僕は……。
「やば……」
喉の奥が熱い。
序でに目頭も熱くなる。
ふと、泣きたくなる。
熱くて、冷やしたくて、熱い何かを涙に乗せて外に出したい。
ひっく。
やっぱり泣きたくなくて、瞼辺りに力を込めたら、喉が鳴った。そしたら、変なものが気道を競り上がってくる。
駄目だ。
そう思ったけど、体はいつも以上に酸素を欲し、
「っ……ごほっ……ごほっ……」
咳が止まらなくなった。
咳をする度に喉が痛くなる。それも、痛みを増して。
喉が痛い。
けれど、噎せた時と同じで抑えられない。
何かを吐き出そうとし、欲していた空気はろくに吸えない。
背中も痛くなってきた。
「……千里っ……」
口を突いたのはあいつの名前だった。
嗚呼……あの小さな頭を抱き抱えてあげたい。
「泣くな……泣くなよ……」
堰を切って溢れる涙。
止まらない。
どんなに力を込めても止まらない。
前に……前に進まなきゃいけないのに、進めない。
泣くな。
泣くな…………千里。
「……………………っ……いたっ……」
僕はどうしたんだろう。
頭ガンガンするし。
寒いし。
「ひくちっ……」
ダサいくしゃみが出てしまった。
「うう……寒いよぉ……」
膝を擦り合わせて少しでも熱を作る。
―……カシャン。
足元で軽い金属音が鳴った。
「…………なん……だろ」
暗いここで、取り敢えず、音からして無生物に手を伸ばす。指先で探り探り。
僕は半ズボンと半袖で、それだけでは心細かったから、何でも良かったから少しでも多くの“もの”に触れていたかった。
僕は触れた。
それは……―
固い……わっか…………それは僕の足首に繋がっていた。
「ああ……うう……」
知ってる。
“わっか”だ。
「あううぅ……ううう!」
フラッシュバックする悪夢。
嫌だ。
外して。
外して!!!!
「今外す!」
誰?
「うぅぅ……うう」
怖い。
誰?
怖い。
怖い。
怖い。
「ううううう!!!!」
僕はがむしゃらに手足を動かした。
触るな。
怖い。
離れろ。
怖い。
これを外して……―
「大丈夫。大丈夫だよ」
力一杯抱き締められた。
僕が殴った顔を近付けて。
僕が蹴った足で近付いて。
「うううぅう」
「大丈夫だから。俺は君を自由にしたくてきた」
知らない手のひらが僕の素足に触れる。
「ううっ!!」
僕は怖くて足を引っ込めた。
僕の冷たい足に、その手は熱すぎたから。
この人の体温は熱すぎる。
怖い。
これ以上踏み込まれたら僕は壊れる。
僕は人間じゃないからこの人はきっと僕を嫌う。
『腕の骨折が1時間で完治!?』
凄いでしょ。
僕は痛くても頑張ったんだ。
『化け物だな!』
化け物?
“化け物”って何?
駄目。
見ないで。
近付かないで。
「あううう!!ううううう!!!!!!」
「落ち着いて!」
僕は“化け物”じゃないんだ。
「ぼ……僕…………ううううう!違う!!!!あううう!!!!」
違う。
僕は“化け物”じゃない!
「違うよ!!!!君は違う!!!!!!!!」
「うううう!!!!」
違う。
違うんだ。
僕は違うんだ。
「そうだ!君は違う!君は千里だ!!!!」
―馬鹿なことを言うな。お前は人間だ。お前は“千里”だ―
葵…………忘れたくないよ。
葵…………僕の名前を呼んでよ。
……………………。
「…………助けて」