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櫻千里についての考察

休憩終わり(^^♪

櫻千里(さくらせんり)は色々目立つ奴だ。



細い金色の髪は腰まであり、白い肌、翡翠色の瞳は、それだけだと外人さんの容姿だ。

けれど、鼻筋は通っていても高いわけじゃないから、髪が宇宙人的色でも日本人に見えるアニメキャラ達のように外見は日本人に見える。

中身は?と訊かれたら、日本語ペラペラで、英語は軍学校での成績は下から数えた方がかなり早い。

寧ろ、上から数える奴はアホだ。


何故、こんな矛盾ばかりなのかと言うと、よく言う先祖返りの母親からの遺伝だ。

俺も兄も単純だから、出会った時は綺麗なものは綺麗だと、目を見開いてキラキラの髪と瞳を凝視していた。でも、普通はそういう日本人らしくない容姿は子供の頃はそれで虐められたりすることが多いのだと真奈(まな)さんに聞いて、気を悪くしてないかと二人で謝った。

そしたら、お家にずっと籠ってたからよく分かんない。なんて、ケロッとした顔で返してきた。


俺はちょっぴり物寂しくなった。





櫻は崇弥(たかや)と同じ軍人の家系だ。

けれど、崇弥はほとんどが軍人と言うだけで、画家も科学者も、はたまたサラリーマンもいる。

それに対して、櫻の名を持つ者は例外なく軍人だ。

櫻家に生まれた者は厳しい教育の中で何事にもお手本のような子供が育っていく。そして、彼らは軍学校をトップで卒業し、エリートコースを淡々と進んで軍の上層部を固めてきた。

崇弥は戦力。

櫻は戦略。

昔から決まっていたことだった。



成績は中に惜しくも満たない。それも、一番の得意教科で。

他教科は目も当てられない。

それ以前に持病の再発で2回ダブった。

2歳年下の同級生達の中で落第寸前の成績。

柚里(ゆり)は櫻の例外であり、問題児だった。

問題は成績だけでなく、彼の友人のこともある。

崇弥は軍では何かとヒーローとして人気で、崇弥に力では過去にも誰一人として敵わなかった櫻は、崇弥をよく思っていなかった。

そんな櫻家長男の友人は崇弥家長男。

それも、崇弥(しん)の成績は柚里より良いときた。

櫻の立つ瀬がない。

柚里の父親は息子は諦めて孫に懸けることにした。

彼は二十歳満たない息子に、親戚から選んだ女達の中から結婚するよう言った。

しかし、柚里が選んだのは家柄も財もない年下の同級生。

狩野千鶴(かりのちづる)だった。

彼女のその容姿は金髪に翡翠色の瞳。

ガイジンだった。

最後まで櫻に反対されて、二人は小さな教会で親友達に祝福されて愛を誓った。

ある冬へと向かう静かな夜、生まれたのは千鶴の容姿をすっかり移したような丈夫な男の子。

両親の漢字を取って千里と名付けられた彼は、直ぐに母親から引き離され、尊敬する父親との記憶も微かな内に、柚里は死んだ。


千里という少年の本当に幼い時期の姿を知る者は少ない。

というのも、千里の1日は地下で始まり、地下で終わっていたからだ。

時々だが、千里は一族総出の集まりで本家の体裁に外界に現れた。ガイジンの血を引く彼は親戚から遠巻きにされ、それが分かってか、彼は食事の場以外は幽霊のように姿を消していた。

しかし、千里を見た者は、とある一室で誰もいないのに明らかに誰かに話し掛ける千里がいたらしい。

彼はその誰かを“氷羽(ひわ)”と呼んでいた。


そして、地下で幽閉されて育った千里は……。





「僕は毎日、母さんの夢を見たよ」

「千鶴さんの……夢」

「遠い昔に風邪を引いた僕を必死に看病して傍に居てくれた母さんの夢を見たよ」

体の動かない俺を綺麗にし、ズボンと裸の上半身にパーカーを羽織ってベッドの縁に座る千里は低い窓枠に腕を乗せて三日月を見上げていた。

母親譲りの美しい金髪が夜風に靡く。

「僕は父さんも母さんも好きだよ。だけど……」

「好きなのに千鶴さんに会いたくない……どうしてだ?」

横顔は固まったように動かず、翡翠の瞳が俺を見た。

「僕は実際に母さんに会った時、何を言うか分からない。大好きだと言いたい。抱き締めて欲しいと言いたい。だけどね……―」

片足を曲げてベッドに乗せた千里は、膝の上で腕を枕にして俺に弱々しく微笑んだ。

「どうして僕を守ってくれなかったの?……僕は母さんに暴言を吐かない自信はない。両親だからって守ってもらおうなんて虫のいい話だけど、僕は時間も季節も分からない世界に閉じ込められていたんだ。苦しかった。哀しかった。それすら分からなかったのかもしれない……。駄目なんだ。僕は……母親の愛情に飢えてたのかな……」

言って直ぐに俯いた千里は、俺の横で踞って繭のように丸まった。転がして顔を俺の方に向けてやると、体を伸ばして俺に抱き付く。

毛布ごと俺に抱き付き、表情をそこに埋めて隠した。

「あお……だるいだろうけど、抱き締めて。キスして……」

「分かったよ」

俺は嗚咽する千里を抱き締めて、結局、キスはしなかった。

涙を堪えた千里は、俺の腕の中で眠りに落ちたのだった。







櫻千里は色々目立つ奴だ。


だけど、千里は普通に傷付き、哀しむ。

千里は俺達と変わらない。


千里はヒトだ。

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