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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
感じる意味。謝る理由。 【R15】
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一般論(5)

董子(とうこ)ちゃん、僕はまだ死にたくないなぁ」

「私だって死にたくありませんよぉ」

「だったらもう少し遅くしてくれないかい?」

「だって私F1レーサ…―」

「ごめんごめん。次からはちゃんと董子ちゃんに言ってから君を寝かし付けて見るから」

「結局、私は夜更かし駄目で(れん)様は夜更かしありじゃないですか!」

遊杏(ゆあん)も夜更かし駄目なんだからいいだろう?」

「遊杏様はまだ14歳です!私は20!いいですか?20!二十歳です!大人です!」

「二十歳ねぇ。あ、そっか。女は二十歳から老けてくるんだったね。しょうがないから10時までの夜更かしなら認めよう」

「酷い!蓮様の人でなし!」

「はいはい。そこ右」





『揺れるゆりかご』





「…………う?」

「熱あるからお薬飲んで?」

白い錠剤。テーブルに風邪薬と書かれた箱があるから問題ないだろう。

「んっ」

舌に乗った薬は少しずつ溶けていく。すると男は水差しを差し出してきた。

「ゆっくりお飲み」

ぬるい水が喉を優しく潤す。

「飲めた?」

こくり。

「ごめんよ。ちょっと無理させちゃったね。今は休憩」

温かい手のひら。

自然と笑みが溢れてくる。

優しくされるのは好きだ。

「ありがとう」

「可愛い。どういたしまして」

キス。

「…移っちゃう…」

「いいよ」

ぎゅっと抱き締められる。柔らかいけど硬い肌の感触。

触れ合っていると自覚する。

「もっと…抱き締めて」

「おや、お誘いかい?いいよ」

もっと人を感じたい。


『洸くん?』

氷羽(ひわ)の肌気持ちいね。もっとくっ付こうよ』

『ぼくの肌ねぇ……。洸くんって、赤ちゃんみたいに母親に抱き締められるの好きなんだ?』

『お母さんは俺と(あおい)を産んで死んじゃった』

『そっか。だから寧ろ、誰かと触れ合いたいのかもね』

『氷羽、もっともっとくっ付きたい』

『何それ、愛し合いたいの?』

『なら、愛し合いたい』


「っ…あ…」

「どうしたんだい!?」

何で…。

何で……!?

「胸が…くる…しっ…」

何で…今更……―

「例の発作かい?」

そうだこの人は俺の症状を知っているんだ。俺の常連さんだから、こういう時、優しく抱き締めてくれた。

「よーし。よしよし」

子供騙しみたいなものなのに発作はゆっくりと収まった。

「は……っ…はぁ……」

「大丈夫?」

「………うん…」

「君はよく発作を起こしてたよね。その時、背中をゆっくり撫でて声を掛けると収まった」

よしよし。大丈夫。私がついてるよ。

母親が子をあやすように……。

しかし、その手は熱を生み出そうと動き出す。またゆっくりゆっくり。

「あ……や…」

「あと1回。そしたら長旅だから好きなだけ寝てていいから」

……………………長旅?

「どうやら…こちらの居場所がバレたようだからね。二人で遠くに行こう?」

誰にバレたの?

「過保護なだけで何もできない馬鹿さ」

「んっあ…っ」





「まずい!僕としたことが!!」

ノートパソコンを広げた二之宮(にのみや)は声を張り上げた。

「どうなさいました?」

董子はハンドルを切りながら二之宮に訊ねる。

「バレた!!董子ちゃん早く!!」

「蓮様、不覚にもですか!!!?」

「あぁ!不覚にもだ!!!!!!」

「ラジャーです!この榊原(さかきばら)董子、蓮様のご要望とあらば!!!!」

アクセルを彼女は強く踏み込んだ。




「はっはっはっはっ…」

陽季は歩道を突っ走っていた。

洸祈、言いたいことがあるんだ。

それは今すぐ言いたいことなんだ。

『―…き…る…はる…陽季!!』

誰だ?

と、

「うわっ!!!!?」

目の前をでかい漆黒の蝶がひらひらと飛んでいる。冬にかなり不自然なそれ。

『聞いて!』

この声……。

「二之宮!?」

『二之宮蓮だ。質問は後で受けるから何も喋らず聞いてくれ』

何だ?

『僕が居場所を検索したことが相手にバレた』

!!!?

『現在、大塚をかなりのスピードで港に向けて移動してる。目指すは多分…風切空港だ』

はぁ!!!!?

陽季は急停止すると近くの駅に向けて方向を変える。

『16分後に君が今向かってる駅から空港行きの快速が3番線から出る。なんの切符でもいいから買って入って。それに乗れば、崇弥達が乗るであろう飛行機の中で一番早い、鹿児島行きにぎりぎり間に合う!』

あと16分。

死に物狂いで走るしかない。




もう放さないと誓うから…。






俺を選んで…―。

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