痛み分け(2)
「ふぁっ」
千里はその場で伸びをした。しかし、ベッドだと思えばソファーでバランスが取れずに床に転がる。
ぶつかると思いきや…―
「ぐっ!!!!」
洸祈が下敷きになっていた。
「あれ?」
「…ちぃ…起きたのか」
ぽふっと洸祈に乗っかった千里は体を起こす。
「今何時?」
彼が跳ねる髪を撫で付けて訊ねると、洸祈は大欠伸して薄目を開けた。
「…1…時……ふあぁ」
「1時…あおは?」
「そっち」
眠そうな洸祈は千里が寝ていたソファーと反対のソファーを指差す。そこには千里の愛しの眠り姫。
「ごはん……肉じゃがあるけど」
「後で」
と、千里は葵のワイシャツの釦を外していた。
「お、おい!!ちぃ!!!!」
薄暗いリビングでさらけ出された葵の上半身が白く光る。
「寝てる奴になんて強姦だ」
「洸、守る側の人間は独占欲が強いんだよ。陽季さんだってそうさ。洸が襲われたらただじゃ済まさないね」
寒さにピクリと波打つ葵の腹。
「ドクン…ドクン…ドクン…この速さだよ」
などとぶつくさ言って、洸祈の目の前で千里は葵の胸に舌を這わせた。
「んっ…」
「ちぃ!ここではやんな。琉雨や呉に聞こえる!」
「聞こえていいよ。僕は葵を愛しているから」
ワケわからん愛だ。
まるで大好物と言わんばかりにそこを微弱に刺激して舐める。洸祈はうっと顔をしかめた。
はっきり言って、これは…―
「あ…んぅ…」
「お姫様、お目覚めのお時間」
―…超エロい。
そして、葵はというと……。
「金…柑…だ…め…そんな…に…舐め…たって…お乳は…でない…って…言って…るだろ…」
……………………………………。
「変態狼め」
洸祈はぎろりと金柑を睨み付けた。当の金柑はおねむだ。
「ちぃ、部屋行けよ」
流石に千里の言い分が分からなくもない洸祈は、それでも、“リビングでことを起こすな”の原則は守ろうとする。
「洸…無理…」
しかし、息の荒い彼は舐めるという行為から咬むという行為に変え、当然、葵が飛び起きた。
「いっ!!!!?」
キョロキョロと辺りを見舞わすとはだけたシャツを見て千里からずりっと後退りする。
「おはっ、親友」
千里の笑み。含みのあるそれに怯えを見せ、そして、そんな二人を見詰める洸祈を見付けて赤面した。
見た?と目が訴えている。
それはもう見ましたとも。
「……言った?」
そうくると思ったよ。言ってしまいましたとも。
「脅迫された」
言わないと殺されそうで…………ごめん、弟。
「強姦でしょ?」
ドサッと葵を押し倒した千里はシャツを脱がせきった。そして、赤く色付いたそれを軽く弾く。
「あっ…」
反射的に体を隠そうとする葵。
「葵」
それを阻止して両腕を脇に固定した。
「……千里」
「正直に答えて。嘘ついたら容赦しないから」
正面から葵を見詰める。そう言ったからには嘘は通用しない。
こくっと葵は息を呑んだ。
「キスした?」
「………してない」
「嘘ついたね」
千里は葵に口づけを強制した。葵は喉を上下させると千里を押し返す。
「ごほっ…だっ…唾液…ごほごほっ…入れるなっ…む…っ…むせ…ごほっ…るっ…」
うわぁ。
洸祈はどうしようもなくなっていた。このままでは弟と親友の濡れ場行きではないか。
「入れられた?」
酷な質問。
葵は咳をしつつ答えた。
「…………………た」
……入れられた。
「そのまま?」
…………………………こくり。
負のオーラが…
「口には?」
…………………………………。
「葵!」
千里は葵を揺する。
虐めじゃないか。
「ちぃ、やめ―」
「洸、黙って。葵、言わないなら僕は今すぐ慣らすこともせずに突くよ?仕事ですっごい溜まってるから」
これは無理にでも止めようか。
思案する洸祈の前で千里は笑みを消して葵を真っ直ぐ見た。すっとズボンから入る千里の指先。
「あんっ…」
色っぽいを通り越した声を葵は出した。
「飲んだの?」
水の音。
「んっ」
力が抜けて無防備の葵。
つつかれると直ぐ力が入らなくな…ね。
洸祈は席を立った。
後は二人の問題。葵は多分、拒絶はしていない。きっと、好きな人に言いたいことがあるはずだ。それを千里なら引き出せる。
もう寝ようかと考えた時だった。
「洸、榎楠ホールに行きなよ」
何でさ。
「今1時45分。俺は寝る。朝まで問題を残すなよ」
「分かったから榎楠ホールに行ってよ。2時30分までに」
だから何でだよ。
半泣き状態の葵に追い討ちを掛けながらもこちらを気にする。
あー、今日の千里は強情だ。
「琉雨や呉を起こすなよ。直ぐ帰るから」
「んー」