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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
感じる意味。謝る理由。 【R15】
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痛み分け(5)

さて、何故だかこうなった。




…はっ…はっ…はっ…はっ……―

「っ…2…回目…だ…っ……」

ぐったりとした洸祈(こうき)。額から汗が垂れる。

「あと3回後に変更」

しかし、そんな彼を見下ろす陽季(はるき)の目は爛々と輝いていた。



大好きな子が無防備に口開けて寝ている。

襲わないでどうする!

が、陽季の主張だ。

「ふざっぁあ…けんっな……っ」

洸祈の言葉は弱々しく、反論にならない。握った拳は陽季の胸を力なく触れるだけだった。

「正直気持ちいでしょ?」

「ヤダ!キモい!変態!ドS!!」

表情の固まる陽季。

口元がひくひくとしている

「洸祈のドM!…………あ」

“ドM”は意識的だったが、口で奉仕中だった陽季はつい洸祈の弱い場所に歯を立ててしまった。

流石にそこはヤバい。

「っう!!!!!!?」

表情の固まる洸祈。

「こ、洸祈、ごめん。痛くない痛くない。痛いの痛いの飛んでけー……洸祈?」

「っ…………陽季の……」


ぷるぷると震え……―


「馬鹿野郎ぉおお!!!!!!!!」


べちんっ!!!!!!






「洸祈…ごめん…」

キモい変態のドSで馬鹿野郎の称号を持つ陽季は、本来は二階席のカーテンを縛るための紐で縛られていた。

「ふんっ」

ぷくっと頬を膨らませた洸祈はコートを頭まで被り、陽季から奪ったジャンパーを抱えて陽季の視界から消える。

「洸祈、寒いよ……うう…」

「煩い。眠るんだから騒ぐな」

「こーきぃ…ねぇ…」

脱いだ靴を床に捨てて椅子の上で丸くなる彼に懇願するが、

「……………」

とうとう完全に無視された。




陽季は寒がりだ。

ふと気を抜くと背筋に悪寒が走る。ただ、今夜は好きな人の吐息に耳を傾けていた。

そして、眠っていた。


「陽季、震えてる。風邪引いちゃうよ」

……母さん?

「お母さん?嗚呼、夢か。そうだよ、陽季。お母さんだよ」

会いたかったよ。

「うん。陽季はお母さんとお父さんが大好きだからね」

俺、頑張って逃げた。鬼ごっこは俺の勝ちだ。

「そうなの?良かったね」

でも俺、鬼さんが心配で戻ったんだ。逃げたけど、二人が大好きだから戻ったんだよ。足痛かった。喉渇いてた。

「陽季?駄目だよ。悪い夢は見ちゃいけない」

何で鬼さんは炎の中にいるの?

「駄目だ。駄目だよ!」

何でパパやママは炎の中にいるの?

「陽季!」

俺はゲームに勝ったよ。

死のゲームに勝ったよ。

だから、鬼の父さんと母さんは負けちゃった。

俺を置いてきぼりにして死んじゃった。

俺が勝ったから。

俺のせいでパパもママも死んじゃった。


何もかも全部俺のせいなんだ。


「陽季!!!!!」

べちん。

陽季は激痛の走った頬を手で押さえて目を開けた。

「痛いんだけど……」

「煩い!お前が悪いんだ!」

「突然何を……」

陽季の体が強い力で歪んだ。背中に回る腕が痛いくらい圧迫してきて陽季を抱き締める。

「こ……き?」

唇を噛んだ洸祈はきっと陽季を睨んだ。

「何で俺といながら悪夢見んだよ!」

「何でって……ああ…あれか」

陽季は小指で頬を掻くと、不自然な体勢で寝ていて凝った首を回す。そして、抱き付く洸祈を洸祈がほどいたのであろう紐から抜け出て椅子に座らせた。陽季はその隣に座る。

「あれ…?」

「俺の両親さ、俺の目の前で死んだんだ」

「陽季…っ」

洸祈は言葉に詰まって俯いた。

「時々見るんだ。事故の時の夢を。だけど、悪夢じゃないよ」

「陽季…全部自分のせいだって」

益々小さくなる洸祈。陽季はその肩を抱く。

「あの時の俺はそう感じてた。目の前だったから。でもな、あの時、母さんと父さんに駄々捏ねて強引に残ってたら俺も死んでた。母さんも父さんも俺を愛してくれてたから、あの時は逃げて正解だったんだ。つまり、夢の中の俺だけが後悔しているってこと」

「辛くない?」

視線を泳がせる洸祈の方が辛そうだった。陽季は洸祈の頭を自らの腕に埋めて額を項に乗せる。洸祈は身動ぎし、陽季は放さずに目を閉じていた。

「俺、月1でカウンセリング行ってるだろ?催眠療法とか色々試したけど、事故の夢は消えなかった。多分きっと、あの夢はもう俺の一部なんだ。あれがあって今の俺がいる」

「はる……んっ」

顔を上げた洸祈の唇を奪う陽季。

「両親の愛情も事故も夢も月華鈴も…………お前も、その全てがあって今の俺がいる」

緋色の瞳が明るみを帯びた漆黒の瞳を見詰める。そして、目蓋を閉じた洸祈は力を抜いて陽季の愛情を求めた。

「ちょっと陽季に近付けた気分だ」

「なら、もうちょっと近付く?」

「?……セックスは今はヤダ。まだ痛いし」

「あれはホントにごめん」

ぺこりと頭を下げる陽季は苦笑いをする。それが楽しかったのか洸祈が笑いを溢した。

「じゃなくて、ここからが本題」

「本題?」

「うん」

息を整える陽季。彼は椅子から立ち、洸祈の前でしゃがむと、洸祈の指先にキスをする。

「陽季……何?」





「俺と結婚してください」

「え?」


陽季は洸祈の指に緋色の石がアクセントの指輪をはめた。

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