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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
感じる意味。謝る理由。 【R15】
157/400

痛み分け

ぐずるのは(あおい)

「こぉ…きぃ…」

慰めるは洸祈(こうき)

「もー泣くなよ。葵、兄ちゃんがここにいるからな」

洸祈の膝から降りた葵はベランダへの窓に寄り…

「もう俺…生きてけない……」

「早まるなよ!」

慌てて洸祈は捕まえた。

「だってぇ…千里(せんり)にバレたら」

「目ぇ真っ赤に腫らしてたらバレるわな」

兎の目だ。

千里が仕事から帰ってくるのは約2時間後。

「先ずはその目冷そうな?」

「うぅ」



洸祈と葵の20歳の誕生日に用心屋で盛大なパーティーが行われた後、葵は千里とホテルに泊まった。

まぁそこで何があったかは置いといて次の日…―

『昨日は誕生日だったんだから僕が仕事に行くよ』

と、くたくたな葵とは対称的な千里がにこやかに部屋を出ていったのは昨日。そしてその日、久し振りにやってきた―無事民間の病院で医者となった―都月(つづき)と一緒に酒を飲みに出掛け、洸祈は琉雨(るう)に緊急事態と騒がれたので急遽店に戻り、葵は置いてきた。

緊急事態は「お店が停電です!」と言う、店の電球が切れていただけだった。

翌日、つまり今日、葵が帰ってこないので都月に訊けば、今朝別れたとのこと。

やっと帰って来たと思えば…―


愛しの弟がいささか乱暴に遭いました。


「琉雨、何にもなかったかのように振る舞うんだぞ?」

「はい」

腫らした目に冷やしたタオルを乗せた葵を労るように見詰めた琉雨は洸祈の言葉に頷く。

「お前達もだ。金、伊予」

葵の両サイドを陣取った金柑(きんかん)伊予柑(いよかん)が片耳を立てた。



「ご苦労だったな」

「うん、ただいま」

「洸兄ちゃん、ただいま!」

「お帰り」


「たっだいまー」

「ただいまです」

千里の声がリビングに響いた。続いて(くれ)が入る。

「千里さん、呉君、二人ともお帰りなさい」

琉雨の笑み。

台所に立った彼女は洸祈に目配せした。千里達の後ろで洸祈は然り気無くピースを見せる。すろと、琉雨は軽く頷いた。

さて、金柑と伊予柑はお休み中。洸祈も琉雨も普段通りを見せている。

いつもと変わらない……―


「…………おかえり」


葵だ。

琉雨の隣で夕食の手伝いの葵は完全に動きを止め、手元のジャガイモと包丁を見詰めてポツリと言った。

知られたくないはずの当の本人、葵があれだ。当然、千里はおかしさに気付く。

「あお?」

あ…震えた。

明らかに挙動不審。

千里はコートを自分の椅子に掛けると台所に回った。

琉雨がごくりと唾を飲んで洸祈に目線を向ける。ありゃ無理だと洸祈は首を竦めた。呉はどうしたんですか?と事情を知ってると判断した洸祈の隣に腰掛ける。

「多分、葵が白状するさ」

と言う予想は当たった。



「あお、どうしたの?」

びくっ。

震える葵。

千里がそっと俯いた葵を体を傾けて見上げると、葵は目尻に涙を溜めながら手元を見詰めて堪えていた。

「…………」

手からジャガイモと包丁を離させた千里は、葵の体の向きを自らの正面を向かせて優しく抱き寄せる。

「あお、泣きたいなら泣いていいんだよ?」

琉雨が気をきかせてその場を離れた。

「理由は訊かないからさ」

と、翡翠が洸祈を捉える。

事情通は見極め済みだった。

「…せん……りっ…」

堪えきれずに零れた雫が千里の胸にシミを作った。

静かな時間。

千里が葵の背中を擦る際の衣擦れの音に嗚咽が混じる。

そして、約30分。その場に崩れ、千里に撫でられながら泣き続けた後、ふっと葵は千里の腕の中で眠りに落ちた。




葵をソファーに寝かせた千里は洸祈を台所に引き摺り込んだ。

「洸、何?どうしたの?」

呉と琉雨が小音でテレビを見ながら見守られている葵の寝顔を見詰めて千里は問う。

洸祈はしょうがないと葵からやっとこさ聞き出した話を話始めた。


「…ごー…かん…に…」

「ち…ちぃ!!首!!!!」

マジで絞まる。

目が据わった千里は洸祈の胸ぐらを掴み上げていた。洸祈はどうにかその手から逃げる。

「なん…で…?」

「酒飲んでたから動けなかったって。何かもごってたけど…」

「あおはつつかれると直ぐ力が入らなくなるからだよ」

千里は満更でもない顔で経験から知り得たことを語った。

つつかれるって…。

「僕ねぇ、今すぐあおを無茶苦茶にしたい」

「俺に言うなよ。葵すっげー堪えてるんだからやめとけ」

……………………………………。

「知ってるよ!!」

お怒りモードの千里。

「あんな顔……」

ですよね。洸祈も何となく分かる気がする。

「相手の顔覚えてないの?」

「暗くて分かんなかったって」

あ、想像してる。

千里が暗がりのあおは渋らないからさいこーなんだよ…と眉をしかめていた。

「何処で?」

質問は続く。

「やめろ」

それを洸祈は一言で切った。

「無意味だって?」

違う。そうじゃない。

「危ない」

「危なくないよ!だって…あおが…葵が…!!」

あ……陽季(はるき)

陽季の顔が見える。

あいつも俺をこうやって見てくれた。

「ちーい。泣きたいなら泣いていいんだよ?だろ」

「……ばーか。あおにだけの取って置き…だよ…」

「じゃあ……泣けよ、ちぃ」

お前は命令形が丁度いい。

「……………こー…」



「はい、追加」

「千里さん……」

泣きじゃくった千里は洸祈の腕の中で眠りに落ち、葵と反対のソファーに寝かされた。

……………………………………。

「葵兄ちゃん、大変でしたね」

「あぁ、千里もな」

相当の痛手だ。

二つある3人掛けソファーが二つとも使用中なので1人掛けソファーに膝に呉で洸祈が座っていた。

琉雨は止まっていた夕食作りの再開だ。

「傷はいつか治りますよね」

「直ぐに治るよ。なんせ、我が儘なちぃにツンデレの葵だから」

「我が儘は分かりますが…つ…ツンデレ?今時の流行語は全くです」

洸祈の歳をその昔に軽く越している呉は首を傾げた。

「ツンツンにデレデレさ。時にはツンと素っ気なく時にはデレッと愛らしい」

「洸兄ちゃん流石です。因みに洸兄ちゃんは何ですか?」

…………………。

「…冷静沈着かな」

「旦那様はオールコンだとか」

琉雨登場。

オールコン?新語?

「陽季さんが」

あぁ…陽季ね。

「で?オールコンって?」

「マザコン、ファザコン、ブラコン、シスコン、ロリコンそれら全ての総称だとか…って」

陽季…。

確かに認めるが周りに言うな!

と、言いたい。

「ご飯直ぐ出来ますが、葵さんと千里さんのはもう用意しますか?」

「いや、ぐっすりだからさ、食いたい言ったら俺がその時用意する」

「はい」



「洸兄ちゃん、マザコン、ファザコン、ブラコン、シスコンは分かりますが、ロリコンは…」

「ロリータ・コンプレックス。意味は知らなくてよし」

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