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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
父さん
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沈黙

洸祈(こうき)ぃ」

そう言って琉雨(るう)と寝ていた布団に入り込んできたのは何故かぐずっている(あおい)だった。

「んぁあ?…葵?琉雨が寝てんだから静かにしろよ」

「ひっく…」

背中から響く微かな喉の音。

洸祈は琉雨の髪を弄っていた手を休めて葵に向き直る。葵は頬を上気させて洸祈の胸に顔を埋めた。

「おいおい…どうしたんだよ」

洸祈は背中をぽんぽんと叩いてやって気付く。

葵は薄布を纏っている。これは葵のベッドの薄い青色のシーツだ。

「お前…」

多分、この下は裸。

「………風呂準備しようか?」

こくり。

葵は頷いた。



風呂を準備している間も葵はぴたっと洸祈について回る。洸祈はそれを黙認して湯が溜まるまでの間に葵の為に薄めのココアを淹れる。

「ほら、飲めよ」

「……う…ん」

椅子の上で体育座りをして体を縮めた葵は喉をならしてココアを一気に飲み干した。

その時、シーツから微かに赤い痕が覗く。

コップを台所に返し様に葵の髪をくしゃりと掻き回すと、やがて風呂の準備完了の音が鳴る。

「入ってろよ。服とってきてやるから」

伸ばした手を引いて脱衣場に連れていった。しかし、葵はその場に踞って動かない。

「葵、風呂入って体休めろよ」

「……………」

「大丈夫。鍵掛けてるから誰も入ってこれない」

そこで安心したのか葵はよろけながら立ち上がり、シーツを落とした。

「!!!!」

露になる沢山の赤い傷痕。動揺を必死に隠して洸祈は無言でその後ろ姿を見詰める。

「…何にも……言わないの?」

くるりと顔だけ向きを替える。

「何を言えばいい?」

洸祈が逆に訊くと固まった表情を無理矢理崩して笑った。

「洸祈…ありがとう」

泣きそうな笑顔で…。




葵が鍵を掛けたのを確認すると葵の部屋へと階段を上がった。洸祈の視界の向こうで蠢く影。洸祈はその影が自らの部屋に入ったのを見て薄く開いたドアの前に立った。

「よ、ちぃ。何か探し物か?」

千里(せんり)は洸祈の姿を確認して出口が塞がれたことに気付く。

「探し物…だよ」

ジーンズに羽織っただけのワイシャツ。極め細やかな白い肌が見え隠れする。千里は両腕を広げて苦笑した。

「ふ~ん。俺の部屋で誰捜してんだ?」

誰?と…。

「解ってるくせに」

解ってる。

「捜してどうする?」

「謝る」

俯き、悲しそうな千里。

だからこそ洸祈はこう答える。

「俺と一緒に明日、朝一で店に帰るぞ」

強制。

「……っ…僕は…」

「ちぃに謝罪の気持ちがあるのは伝える。だけど、当分は会わせない。アイツが自らの意志で帰って来るまでな」

「……僕は…がむしゃらにあおを…求めちゃった…あおが怖いって言ったのを無視して……あおに会いたいよ…」

「ちぃ…」

気丈な千里が床にぺたんと尻をつけて涙を落とす。月明かりの差さない部屋で彼は後悔をする。

そう、後から悔いた。

千里は葵が好きだと自覚している。

だからこそ、洸祈は千里を赦す。

俺に誰かを赦す資格はないかもしれないけど…

「ちぃ、来いよ」

動かない。

洸祈は息を吐くと千里の傍らに座ってその頭を…

ごつっ

上から殴った。

何も言わずに千里は洸祈をただただ見る。

「来いって言ってんだよ!葵に謝りたいんだろ!!葵に会いたいんだろ!!」

「………会って…謝りたい…」

「分かった」と、洸祈は千里の涙で濡れた頬を指で拭い、ワイシャツの釦を留めた。そして、腰の抜けたらしい千里をおぶってやる。

「昔とおんなじだな」

「………?」

「お前と葵がお菓子の取り合いで喧嘩して、葵が家を飛び出して、そしたらお前が泣き出して『あおが僕のこと嫌いになっちゃったよぉ。どーしよー』って」



泣いて喚いて…―



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