痛み分け(9)
陽季が促すから、柵から身を乗り出した時だった。
「ん……眩しっ…」
一斉にライトアップされた舞台。
「洸祈、俺達からの誕生日プレゼント」
微かに流れてくる静かな音楽。
陽季に促されて、洸祈は舞台を見下ろした。
「みん…な?」
懐かしい月華鈴の面々が勢揃いしている。
「洸祈、二十歳の誕生日おめでとう。ちょっと遅れちゃったけど勘弁ね」
「双蘭さん……」
「こっち来なよ」
双灯がにっと笑い、陽季は彼と目線を合わせると、洸祈の腕を引く。
「ゆっくり下に行って。俺はお衣装替えだ」
まだぼーっとしてる頭で洸祈は曖昧に頷き、ゆっくりと階段を降りた。
俺のため?
俺への誕生日プレゼント?
一旦ロビーまで行き、呼吸を整えて扉を開けようとして、内側から開いた。
「陽季……」
「ようこそ、我ら月華鈴の舞台へ」
扉の外にいた陽季はいつもの雪の着物を着て立っていた。彼は洸祈の手を取って前席に導く。
「……どう…なって」
「サプライズ」
本当にサプライズだ。
「洸祈、誕生日おめでとう」
菊菜が振り袖の菊を咲かせた着物姿で高い下駄を履き、飾り棒を持って笑顔を見せた。そして、他のメンバーも洸祈にお祝いの言葉を述べる。
たった数ヶ月だけれど、洸祈の身も心も強くしてくれた仲間がそこにいた。
どうにもならない涙腺から溢れるそれを拭おうとして、陽季が手を掴んだ。
「はる…っ」
温かい陽季の指が滴を拭い、洸祈を舞台に背を向けて抱き締める。
胸が一杯に広がる陽季の匂い。
「洸祈、二十歳の誕生日、本当におめでとう」
「……ありがとう」
抱擁の影で洸祈は陽季に口付けをした。
まあ多分、全員にバレているだろうが…―
「真広、斎、ほら」
ひょっこり。
双蘭の背中から顔を出した少女と少年。
「お誕生日おめでとうございます、洸祈さん」
「おめでとうございます、洸祈さん」
ぺこりと頭を下げて洸祈に花束を渡す姿は可愛い。
「ありがとう、真広ちゃん、斎君」
こんな朝早くに俺の為にいる。
最高だ。
「これが洸祈へのプレゼントだ。受け取ってくれよ」
蝶のように裾を翻した陽季は舞台に飛び乗った。
汀の双蘭。
時雨の双灯。
小雪の菊菜。
神楽の弥生。
如月の胡鳥。
乙姫の真広。
雛菊の斎。
そして…―
「…………夕霧…」
「以後お見知り置きを」
気品の溢れるお辞儀。
優雅な姿に洸祈は見惚れる。