きみのこと(2.5)
「厭だ!」
秋が咳をし、胸を強く押さえて叫ぶ。
「秋君、私がずっと傍にいるから」
「厭だ!」
暴れ、踵を返した彼を冬が掴まえた。
「ほんの数週間検査入院するだけだ」
「俺は行かない!」
「もう学校にも連絡した。山崎先生も来るなと言っていた」
「あの野郎なんか知るかよ!」
冬の手を払った秋は、しかし、退路を千鶴と冬に奪われたことを悟ってその場に踞る。
「秋君の為なんだよ?」
「俺は病院なんて行かない」
「どうして…」
言いかけたところで冬の言葉が途絶えた。秋と彼の視線が絡み合う。
「あれか?」
「俺は絶対に行かない」
「千鶴ちゃんがずっと付いてるんだぞ?」
「薬飲んでれば治るんだ!」
全てを認めたくないと言うように秋は床に向かって怒鳴った。
彼は階段上から夏がパジャマ姿で見下ろしているのにも気付かずに続ける。
「ほっとけよ!!」
「秋!いうことをき―」
「秋、お前、びょーきなわけ?」
夏がふらふらと階段を降りてきた。虚ろな瞳の彼。
それを見て、秋が怯えたように後退りをする。
「夏…近寄るな」
「びょーき…秋は…びょーき」
「近寄るな!」
「びょーき…びょーき…」
狂ったように夏は呟き、秋が触れたくないと言いたげに冬に助けを請いてすがった。
「夏、まだ夢遊病が治って…」
「兄貴、今日は僕が学校に連絡して夏を病院に連れていきます」
そこに春が現れ、夏の頭を撫でる。すると、彼は大人しくなって春の胸に崩れるようにして倒れたのだった。
「厭だ…病院は…厭だ…」
春と夏がリビングへと消え、静かになったその場で秋は縮こまり、冬は無言で外へと出ていってしまった。
家族という形を見失ったそこに千鶴はただ一人、秋を護るように抱き締める。