一般論(6.5)
俺達、別れよ。
“別れる”って言うのはこの場合、交際――付き合っていたことに対して、その終了をはっきりさせることだ。
そうすると、俺達は交際していたことになる。
それは、抱き締めあって、キスして、交わること?
違うよね?
俺は交際って心と心で触れ合って、甘く痺れることだと思ってた。
だってそうじゃなきゃ、戯れのキスと曖昧な性交を交際と呼んでしまうことになる。形のない虚ろな自分をモノにしてきたあの虫酸の走る過去を認めてしまうことになる。
それは厭だ。
俺は過去に“愛”があったなんて認めない。“愛し”“愛され”なんてなかったんだ。
だって、過去を俺の罪にし、自らを傷付けることで俺は俺を正当化しているのだから。
認めたら今の愛情行為はただの遊びになる。
だから、交際は感情的なものなんだ。キスすれば酔えるとか、セックスすれば気持ちいとかじゃない。見えず、予想不可能なものなんだ。
誰かを好きになって、ちょっとしたことで喧嘩して、離ればなれになって。でも、結局は仲直りする。
だから、“別れる”はその途中にあるイベントで…………少し胸が痛くなるだけのはずだった。
「はる……き」
「別れよ」
「なんで……」
何で別れるの?
「俺、駄目だ」
“駄目”ってどんな風に?
「だから別れよ」
何それ。分からない。
俺のことを痛いくらい抱き締めているのに、別れたいって言う。全然理由になってないし。
「俺が……寝たから?」
さっき陽季が蹴り飛ばして外に捨てた優しかった神崎さんと寝たから?
陽季じゃない人とキスしたから?
陽季じゃない人とセックスしたから?
陽季じゃない人と……―
「うん……。それを俺は赦せないから…………だから駄目だ」
つまり……陽季は俺の体と付き合っていた?
そうなんだ。
「―――」
「?」
だから陽季は……―
「コイン、返してよ」
「…洸祈……っ」
陽季の歪んだ顔はそれだけで俺に教えてくれた。
俺はコインを持ってるよ。
ああ……陽季の嘘吐き。
最初から俺の体が目的だったんだ。俺のお客様みたいに。
そして、俺が他人と寝るから陽季はコインを作ったんだ。俺を縛るために。
結婚も俺をより強く縛るため。
嘘。
陽季は嘘ばかり。
嘘吐き。
嘘吐き嘘吐き嘘吐き!
俺が神崎さんに黒魔法使ってコインの限界を知ったから、別れたいって言うんだろ!
「陽季の嘘吐き!!!!」