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啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
残された者
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残された者(6)

氷羽(ひわ)ぁ」



その声の主は洸祈(こうき)

氷羽がつかつかと彼に近付く。そして、彼の腕の管を外すと、至福の笑みを溢した。

『今日はすっごい熱烈だった』

「氷羽ぁ。痛いんだよぉ」

『あの子も相当。千里(せんり)を傷付けないでよ、洸くん』

「だって、痛くて……」

ひっく…ひっく…。

『ちっちゃい洸くんも好きだよ』

駄々っ子をあやすように、千里であり、氷羽は洸祈を撫でた。

『もう。洸くんはぼくがいないとダメダメなんだから。ほら』

抱き付いた洸祈のパーカーの襟から手を忍ばせた氷羽が、背中を優しく撫で回す。

(あおい)も医者も動けなかった。

「ん!?……氷羽っ!!」

前に移動していたらしい手に反応した洸祈が体を縮める。

『そっちは駄目かぁ。意地悪』

氷羽は笑って手を出す。そして、細い指先を舌先で舐めた。

「助けてよぉ。氷羽、いないと死んじゃう」

『いつから、ぼくの回虫か何かになったの?洸くんは本当に理不尽だなぁ』

パーカーを開け、シャツを捲る氷羽。その瞳に鋭い光が射す。その眼光が洸祈の肩を震わした。

「氷羽、氷羽、氷羽っ」

逃げようとする洸祈の肩を押さえ付けた彼は、少し早く動く腹に鼻を近付け、嗅ぐ。

『いい匂い。暖かい太陽の匂いだ』

「氷羽、ごめんなさい。ごめんなさい」

『謝罪は嫌いだ。ぼくは前にも言ったよ。あー……今はやめとこ』

「氷羽って、まさか………………カミサマ?」

見詰めてきた氷羽を見て、葵は訊いた。

『ムカつく神様じゃない方のカミサマを言っているのなら』


ぼくはカミサマ。


「氷羽ぁ」

服の袖を引っ張る洸祈の方を向いた氷羽は、汗ばむ自らの額を腕で拭い、洸祈のパーカーを脱がせにかかった。

『分かってるよ。サプリメントみたいにガブガブ薬飲んでさ、洸くん、会いたいならそう言ってよ』

脱がしたパーカーを投げ捨て、シャツに手をかける。

「会いたかったよぉ。氷羽ぁ」

『間延びさせないでよ。で?望みは?』

シャツを脱がせ、上半身を裸にした氷羽は、洸祈を寝かせて自分も布団の上から添い寝をした。葵は何か言いたそうにするが、黙ったままだ。


洸祈の原因がここにいて言葉を語るのなら。洸祈が語らない真実をくれるはずだ。

そんなことを考えていたのは一体誰か。


「痛いのやぁ」

『自己責任。ほんとっ、ちっちゃい洸くんは千里よりお子様だね。我が儘で自分勝手。いつだって自己保身的な意地悪で最低な餓鬼。周りのことなんてこれっぽっちも。ただ、ヒトリが嫌で愛想良くして、それが慣れなくて薬で和らげて』

指先で洸祈の肩回りを撫でる氷羽。

「やだ…謝るから…許して…」

『もう、誰構わず脚を広げないなら許すよ』

「でも…」

どもった洸祈の股に、氷羽は布団の上から触れる。

「あ…」

『つくづく、洸くんって、売春好きでしょ。知らない人に弄られるの好きでしょ。誰でもいいから、セックスしたいんでしょ』

「やめろ!」

葵だ。

しかし、氷羽は彼を無視する。

『誘うような目。男なのにそそらされる四肢。女みたいにすべすべの肌。可愛くて、ヤりがいのある顔』

「ごめんなさい…許して…」

怯えきった洸祈は小さく震える。

『全てはぼくと交わる為。今日は調子がいい。いいよ、ぼくに広げてよ』

布団を剥いだ氷羽は彼の両足を広げた。洸祈は頬を真っ赤にして、両手で前を隠そうとする。

それを払い、足の間に膝を立てた氷羽は洸祈のチャックを鳴らした。

「いやだっ!」

「やめろ!氷羽!」

千里の体を弾いた葵は洸祈を守るように抱き抱える。頭を打ったらしい氷羽は葵を睨目上げた。

『ぼくか。可哀想に、千里は恋人に突き飛ばされ、頭をぶつけたのか』

「氷羽!」

理不尽な氷羽に葵は怒る。

『お前がぼくの名を呼ぶな!ぼくから洸くんを奪ったお前なんかに呼ばれたくない!』

それに、怒りを露にした氷羽は葵に明らかな敵意を向け、彼にぶつかっていった。それでも心の底に氷羽の言葉を引っ掛けた葵は、受身も取れずに頭から床に倒れた。

「君!」

医者が全てを放棄して、葵のもとに駆け寄る。流石に頭からは危険だ。

「君!君!」

「っ…」

『葵、教えてやるよ。ぼくはきみの千里の身体で、既に洸くんと交わっている』

氷羽はぶるぶると震える洸祈を胸に抱き、首筋に噛み付いた。そして、跳ねる体を撫で付け、嫌がる彼を俯せにして頭を布団に押し付けた。

「やだ!やだ!放して!氷羽!やだから放して!」

『放さない。洸くん、きみの全てを奪う約束だ。洸くんの偽物の世界なんか壊れてしまえ』

「謝るから!謝るから!俺の命で許して!誰も傷付けないで!氷羽!やめて!氷羽!」

『許さない!お前なんか―』


ばしっ…―


胸ぐらを掴まれ、引き上げられていた氷羽は強い平手打ちを受けていた。



「氷羽、やめなさい。早くお帰り。じゃないと―」

『り…お…』

唖然とその人物を見上げ、その名を呼ぶ。

「私も琉歌(るか)も君を許さない」

彼の前には璃央(りおう)が立っていた。

「千里に返しなさい」

『ど…して』

「氷羽」

璃央が氷羽の名を呼ぶと、氷羽は泣きそうな洸祈を寂しそうに見て、四肢から力が抜ける。

そして、璃央に凭れた千里の体から氷羽が消えた。

「千里、大丈夫か?」

「千里!」

心配そうに千里を見た璃央から葵が千里を取り上げ、力強く抱き締める。璃央はそんな二人をほっとした表情で見詰めると、洸祈の服を着せた。

「洸祈、お前は大丈夫か?」

「――」

「?」

「大丈夫じゃない!」

璃央がスーツなのも気にせずに洸祈は泣き付く。璃央は驚きもせずに洸祈の背中を黙って撫でた。

「お前、心、痛いんだよな」

仕事で離れ過ぎた。


『俺には無理なんや!知らないし知れんのや!俺には崇弥(たかや)の過去の傷を癒せんのや!』

『え?どうしたんですか?もっとゆっくり…―』

『助けて、助けてや!!崇弥を助けてや!!!!』


伝えようと必死に叫ぶ彼に圧倒され、まだ授業があると言うのに校長にいうだけ言って学校を飛び出していた。

「洸祈、治そう。頑張って、治そうか」



「……うん」

洸祈が小さく頷いた。

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