残された者(3)
「琉雨ちゃん」
息を切らした陽季は琉雨を抱き抱えた。
「旦那…さ…ま…」
「おやすみ」
眠る洸祈の手から琉雨の手を離すと、洸祈の部屋から出る。
「洸祈?駄目だよ!」
琉雨の部屋から出れば、洸祈がふらふらと廊下をさ迷っていた。陽季が声をかけると、洸祈は涙目で陽季に抱き付いた。
「洸祈?」
「怖いよ!助けて!一人にしないで!」
強く。
強く抱き付く。
「安心しろ…俺がいる」
「一人は矢駄よぉ…」
「いるから。俺がいるから」
そっと頭を撫でてやると、ぐずるのをやめた。
「は…るぅ…き?」
「うん。俺は陽季」
洸祈は一度起きて目が覚めたのか、ベッドに腰掛けた陽季にへばりつく。
「はるきっ」
洸祈は、ニコニコと笑顔を見せた。
「うん。何?洸祈」
「こ…き?」
「洸祈はお前」
「俺ぇ?俺、こーき?」
「洸祈」
「俺、こうきっ。はるきははるきっ」
そして、ぼーっと天井を見上げた洸祈はベッドに捨ててあった犬のぬいぐるみを抱えて隅に踞る。
「洸祈?」
「………………」
ぽてっと転がった洸祈は陽季に背を向けて寝息を発て始めた。
「寝た…?」
「ひ…わぁ…?」
「洸祈?」
寝たかと思えば、ぬいぐるみに話し掛けている。
「おかえりぃ」
ぬいぐるみの頭を撫でて言う。
「あの人にぃ…やられたのぉ?」
困惑する陽季の前で、洸祈はぬいぐるみを抱き締めた。
「だいじょーぶ。ひわは俺がぁ…守るぅ」
「しっかりしろよ!」
「ひわはぁ…俺がぁ…守るぅ」
「洸祈!」
「ひわ…ごめん…ごめん…ごめん…ごめん…ごめん…ごめん…ごめん―」
「洸祈っ!」
陽季は洸祈からぬいぐるみを放して、肩を押さえてベッドに縫い付けた。
「俺を見ろよ!忘れたのか?陽季も夕霧も!」
「知ってるのは俺だけ。氷羽は俺が殺した。今死んだ。今死んだ。今死んだ。氷羽が死んだ。死んだ。死んだ。俺が殺した。氷羽は恋人。俺の恋人。愛してた。氷羽を愛してた。俺は愛してた。氷羽は俺を殺したい。殺したい。殺したい。俺は殺されたい。殺されたい。殺されたい。殺されたい。殺されたい。殺されたい。殺されたい」
「洸祈っ…」
陽季はぎゅっと洸祈を抱き締めた。
「氷羽…俺を…殺して」
つぅっと流れ落ちる洸祈の涙。
「氷羽じゃないよ…陽季だよ」
苦しそうな顔をして頭を抱き抱えた陽季は洸祈の耳許に囁いた。