表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
啼く鳥の謳う物語2  作者: フタトキ
残された者
141/400

残された者(2.5)

「旦那様!」

琉雨(るう)洸祈(こうき)に抱き付いた。しかし、洸祈は不思議そうに琉雨を見下ろして、なんとなくという表情で琉雨の頭を撫でる。

「旦那様?」

「琉雨、ちょっと」

俺は琉雨を呼んだ。

琉雨はそっと洸祈から離れる。

「あの…」

「暫くあの状態なんだ。だから、仕事はできない。今は千里(せんり)(くれ)もいないから、店を閉めよう?」

「……はい」

揺り椅子に座った洸祈を見詰めて、琉雨は頷いた。




「洸祈、食べないの?」

「いらない」

言葉は通じるようになったが、洸祈は琉雨の作った食事の前で拒む。

「琉雨が作ったんだよ?おいしいよ?」

「いらない」

いつもは沢山食べるくせに!

「洸祈!」

俺は洸祈に怒鳴っていた。

びくりと肩を震わせる洸祈。

そんなもの知るかと、俺は洸祈の胸ぐらを掴む。

(あおい)さん!!」

琉雨が止めに入るが、俺もその日は精神的に疲れていた。

だから…。

「琉雨の苦労を知れ!治りたいなら食べろよ!!」

そして、

「やめて下さい!いいんです!無理はさせないで!!」

洸祈と琉雨を泣かせた。




はぁ。

「どーしたの?」

「俺…って…バカ?」

ぱちぱち。

千里が驚く。

「僕と寝ようって時に考えていたのは自分は馬鹿なのか?と…校内首席のあおが?」

「悪かったな。お前と寝ようって時に校内首席が自分は馬鹿なのか?と考えて」

「いいよ。別に」

笑みを溢して、千里は俺の頬に軽くキスをした。

「僕はそんなあおが愛しいんだから」

平気でお前はそういうことを言う。

恥ずかしい奴だ。

「で?どうしたの?」

「洸祈が心配で」

陽季(はるき)さん、来てくれるんでしょ?」

ベッドに腰掛けた俺を抱き締め、泣く子をあやすようにゆっくりと揺らしながら話す。

「俺、泣かせた。琉雨まで泣かせた」

分かってる。

洸祈を自宅で治療すると決めたのは俺だ。

「ほんと…俺って馬鹿だ…」

「洸の原因ってストレスなんでしょ?泣かせた方がいいよ。琉雨ちゃんは洸とほぼ一心同体だから」

皆、洸祈を心配してる。

だけど、そうじゃなくて、

「だって…いつもは琉雨のご飯、沢山食べるくせにって思った…」

「それがどうしたの?」

「俺は、今になって洸祈がご飯の量が少ないことに異常を感じたんだ!」

つまり、俺は洸祈の異常に気付いた。確かに少ないとは思っていたが、俺は今更、洸祈に怒鳴ったのだ。

そんな俺は…なんて…―

「馬鹿!!」

ばふっ。

布団を俺は強く叩く。

「洸祈が泣いたのが分かる気がして嫌なんだ!」

どうして今になって責めるの?

気付いてくれなかったくせに。

いつも、葵は怒るんだ。

「俺は家族なのかよ!分かんないよ!!」

分かんない。

俺と洸祈は違う。

洸祈より弱い。

洸祈より頭が良い。

洸祈より思いやりがない。

洸祈より家事ができる。

洸祈よりかっこよくない。

確かに、俺にだって洸祈にない長所がある。

だけど、いつだって決まっていることだあったんだ。


「俺は洸祈の半歩後ろだ!だから、分かんなくていいんだ!…だけどっ」


嫌なんだ。


分かってしまいそうで。

本当に洸祈の原因は氷羽(ひわ)と言う人間なのか?

本当にそうなのか?


ストレスの原因は…―




俺達じゃないのか?




分かってしまいそうな馬鹿な俺がいる。


千里はよく分からないのか、俺が言ったことを繰り返している。


俺もああなりたい。


「もう…いい。寝んぞ…千里」

俺は困惑する千里を置いて、布団に潜り込んだ。

起きていたら、また、馬鹿なことを真面目に考えてしまう。

「あお…」

叫び過ぎた。


喉が痛い。



「泣かないで」

千里は俺が眠るまで撫でていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ