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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
父さん
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沈黙(2)

ばんっ


「僕のー!!!!」

開いた小さな手がチョコの包みを握りしめた。

「何だよ!俺が勝ったんだから俺のだよ!」

その手をもう一つの手が抉じ開けようとする。

「ずるいよ!何ででっかいのばっか」

「勝負だろ!?」

因みに待ったなしのじゃんけん勝負だ。

「やだぁ、意地悪ー…うっ…ひっく…うぅ…うああーん!!!!うぁあー!!!!!!」

泣いた。

喚いた。

垂らした髪が舞う。

「あらまぁ。(あおい)君、一つぐらい千里(せんり)君に先に選ばしたら?こんなにあるんだし」

と、麦茶の入ったコップを運んできた真奈(まな)は涙の溢れる千里の目許をはんかちで拭いてあげる。

「何さ!千里が勝負しよって言ってきたんだぞ!!勝って沢山おっきいの取ってやるって!」

「それは…」

真奈はその穏和な表情に曇りを見せる。千里が言い出したのなら今の千里は自業自得だ。

「ふぁあ。あーよく寝た」

「洸ー、あおが苛めるよぉ!」

千里は真奈から離れると部屋に入ってきた寝惚け眼の洸祈(こうき)の服に顔を擦り付ける。

「あーもう。涙で汚すなよ」

洸祈は一応千里の頭を撫でて部屋を見渡す。真奈は肩を竦め、葵は不良のような目付きで洸祈を睨んでいた。

「真奈さん…何ですか?」

これ。と千里を指差すと真奈は見たままを話し始めた。


「あお、意地悪だよ!いーじゃん!……大人気(おとなげ)ないよ」

「お前が一番大人気ないから」

ぺしっと千里の頭をはたくと彼はまた泣き出す。

「こーの馬鹿ぁ!僕は子供だもん!!!!」

まぁ、千里の気持ちは分からないでもない。

まだチョコの包みが大量に残っているというのに千里と葵のチョコの量には2倍以上の差がある。

「葵…」

双子の弟に退いてもらおうと…

「何?」

睨まれた。

「真奈さん…」

洸祈は真奈に助けを求める。彼女はエプロンのポケットを探ると青い包みを取り出した。

「千里君、この飴あげるから。ね?いいで―」

「真奈さん!!」

「良くない!!!!」

前者は洸祈。

後者は葵。

「そういうの葵は…」

と洸祈が付け足すのと同時に葵はバンと机に手を突いて荒々しく立ち上がる。それに千里はびくっと震えて洸祈に身を寄せた。

「あ…葵…」

蒼い瞳に何とも言えない意志を秘めた葵は震えて目を瞑る千里を見下ろした。

そして…

「何だよ!千里は我が儘なんだよ!!!!うちの子じゃないくせに!そんなに食いたきゃ……(さくら)の家に帰れよ!!俺ん家で何で…ここの子のように振る舞うんだよ!図々しいんだよ!!!!」

「う…あ…うぅ……」

「葵!言い過ぎだ!!」

だが、葵の憤りは収まらない。

今度こそ悲しみに涙を流す千里を葵は悔しそうな泣きそうな顔して見た。

「そうやって泣いて喚いて!!!!俺は……」

千里は洸祈にしがみついて泣く。喉を鳴らして息を詰まらせた葵は真奈と洸祈を交互に見た。

どうしてさ。と言葉を呑み込んで…

葵は自分が獲得したチョコを抱えるとそれらを踞る千里の背中に全て落とした。

「葵!」

洸祈は千里を守るように抱く。その行動一つにも怒りを感じた葵は…




「千里の馬鹿野郎!!!!!!」



部屋を勢いよく飛び出した。






「あおが…あおが…」

「ちぃ、落ち着けって」

千里の馬鹿野郎と怒鳴られて30分。千里は泣き面で葵を呼び続けていた。

「あおが―」

「ちぃ!」

ひっく。

長い睫毛の下から濡れた翡翠の瞳が洸祈を見上げる。それだけだったら絵になるのに鼻水が台無しにしていた。

洸祈はティッシュ箱に手を伸ばすと、涙を拭いて鼻水を拭った。

「あおあお言ったってどうしようもないだろ?」

「だってぇ」

「あーもう。泣くなよ」

「あおーあおーあおがぁ」

またも泣き出す。

溜め息を吐いた洸祈は服で涙を拭いてくる千里を諦めて背中を軽く叩いた。

と、

「千里、男の子なら自分の正しさを信じるか間違いを謝るかのどちらかだ」

晴滋(せいじ)さん」

いつの間にか着物姿で現れた晴滋は洸祈の横に胡座をかいた。

「ひっく…僕は…」

千里が掠れた声で洸祈にしがみつく。

「お前は正しいのか?正しくないのか?」

晴滋の大きな手が千里の頭を優しく撫でた。

「僕は…あおの言う通り…だよ……僕は…自業自得…」

くしゃりと顔を歪ませて長い髪を揺らす。

千里の泣く姿は美しい。

その腰まで伸ばした金髪を纏って小さな顔を隠す。細い手足が女性特有の守ってあげたい。と思わせる。

男なのにな…

「お前はどうしたい?」

晴滋は尋ねる。

「あおに…謝る」

千里は俯き言い切った。

晴滋さんは凄い。

洸祈は素直にそう思う。

葵の言う通り千里は我が儘だ。我が儘であり何処か自分勝手。

だから自ら謝罪の行動にでることはしない。誰かが引き出してやらないと行動出来ないのだ。

「でも…どーしよ…あお…きっと僕のこと見てくれない…」

葵は自らの知識から正否を理解し行動する。正しければそれ相応の態度を求め、間違いならばそれ相応の態度を取る。

今回は千里の理不尽さに腹が立って自らの間違いを謝るという態度を取れなかった。謝れば千里の行為を正しいと認めることのように感じたのだろう。

「ちぃに謝罪の気持ちがあれば葵は見てくれるさ」

誠意でぶつかれば葵はきっと見てくれる。先ず千里が謝らなければ始まらない。

「僕、あお捜して謝ってくる」

言うが早いが千里は洸祈の服で綺麗に顔を拭くと立ち上がった。

「千里君」

そこを真奈が呼び止める。

「なぁに?」

「これ」

飴玉だ。

しかも2つ。

「葵君と半分こしなさい」

「うん!」

千里はそれらを握り締めるとバタバタと玄関に走って行った。






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