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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
感じる意味。謝る理由。 【R15】
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感じる意味。謝る理由。(2)

何でかなぁ…。


何で俺が先に起きちゃうんだろう?いっそのこと、あとだったらどうにかなったのに。

考えなきゃ。

逃げる?

あーあ、(れん)に申し訳ないや。

でも……ここどこ?

俺、また何かに捲き込んだ?

机、本棚、ゴミ箱、カーペット、箪笥。それと、俺達が窮屈に寝かされていたシングルベッド。

誰かの勉強部屋?

ゴミ箱は空。机はうっすらと埃を被っている。随分使われてないようだ。いや、旅行鞄が隅に置かれている。

まるで里帰りのような。


…―うっ―…


起きた!?

どうしよう。起きちゃう。

逃げる?

逃げたい。

どうしよう。

どうしよう………―





「ここ……何処だ?」

カーテンの開いた窓からの斜光が目を刺激する。ただの部屋と言えばただの部屋で、二之宮(にのみや)の部屋のように常識を逸脱した大きさでもない。

カーペットに机に箪笥に本棚にゴミ箱。

そして、俺が寝ていたベッド。

多分、勉強部屋。誰か一人分の部屋。

「一体……っ…」

嗚呼、思い出した。

(せい)の全てを吹き込まれた。自分が言い出したことなのに、結局、酸欠で気絶したんだ。

聞きたくなかった。洸祈(こうき)の口からあれらを聞きたくなかった。

「俺の馬鹿!俺なんか死ねばいいんだ!!」

自分の犯した過ちも洸祈の苦痛も誰にも言いたくない。けれども、言わないと誰も俺を怒りはしない。もっと自分を貶せ。苦しみから解放されるには自分がもっと強い苦しみを自分に与えるしかないんだ。

でも今は……―

「ここ何処だよ……」

洸祈は何処?

「てか、別れたい言ったの俺じゃん」

何で探すんだ。

俺から別れたいって言ったくせに会いたいのか?

「謝りたい……のか?」

それって赦される?

それに自分は赦したの?

「あいつは最後までちゃんとは答えてくれなかった」


洸祈はいつも答えが曖昧だ。

それが俺には、

“言い訳ができるように”

なんて感じて。

「……変な男に捕まった女じゃあるまいし…………」

諦めていない馬鹿な俺。

餓鬼かよ。

好きなんだ。

愛してるんだ。

たとえ、もうあいつから言葉が返って来なくても言いたい。

最後の一回。

でもきっと、失敗したらまた最後の一回なんて考えて。

諦められないんだ。

「……おかしいだろ。少なからず俺も……洸祈に苦しめられた」

ホテルに呼び出した時の俺の気持ち分かるか?

俺は女以前に完全に初めてを体験しようとしてたんだ。男の洸祈と。

調べた時は吐き気がしたさ。だってキモいし。

でも、清が味わってきたものだから目を逸らしたくはなかった。洸祈を外に連れ出したのは俺。館が世界の全ての洸祈を外に連れ出したのは俺なんだ。

だから、無責任に放り出すことだけはしたくなかった。

それに、強烈な一目惚れだったから。

なのに洸祈は双灯(そうひ)と寝ていた。洸祈を好きな俺から逃げて女が好きな双灯と寝る。

『何で?』

そう思ったさ。

だけど、次の瞬間には洸祈は胸が痛いんだって洸祈の心配していた。

だって、洸祈は館で苦しんでいたから。

だから、洸祈の男関係は苦しいもの。

だから、洸祈が他の男の傍で寝るのは仕方がない。

だから、全て……―


仕方がない。


仕方がなくないことまで仕方がないとしていた。

違うか?

違わないから俺は二之宮の言葉を実行していた。

でもそれは、洸祈が好きだから。

洸祈に嫌われたくないから。

「好き……好きで堪らない。よりを戻したい俺がいる」

最低な俺。

こういうのを“依存”って言うんだ。

洸祈に依存してるのは、誰でもない俺。

俺は全部何もかも最低な男なんだ。

「あいつの泣き顔見たかったんじゃない。笑う顔見たかった。……好きだからあいつに見て欲しかった」

俺だけを見て欲しかった。

洸祈の心が欲しい。

洸祈の心を一時でも手に入れた奴らが羨ましい。

そんな奴らに嫉妬する。

俺には一体何が足りないんだ?

教えてよ……洸祈。

「なぁ……もう俺達戻れないのかな」

このまま……もう友達ですらない赤の他人に……。

洸祈は案外執念深いし、人見知りするし。

「こうなるなら言わなきゃ良かった。くそっ!!!!」

二之宮に図星突かれても、言わずにまた溜めていれば……。

「洸祈ぃ!!!!!叫ぶくらいいいだろ!!俺は泣いてない!泣くかよ!二十歳過ぎて泣くかよ!別れたからって泣くかよ!失恋しないでほいほい結婚なんて夢だよな!妄想だよ!」

過去は過去。過ちはぱっぱと「忘れましょう」で消えるものじゃない。

後悔してくよくよするくらいなら吐き出して少しはスッキリしよう。

「でも…今日は特別だぁ!!!!お前の代わりに泣くんだ!!泣き虫なお前の代わりに泣くんだ!!!!俺と別れて後悔に泣くお前の代わりに泣くんだ!!!!」

洸祈の泣いている姿をイメージする。俺はその幻想を強く抱き締めていた。

「畜生!胸のでかい姉ちゃん落として見せびらかしてやる!!手の小さな愛らしい子供作って“洸祈”って名付けてお父さんっ子のいい子に育ててやる!!いっぱいキスして抱き締めてやる!!!!幸せな家族になってやる!!!!」

洸祈が羨むくらいの幸せな家庭を築いてやる。

「馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿洸祈ぃ!!10秒!10秒だけでいいから俺に笑顔見せろよ!!ほんとの笑顔見せろよ!!見ないと諦められないだろ!!洸祈ぃ!!!!」


……洸祈……洸祈…洸祈…馬鹿洸祈。





「洸祈の馬鹿っ!!!!」




ごつっ。


「いっ…た………あ……」



……………………………。

「…………………誰?」

机の下になんかいる。

さっき声が聞こえた。

まてまて。

てか、絶対に聞いてたよな。俺の恥ずかしい秘密の過去になるはずの現在を聞いてたよな。

あれもこれも聞いてたよな!?

「あ…あ…あ…あぁぁぁあああわあああぁぁ!!!!」

なんて奴だ!!

「今すぐ出てきやがれ悪魔の盗聴魔あぁ!!」

俺は引っこ抜いた。

そして、勢いを殺せずに倒れた。



「った」

頭が痛い。引っこ抜いた反動で壁に頭をぶつけた。




それよりもあれ?

俺、組み臥せられてる?

う~ん、逆光で見えない……。

案外でかいくないか?

これで机の中にいたとか体柔らかすぎない!?

「あ……もしかして聞こえてなかった?」

なら怒らないよ?

聞いてないなら怒ってないし。

ニートさんの邪魔はしないよ?

流血沙汰は駄目だよ?

俺、非力だからさ。

あと、通報は待ってね?

胸のでかい姉ちゃん落とすのに支障がでるかもしれないからさ。

ね?

「黙らないと舌噛み切るよ」

てか……この声は…―

「こ…ここ…こ……―」


洸祈だ。


深い口付けだった。身体中に電気が走ったかのようにぞくりと俺の背中が震える。

「んっ…あっ……」

離してはくっつき、その度に鳴るキスの音。

キモい自分の喘ぎ声が狭い室内で異様なほど響いていた。

うわ……俺、恥ずかしいだろ。

服は擦れ合い、俺の視界は冷えた手のひらで隠される。そして、彼のもう片手は俺の両手首を押さえていた。

陽季(はるき)、俺達って別れた?夫婦倦怠期じゃなくて別れた?」

え?

夫婦倦怠期……。

「俺と洸祈って夫婦なの?」

「乳のでかい女が好み?胸薄いとやだ?乳ないとやだ?」

いや…そんな……。

「別に……」

「陽季……ごめんとありがとう」

洸祈が謝ってきた。あと、感謝してきた。

「俺、努力する」

「努力?」

「俺、多分、馬鹿」

「うん」

と、頷いたら洸祈に頭突きを食らった。言い出したのそっちのくせに。

「馬鹿なりに考えて、俺の努力を考えた」

“努力”に何か深い意味があるらしい。


「俺、なるべく陽季以外とは寝ない」


そうか偉い偉い…………なわけあるか!

「『なるべく』って俺のことナメてるわけ?」

夫婦って言ったくせにいい度胸だろ。俺じゃなきゃDV行きだ。

「はっきり言って、俺、自分の慰め方知らない」

なにこの子。

問題発言をさらりとするな!

「それにしないとイケないし……」

ヤバイだろ!

「感じやすいけど、自分じゃどうも……ね」

照れた風に言うな!

馬鹿だ。

洸祈は馬鹿だ……。

「陽季、俺は陽季と幸せになりたい」

「それは俺の台詞だ」

俺だって洸祈と幸せになりたい。

「だから、俺が他人と寝て陽季が怒るなら、俺、なるべく寝ないようにするから、俺の傍にいて。俺、陽季とずっといたい。ずっとってのは一分一秒も離れたくないってこと」

洸祈に隠された視界の向こうで、今、洸祈はどんな顔をしているのだろう。

「陽季は人気者で仕事が忙しいの知ってる。だけど、一緒にいたいんだ。陽季が困るから言わなかった。自分自身、陽季は舞が好きで沢山の人が陽季達の舞を待ってるって。だからしょうがないって。だからって俺は陽季に舞をやめろなんて言わない。俺も月華鈴の皆の……陽季の舞が好きだから」

俺達は恋愛と仕事は区別を付けて付き合っていた。

上辺だけは……―。

「もっと会いに来てよ。それが無理なら場所教えてよ。いっつも“あそこらへん”とか“ここらへん”とかじゃん。俺の為に時間作ってよ。ほんとは1日置きにでも会いたかった。でも俺も仕事あるし。陽季にも仕事あるし。俺…………我が儘だ……」

我が儘とは言わないさ。

「洸祈ぃ」

「?」

「やっぱ、結婚して」

すると、手首を掴んでいた手が離れた。早く触れたかった俺は洸祈の頬を探して手をさ迷わせ、再び洸祈が俺の手を掴んだかと思うと、多分、洸祈は俺の手を襟から自分の服に突っ込んだ。……多分。

なんせ、まだ俺の視界を隠す洸祈の片手がある。

よく分からないが、何故か洸祈は俺の手を洸祈の服に突っ込んだわけで、一応、指を動かす。

「……んっ」

洸祈の甘ったるい吐息は、俺が洸祈の胸に触れたからだ。てか、一体マジで洸祈は何がしたいの?

抜こうとしても洸祈の手が許さないし。


いや?何か触れたぞ?


洸祈のしていたネックレスの鎖に触れたようだ。俺はそれを手繰り寄せ、それに辿り着いた。

「洸祈……これ…………」

捨てたって言ってなかったか?

「どうして……」


「陽季から貰った指輪を捨てられるわけないだろ!」

洸祈は怒った。


「捨てられるわけ……ないじゃんか…………馬鹿」

これは爆弾だ。

「ちょー可愛いんだけど」

可愛すぎる。

でも見えない……。

「ねぇ、洸祈。手、外してよ。見えない」

「陽季は……」

「?」

「俺のほんとの笑顔が見たいんでしょ?」

意味が良く分からない。

今は嘘の笑顔だと?

「陽季は俺の泣き顔は見たくないんでしょ?」

「そりゃあまぁ……………って泣いてんの?」

ぽたっ。

頬に雫の感触。

「っう……ぁぅ…うっ………」

え?何?

はい?

「お、おい!洸祈!!」

俺を押さえる洸祈の力が弱くなったので、これ幸いに振り払う。

「こ…き……」

なんて顔して……。

「陽季……少しでいいから俺に時間を頂戴。俺、結婚したい…………でも……本当に……もう時間がないんだ」

また……洸祈は…………―

「何で……」

そうなんだよ。

「ただ時間がない。それだけだ。陽季……ごめん。もう泣かない。俺は泣き虫じゃないよ」

「隠すな!」

隠してるだろ?

何を隠してる?

「訊かないで。お願い」

キスは柔らかい。

このお願いは彼の一生のお願いのようで……―

抱き締めるだけで胸に秘める。

「俺を独りにはしないよな?」

それでも訊かずにはいられなくて俺は……―

「―……うん」

不自然に開けられた間を感じない振りをしてその笑顔をそっと受け止めた。

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