

αって何だ。

『リク、彼は一応、人質にする』

「分かりました」

αについて訊く前に、俺は縛られて彼に引き渡される。

兄と同じかそれ以上の背丈で俺を担ぐと、軽々と2両目の真ん中に置かれる。

隅なら逆に何か仕掛けやすいが、真ん中だと後ろ手も足下もバレバレだ。

俺の武器も他の奴の武器も車外に捨てられたし、俺は本気で手も足もでないらしい。

『ところで崇弥葵、自らが守っていたのが一体何なのか知りたくないか?』

「それは……まあ」

一番はアリアス達が何も取らずに帰ってくれて、俺は依頼を成功できたらいいのだが。

アリアスは鍵穴に針金を突っ込んでガチャガチャしていたが、結局、約30秒後に扉を蹴破った。

彼女は短気だと思う。

『嗚呼……美しい』

そして、アリアスが扉の前からずれて俺に見せてきたのは……―


女の子。


「え…………」

白いドレスを着た真っ白の髪を持つ少女。

剥き出しの腕が膝に。

剥き出しの素足が絨毯に。

目を閉じて簡素な木の椅子に座っていた。

少女が車掌側の扉に背を向け、俺達の方に向いて座っていたのだ。

「……何だよこれは…………」

人間……それも、女の子が荷物?

『兵器』

「……兵器?」

『そう』

アリアスはハイヒールを鳴らして1両目に入り、少女の隣に立った。

『人工魔力とは聞いたことあるかい?』

ない。

『その名の通り、人工的作用によって魔法を使えるようにするものでね。魔法使いでない者も魔法が使えるようになる』

見えなかったが、腰と椅子の背とが縄で一緒に縛られていたらしく、アリアスが短刀で少女の拘束を切った。

『この子は人工魔力を持った機械人間さ』

倫理に反するとか、妄想だとか以前に、その言葉に恐怖した。

この女の子は兵器であり、造られた人間。

「でも、どうしてこんなとこに……」

『戦争するためだよ』

戦争?

そんなのは過去の負の遺産だ。

『明後日、この子はとある一家のお嬢様としてパーティーに出席する。厳重警戒された会場で行われる軍幹部達が集まるパーティーにね』

「この子が軍人を……殺す?」

『権力者は政治だけでも軍事だけでも物足りない。二つとも欲しがるんだよ』

アリアスは笑みを溢すと、少女の垂れた長髪を耳に掛ける。

『魔法使いなんて未知なる力を持つ化け物達がいる世界じゃあ、誰しもが王さまになって絶対の安心が欲しくないかい?』

確かに、政治と軍事を得た王は、最も安全が保証されているのかもしれない。

でも、違う。

「魔法使いは化け物じゃない」

実際は軍人養成の為だけに作られた軍学校でも、俺達魔法使いの立場の危うさを真っ先に教えてくれた。

俺達は魔法使いでない者からしたら、神……悪魔に等しく、気紛れに人を殺せると、そう思われているらしい。

“それでも、君達はただのヒトだ”

璃央(りおう)が繰り返していた。

魔法使いは化け物じゃない、ただのヒトなんだ。


「俺達はただのヒトだ」


リクはぼんやりと窓の外を見ていて、アリアスは俺をじっと見詰めていた。しかし、俺はまたアリアスに笑われた。

『理想論だ。犯罪者が更正施設から出たら、社会が「さぁ、おいで」と仲間に入れてくれるわけじゃないんだし。ヒトは正義でいたがるから、悪がなくてはいけないんだよ。君達魔法使いのような悪がね。そして、悪は悪らしく軍という名の檻にいればいい』

彼女にそう言い返され、俺はそれに言い返せなかった。


だって、俺も正義でいたかったから。


『だがしかし、この子の出番はまだ早い。だから、私達はこの子を預かりに来たんだよ』

彼女は少女をお姫様抱っこで2両目側に持ってきた。

「預かる?奪いに来たんだろう?」

『何を言う。時期がくれば放すさ。私には生憎と正義はないからね』

「つまり、あんたは戦争をいいように制御するわけだ」

この女は政府も軍も手のひらに乗せるつもり……いや、既に乗せているのかもしれない。

『戦争自体には興味はないが、私が求めるのはその先』

戦争の先とはなんだ?

あるとしたら『死』だ。



『戦争は天高く居座る女を引きずり出す為の餌だよ』



『勿論、君の兄を極上のステーキにしてね』と、女は残酷な顔で俺に囁いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ