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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
残された者
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僕とぼく(2)

座敷に胡座をかいた洸祈(こうき)は食べ終わってふぅと息を吐いた。

「あ、それ旨そう」

洸祈が琉雨(るう)が頬張る胡麻たっぷりのムースを見詰めて言う。

「どうぞ、旦那様」

「いいのか?」

「はいっ」

琉雨が食べたスプーンを握って洸祈は一口食べた。胡麻の味が身に沁みる。

「マスター、旨い」

「黒胡麻の風味をより出す為に念入りに潰してんからなぁ」

うどん屋なのにカクテルを混ぜる自称“マスター”は、和風のお盆にさくらんぼを落としたカクテルグラスを乗せ、洸祈の前に置いて応えた。

「これ、ちょーだい」

「白胡麻の食いなよ。そんで、琉雨ちゃんにお返しすんだ」

と、食べ終わった食器を取りに来た自称“助手”は、琉雨の頭を撫でる。

「助手、軽々しく琉雨を撫でるな」

「へいへい。琉雨ちゃん、俺んので良ければ白胡麻奢るぞ?」

「本当ですか?」

黒胡麻のムースが大層気に入ったのだろう。

琉雨は見習い助手の白胡麻のムースに見事に食い付いた。助手はにやりと笑うと奥へと引っ込む。

「マスター、白ちょーだい。助手より旨い本物の味のやつ」

「あいよ」

マスターも奥へと引っ込んだ。


「お前らは駄目なのか?」

「僕らは禁酒のレッテルを額に貼ってるんだもん」

オレンジジュースをちょびちょび飲む千里(せんり)は膨れっ面をする。(あおい)はというと、千里の隣で慣れないカクテルに酔い潰れていた。

「お酒は駄目だよ!」

裏切られた気分の千里はその手に握られた傾くグラスを奪う。

すると、葵は…―

「う~…だめ…そこ…」

更に赤くなった頬。

もぞもぞと脚を擦り、色っぽい吐息を出して縮こまる。

「あ…せん…いい…」

「葵?」

まさか…と、洸祈が千里を見ると、千里は慌てて葵の口を封じた。

「あお!」

「―」

身を捩った葵は…


ぽふっ。


千里の膝に頭を乗せて眠るのだった。



「助手、マスターにはまだまだだ。あと、二百年は修行しな」

白胡麻のムースを食べ比べた洸祈はマスターのムースと琉雨の助手のムースを取っ替える。

「あー!てめえ!これは琉雨ちゃんにだ!!」

「不味いもん琉雨に食わせられっか!」

「旦那様酷いです!ルーは助手さんのを頂きます!」

琉雨の同情か優しさを買った助手のムースを琉雨は洸祈から奪った。

「琉雨!」

「旦那様がいけないんですっ」

琉雨に面と向かって否定されたことがかなりの痛手で、その後、すっかり落ち込んだ洸祈は(くれ)に背中を撫でられながらカクテルを飲みまくっていた。





帰り道、千里はキレかけていた。

両腕にアルコールに溺れた双子がしがみついていたからだ。

普段、昼食の席で洸祈が酔うなどよっぽどのことがない限りないのだが、琉雨の態度がかなり堪えた。彼は無茶苦茶に飲んだ挙げ句に酔っ払った。

「せんー」

「ちぃー」

お荷物を半ば引き摺って、苦笑いする少年少女の後ろをぷんすかと歩く。

「でも、旦那様、楽しまれていたようで嬉しいです」

「そうだね。ところでさ、今日の夕飯は何?」

「先日、ご近所の方にお使いの報酬で貰った新鮮なお野菜があるのでお鍋にしようかと」

「お鍋大好きです」

呉が琉雨の手を握ってにこにこと笑んだ。千里はそんな彼らを眺めて、双子を力を込めて引っ張る。

「僕も大好き。あおも大好き」

「旦那様も大好きだから」

「俺もぉ?」

酔ってべろんべろんの洸祈が少女に柔らかく抱きついた。

「洸兄ちゃん子供みたいです」

「本当に。旦那様、今日は旦那様も大好きなお鍋です。晩ご飯までに早く目を覚ましてくださいね」

呉が可笑しそうに肩を震わせ、琉雨は駄々っ子をあやすように洸祈の頭に触れた。すると、洸祈が小さく頷いてふらふらと歩き始める。

少女と青年の未だによく分からない位置関係に首を傾げながらも、千里は渋々、洸祈を支えに駆けた。



引っ張られて葵が意味不明な言葉を囁きながら足音を響かせている。

そして、今日も地域の住民達は用心屋の仲の良い姿に微笑んでいた。

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