鳥籠遊戯
『櫻』連載中に行き詰った時にちょくちょく書いていたものです。
クリスマスプレゼントということで(?)、3話の短編を投稿ですm(__)m
お客様、お待ちしておりました。
俺の名前は清。
お初にお目にかかります。
【鳥籠遊戯】
彼は先ず、私の指に触れた。
冷たい手だ……。
次に、手の甲に触れる。
手首。
腕。
上腕。
肩。
「緊張しているのですか?」
肩から背中に回された腕が首を滑った。
さらさらと、すべすべとしていた。
「わ、私は……何を……」
シャンプーの匂いがした。
脳髄が痺れる。
「なら、抱いて」
彼の鈴のように跳ねる言霊が、私の耳に囁かれた。
私はただ、目の前の障子しか見えない。
彼のしっとりと濡れた唇が私の首に触れた。
私はただ、視界の隅に映る彼の肩口しか見えない。
駄目だ。
抑えられない。
「あっ……」
甘ったるい彼の喘ぎを聞きながら、私は彼を押し倒した。
純白の着物は眩しく……―
彼には似合わない。
「ん……っ」
私は白い肩に歯を立てる。
右手で彼の右足を掴んで膝を立たせる。
左手で彼の頭を畳みに押し付ける。
「君に白は駄目だ」
君には青や紺…………黒がいい。
真っ黒でいい。
白い肌を犯しゆく黒。
違うな。
黒に染まらない白。
指を柔肌に滑らせ、白い着物を剥がしていく。なんて脆い鎧だ。
「……君は……綺麗だ」
彼は顔を背けた。
未熟な喉仏が上下する。
この子は、なんて美しく、気高いのだろうか。
最初、正座し、額を畳みに擦り付けてお辞儀をする彼を見たとき、私は感じた。
この子は鳥だ。
ただ目指すは自由の鳥。
この両足を失っても両手で進むのだろう。
この両手を失っても両足で進むのだろう。
この両目を失っても両耳で進むのだろう。
この両耳を失っても両目で進むのだろう。
全てを失っても背中に生える純白の大きな羽で空へと飛び立つのだろう。
誰も彼の自由を奪うことはできない。
『邪魔者は灰にしてきたから』
死灰を吸い込み、踏みつけ、彼は地を空を駆けて行くのだ。
「お客様……?……誰を見ているのですか?」
『俺を見て』……か。
「君は私に屈伏することはないと言うのに……」
「たとえそうだとしても、あなたは俺の客。俺はあなたに夢を見させる為にここにいるのだから」
「籠の鳥…………」
籠の中で羽ばたくのか。
「俺は清。籠の鳥の清」
ともに夢を見ましょう……―
私は彼の背中に口付けをした。
嗚呼…………この羽を噛み切りたい。
お客様、お待ちしておりました。
俺の名前は清。
今宵も良い夢を。
「ふぁ……」
「起きた?朝食はバターを付けたトーストとスクランブルエッグ、温かいミルクだよ」
「………………それだけ?」
「あと、おはようのキス」
「んっ…………おはよう、陽季」
「おはよう、洸祈。今朝は夢見は良かったんだね」
「そう?」
「至福の顔だったよ」
「……鳥の夢を見たんだ」
自由に空を飛ぶ鳥の夢を見たんだ。