愛していました
クレハちゃん
悪魔は災いを呼ぶ。
悪魔にはそんな力はないと言うのに、皆はそう言った。
「だから、僕は消えたんだ。皆の前から」
ヒトの前から消えたんだ。
斬られそうになったり、
撃たれそうになったり、
それがイヤだから。
痛いのはイヤだから。
何より……―
「彼女が悲しむのはイヤだから」
僕に名前をくれ、呼んでくれた彼女が悲しむのはもっとイヤだったから。
なのに……―
「どうしてこうなるんですか……」
漆黒の空を残酷に照らす美しき炎。
全てを飲み込む炎。
彼女が嫌々ながら勉強した部屋も
彼女がそこに座って僕に絵本を読み聞かせてくれたベンチも
彼女が手を泥だらけにして手入れをした庭も
彼女の命も
全てを飲み込む。
「なんで……どうして……」
僕は災いを呼ぶ。
皆はそう言ったけど、僕にはそんな力はないんだ。
「僕にはこの火を消す力すらないんだ」
この手のひらを返したような仕打ちをしたヒトになんの復讐もできないくらい。
「僕は……無力なんだ」
僕は何より大切なあなたも護れないくらい無力なんだ。
「ごめんなさい」
彼は築いた陣の中で涙を落とした。
ごめんなさい、シエラ様。
「僕は災いなんです」
呼ぶんじゃない。
僕自身が災いなんだ。
僕は彼女の災いなんだ。
赤黒い光は彼の足元から城へと…………。
「シエラ様……もう苦しまないで」
天を裂く光輝く巨大な刃。
「僕はあなたを愛していました」
そして、それが燃える城も何もかもを貫いた。