感じる意味。謝る理由。(2.5)
陽季が目を覚ますと、蛍光灯の光が目に入った。隣には洸祈。
「洸祈……一緒だよ」
寝ている間握っていたその手を胸に抱いて、もう片手で髪を鋤いてやる。吐息を漏らす洸祈を愛しそうに。
優しく優しく。
「今何時だろ……」
「午後7時や」
そう……この大阪弁は……―
「何で?」
「俺の部屋やからや」
ジーンズにパーカーとラフな格好で雑誌を捲るは由宇麻だ。彼は壁に凭れて床に座っていた。
「司野さん、居ればそこは自分の部屋と言えるなんて大間違いだ」
「ここは俺のじっちゃんの家や。そんで、じっちゃんがくれた俺の部屋。ま、年に精々2日ぐらいしか使えんかったけどな」
彼は懐かしそうに床を撫でる。
「何で俺達ここいるんだろ?」
「それは俺の台詞。赤毛の兄ちゃんが二人を運んだらしいんや。俺はその場にいなかったけど。その兄ちゃんが俺の知り合い言うたから渡瀬さんが二人を俺の部屋に運んだらしいんや」
「千歳さんだ。そっか……」
一人で納得する陽季に由宇麻は雑誌を旅行用鞄に放り入れると椅子に座る。そして、回転式のそれを陽季に向けるとむすっと頬を膨らました。
「そっかやないで。一体どないしたんや。今朝は千里君、次は崇弥に陽季君かいな。おちおち帰省もできんやないか。今回は二人からやってきたけど」
聞かせろと迫る由宇麻を見る陽季は瞳を徐々に虚ろにし、洸祈を見下ろす。
「陽季君?」
「言えないよ。洸祈……やっと落ち着いたんだ。訊かないであげてよ……お願い」
今日のことは言いたくないし、思い出したくない。
言わせたくないし、思い出させたくない。
「それで渡瀬さんを納得させられるわけあらへんけど、分かったわ。訊かへん」
眼鏡の奥から陽季をじっと見詰めた由宇麻は携帯を弄り、机に肘を立てて頬杖を突いた。陽季は洸祈をよしよしと撫でると由宇麻のものだと知った毛布を首までかけてあげる。
そして……―
『由宇麻ぁ、飯やで。客人も起こして下にきい』
「渡瀬さんや」
「今行くで」と下に向けて声を張り上げる由宇麻。
「崇弥起こして飯や」
「ありがと……」
訊かないでくれて。
「ええんや。ほら、崇弥ははよ起きな!!」
ぺしっ。
容赦ない平手打ち。
「うっ…あぁ……司野だ。長旅からおかえり……」
にこやかな洸祈は勘違いしていたが、陽季も由宇麻も気にせずに下へ促した。