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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
彼の選択
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彼の選択(3)

「無茶し過ぎ」

(れん)がぴしゃりと洸祈(こうき)の右腕を叩くと、洸祈がその場で飛び上がった。

「痛ッ!?何すんだ!」

「良かったね、神経は切れてないみたいだ」

「だからって叩くな!折れてんだぞ!?」

「誰のお陰でその腕を動かせてると思ってんだ。君が頼むから、君の腕に希少な薬草使ってるんだ。なのに、君はずっと仕事仕事仕事。なくしもの探しまで引き受けて、腕を酷使するな!」

洸祈のキレに、蓮が荒々しい口調でキレた。

ローテーブルに両手を強く突き、眉を曲げて怒鳴る。

「あのな!僕は君に死に急がせる為に治療するんじゃないんだ!僕が君の腕を治して、君が無茶して体を壊すなら、僕は君の治療なんかしない!」

洸祈の腕の巻きかけ包帯を投げた蓮は鞄を閉じて車椅子のレバーを握る。

「ちょっ、二之宮(にのみや)!悪かったって!」

確かに蓮は正論で、洸祈が悪いが、ここまで冷静さに欠ける蓮はおかしい。

「二之宮!おい!」

「煩い!」

「謝ってるだろ?なんかお前、変だぞ?」


ぴたり。


蓮が動かなくなる。洸祈は蓮の背中を見詰め、手を伸ばした。

そして、手が届く前に蓮が車椅子を回転させたかと思うと、洸祈は蓮に抱き着かれていた。

「……二之宮?」

「僕は……怖い」

「怖い?」

「不安なんだ……理由はないけど、不安で……怖い」

「…………」

蓮は洸祈の腰に強くしがみつく。蓮から微かに圧し殺した叫びが聞こえた気がした。

「最近、嫌な夢ばかりみるんだ」

次第に強くなる蓮の震え。

洸祈はそっと何かに怯える彼を宥める。

「夢って?」

「君が…………いなくなる」

不意に蓮の震えが止まったかと思うと、蓮は虚ろな瞳で洸祈を見上げた。まだ生きている方の瞳も焦点を合わせていない。

「大丈夫か?」

「僕にとって、(せい)も洸祈も今の君なんだ…………なのに、君は時々君じゃなくなる。僕は君が消えてしまわないかと心配で不安で怖い」

緋色の奥の奥を見詰め、蓮は洸祈でない誰かに語っていた。

「二之宮、俺は俺だ。俺のままでいる。誰にも俺は消させないし、俺は消えない。約束だ。だから、お前も俺が消えないよう、俺を覚えていてくれ」

蓮の頬に貼り付く髪を後頭部に流して、洸祈は蓮と至近距離で向き合う。

「僕は絶対に君を忘れない……」

「ありがとう。蓮の不安消えた?」

「…………うん」

頷いた蓮だが、洸祈の腕の中で彼は表情に影を落としていた。





リン……―


鈴の音が聴こえる。


リン……リン……―


『もうすぐ貴方は消えるの』


誰の声だ?

俺が消える?


『貴方は邪魔。早く消えて』


お前は誰だ!

お前に消えてと言われる筋合いはない!


『貴方は死すべき子。だから、生きていてはいけない。邪魔なのよ、センリ』


センリ?

その名前は……―



リン……リン……リン……―





「あお、大丈夫?」

それはお前には絶対に言われたくない言葉だ。

「大丈夫……なわけあるか!」

手錠で拘束プレイなんて、馬鹿げてるどころか、犯罪だ。

「外せ!」

玩具の手錠と言えど、両腕を封じられれば、自力では外せなくなる。恐ろしい。

「元気なあおは大好き」

「大好きなのは分かったから外せよ!」

「やだ」

“やだ”はきっぱりと言われた。

我が儘には寛容な方だが、なんか引っ掛かる。

千里(せんり)は多分、変態だ。

何とかプレイにばっか走るし、千里は洸祈と陽季(はるき)さんもやってるとか言うが、紳士な陽季さんにそれはないと思う。それよりも、兄が何とかプレイに翻弄されてるのは想像できない。あまり想像したくないかも。

だって、兄だけど、俺と顔が同じだ。

兄についての想像は、俺についての想像に近い。

「“やだ”じゃない!これ、手首が痛いんだ」

小さな金具が痛い。

俺は千里に跨がれて体勢を立て直せないし。

「えー……やだぁ」

凄く嫌そうな顔だ。

唇を突き出して不満を表す。

「折角、部屋も綺麗にお掃除してるのに。お花の香り満載にしてるし」

確かにフローラル的(?)な香りに充ちているが、SMプレイに興じる雰囲気作りとは程遠い気がした。

「洸がお仕事だから、あおも遠慮せずに声が出せるって言う気遣いもしてるんだよ?」

そんな気遣いはいらない!

むしろ、お断りだ!

駄目だ。千里にはエロしかない。

「千里、痛いんだ。せめて、手錠以外にしてくれ。花の香りも分かったから」

「手錠以外……まさか、縛って欲しい……―」

「違う!」

もう亀甲縛りの手には乗るつもりはない。

千里は、洸祈に護身用の動くと逆に本人を締め付ける縄の結び方を習ったと思ったら、亀甲縛りを会得していたのだ。

洸祈の部屋にあるウサギのぬいぐるみ相手に亀甲縛りを実演してから、当然のように人体実演に使われたのは俺だ。寝ていた俺に甘い言葉を囁いて安眠を誘っていたのはフェイクで、朝から突然、亀のように縛り上げられた。

その後は思い出したくない。

千里はその後、散々俺で遊んだだけなのだが……。

「拘束以外だ!てか、普通にしろ!」

一々、SMに持ってくな!

「普通にあおとキスして、普通にあおの全身を弄って、普通にあおと――(約3分)――しろと?」

俺はそこまで詳細な説明は求めてない。

しかし、俺はその普通を求めているから、素直に頷いた。

「それがあおのお好み?」

お好みでは断じてないが、徐々に実現されつつある千里の数ある脳内妄想よりはマシだ。

「僕に本気になれと言うことだね」

は?

「道具なしで素の僕でどこまで(あおい)を夢中にさせられるか。いや、夢中にさせてみろ!って意味だね!」

そうじゃない!!

否定する間もなく、申し訳なさ程度に裸体を隠してくれていた乗せられてるだけのパジャマを剥ぎ取られた。

「あおの声が枯れたらどうしよう」

唇の端に笑みを浮かべて言う様は真正なるドSの風体だ。

「あおは可愛いなぁ……」

そうやってうるうると俺の体を舐め回すように見られても、俺が可愛いには微塵も同意できない。

ひたりと俺の素肌に触れる千里。反射的に四肢が硬直する。

拒んでいるのか……それとも、期待しているのか。

俺は前者でありたい。

今のところは。


千里の舌が俺の首を這う。

「っ……」

俺は唇を噛んだ。

「声我慢しなくていいからね」

男なら我慢するに決まってる!



それより何より、手錠外してない!



「て、手錠は!?」

「いいの。気にしないで」

気にする気にしない以前に、話と違う。

拘束プレイ&本気OK――なんて、千里のいいようにされてる。


しかし、脇腹をあまがみされた頃には俺の体力は尽きていた。


本当に声が枯れるかもしれない。

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