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櫻(10)

前回投稿失敗しましたので、編集したことをもう一回報告させてもらいますm(_ _"m)

崇弥(たかや)の餓鬼……」

「お久し振りです。(さくら)さん」

いつもいつまでも軍人であり続ける男。

根っからの軍人一家、櫻の主、櫻勝馬(かつま)

「出てけ。お前のような奴が我が家に入るな」

「“お前のような奴”ですが、俺、店長として誘拐された従業員を返してもらいにきただけです」

「誘拐?はっ、千里(せんり)は櫻のだ」

表情を変えずに吐き捨てる櫻。

片腕をプラプラと揺らし、血濡れた刀をもう片手で握る洸祈は右に広がる庭を見た。

岩に囲まれた池には鯉が泳ぐ。

砂利道、雑草、紅葉……。

背の高い木々に隠れた裏庭は和を纏っていた。

「不自然な家です。洋風に改装された家の中に残された和室。和洋折衷……折り合いが取れてるとは思えませんが」

「お前、人の家にずかずかと」

和室の件からだろうか。

彼の表情ではなく声音が変わった。

重く威圧的に。

洸祈は真正面から彼を見詰めると、握った刀を堂々と櫻の喉に向けた。

「千里はものではありません。あなたのいつまでも廃棄処分できるロボットメイドじゃないんですから」

「貴様!ナメるのも大概にしろ!!ただの餓鬼のお前がこの櫻の主に口出しするな!!!!」

空を貫く咆哮に近い。ビリビリと空気を震えさす程の覇気を含んだ声。

そして、

「!!!!?」

洸祈が顔をしかめた頃には、洸祈の懐まで近付いていた勝馬のシワの刻まれた手が洸祈の刀を掴むと庭へとそれを捨てる。そのままもう片手が洸祈の腹に拳を埋め込もうとした時、洸祈は力任せに勝馬の手を払って飛び退いた。

魔法の使えないこの場で、洸祈の武器は刀。拳は片腕を失っている今、無闇に使えない。

「くそっ」

過去に軍人であった勝馬をまさしくナメていた洸祈は舌打ちをした。

「今すぐ出ていけ。お前の弟が殺されたくなければな」

(あおい)?…………まさか……!!」

「男が好きだと?ふざけるな!虫酸が走る!千里を洗脳までして、崇弥も落ちたものだな!」

嘲笑うではない。

彼は本気で崇弥を憎んでいた。

「男が好き?ふざけるな?虫酸が走る?」

それに対し、洸祈は俯き、小さくはっきりと応える。

「否定するのか?正義の味方気取りが」

勝馬が蔑むように洸祈を見下ろした時、洸祈は顔を上げた。そして、じっと勝馬をただ見詰める。

「否定はしない。だけど、洗脳って千里のことを否定するあんたは一体千里の何なんだ?」

震える拳を隠さない洸祈。

「櫻櫻櫻。あんたの家族は櫻だろ?千里じゃない。柚里(ゆり)さんでも、千鶴(ちづる)さんでもない。軍の為に生きる軍人一家、櫻だ」

櫻勝馬は軍人だ。

何故なら櫻だから。

「家族でもないのに千里を否定するな!あんたは櫻しか見えていないから、息子も娘も皆失うんだ!」

「娘だと!!貴様ァ!!!!」

「――っ!?」

洸祈が避ける隙なく、勝馬の手が洸祈の前髪を掴んだ。

そして、強く拳を洸祈の腹に埋め込む。

ほんの数秒の出来事だった。


「っく、ごほっ……っあ」


腹を守って踞る洸祈。

その背中を激情した勝馬の足袋の穿いた足が踏みつける。

「無礼者が!櫻だぞ!私は櫻の主だぞ!若餓鬼の崇弥の小僧じゃないんだ!お前が私に頭を上げていていいわけがないだろう!」

ガシッガシッと強く何度も……。

「あの馬鹿がガイジンなど連れてくるから!ガイジンが!ガイジンが!!」


振り上がった足が洸祈の頭に落ちようとしていた。


が、


洸祈の手が勝馬の足首を掴み、弾く。バランスの崩れた彼をはね除け、洸祈はよろよろと立ち上がった。

そして、靴下のまま縁側から庭に降りる。

歩く。

歩く。

よろける。

歩く。

歩く。

立ち止まる。

洸祈の足下には一振りの刀。彼はそれに手を伸ばそうと背中を曲げる。

「餓鬼が!」

どかどかと足を踏み鳴らし、勝馬が洸祈に襲い掛かった。


ふっと体を揺らした洸祈は勝馬の正面から最小限の動きで外れ……―


「!!!!!!!?」


素早く刀を掴んだ洸祈が勝馬の首を裂く前に、勝馬の筋肉の動きが停止した。

勝馬の首に触れた刀。

あまりの動きに勝馬の目が驚愕に見開かれる。

「貴様……」


「アハハハハハ!!!!!!」


不意の笑声。

間違いなく、それは洸祈の口からだった。

「まさか葵とはねぇ!!洸祈の唯一の肉親か!!」

声高々に笑う彼。

「この世界で最も血の繋がりの濃い双子の弟!あんた馬鹿だなぁ!!」

「馬鹿だと!私は――」

「『櫻だぞ』って?そんな馬鹿野郎だから……」

刀に固まる勝馬の腹に、洸祈は回し蹴りした。砂利と布が擦れて鳴る。

「ぐっ……!」

「洸祈の怒りを買うんだよ」

「貴様……誰だ!」

くすっ。


「初めまして。ぼくはコウキ。ぼくと遊ぼうよ」


コウキは勝馬の首筋に切っ先を真っ直ぐ向けた。







「ふぁ……よく眠った…………あれ?」

後頭部がまだジンとするが、少しはすっきりした頭で周りを見渡せば……の前に、上半身が縛られて上手く起き上がれない。


何事だ。



確か、冬さんの車で櫻に……。

俺はいつの間にか寝てしまった。

そこまではいい。

何故縛られている?

寝相は悪くない。……はず。

「ここはどこだ?」

室内なのは室内だが、俺が寝かされているソファーや見える範囲で、シャンデリアや絨毯、一本足のテーブル。アンティークな部屋で生活感がないわけではない。だが、綺麗過ぎだ。

ドアが見えない。

寝ている俺の頭上か、背もたれの向こうか……。

何て無用心か、足は縛られていない。

人の気配もしないし……。

ずっと寝ていたせいか、ふらつく。でも、壁に凭れることで立てた。


豪華なベッドがある。

広い部屋。

広く寂しい部屋だ。


何か腕の縄を切れるものはないだろうか。

机も棚も箱もない。見渡すが、それっぽい場所はクローゼットか。

丁度いいことに、縛っている縄をノブに引っ掛けて体重を掛ければ開きそうだ。

「っと……思った以上に……これは技術がいるな」


何分だろうか。

かなり格闘した。

それに夢中になって人が来ないかどうこうはどうでも良くなっていた。


そして、クローゼットの中には……。




「千里……のパーカー…………」




千里がよく着るやつだ。

「……ここにいたのか?」

なら、ここは櫻本家?


俺は千里の枷か?

それとも洸祈の枷か?



俺は歯で近くに掛けられた千里のズボンのポケットを噛んだ。

やっぱりある。

千里のナイフだ。




「枷なんてなって堪るかよ!」

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